1-12. 海水浴
何日か経った晴れた日、中学生たちと島の浜辺に海水浴に来た。
まあ、浜辺にはしょっちゅう来るけどね。夏休みだし、いつもならライセンス取ったばかりでダンジョン参りもあったのだけど、今は生憎中学生はダンジョン禁止になってしまったので、やることが減ってしまったしね。
私は今日も午前中は舞いの練習をしてた。少しは、上達したと思う。もうすぐ夏祭りだけど、多分大丈夫。
昨日は、中学生女子組、つまり麗奈ちゃんと花蓮ちゃんと瑞希ちゃんの3人と、おニューの水着を買いに行っていた。実際に買ったのは、中学生になったばかりの瑞希ちゃんと私だけだったけど、4人での買い物は賑やかで楽しかったよ。
と言うことで、お昼過ぎに御殿前で集合した私たちは、元気よく浜辺に向けて出発した。
海水浴で使っている浜辺は、御殿からダンジョンの方に少し歩いたあと、右に曲がって真っ直ぐ行ったところにある。ちょうど島の南北方向の真ん中くらいの東に位置している。たまにダンジョンからの魔獣が出ることがあるので、盾は各自持ってきてもらった。瑞希ちゃんと私は戦闘要員だけど、剣は転送できるようになったし、力で防御障壁出せるので、手で持っていく必要のあるものはない。
浜辺までの道中は、特に問題となることもなく、無事にたどり着けた。
この浜辺は、島の中でも、ちょっと入り江のように凹んだようなところにあるためか、砂浜になっている。とは言え、海に入れば珊瑚礁などもあり、怪我しやすいので、履き物が必要だ。なので、皆、海の中でも問題のないマリンシューズを履いている。
辺りは、背の高い草が生い茂っているが、浜辺の砂浜が途切れる辺りに、木が二本生えている。いまは昼を過ぎているので、木の陰が浜辺の方に伸びていて、日除けに丁度良い感じになっていた。
パーカーなどを羽織ってきたときは、ここで脱いで、木の低い枝に掛けられる。と言っても、ここでは大体日焼け防止などのこともあり、上にTシャツを着たまま泳いだりするのが普通だから、今日は掛けている人はいない。男の子たちは、皆柄物の短パンタイプの水着を着ていた。女子もみんな上にTシャツ着ていて見ただけでは分からないのだけど、買い物のときに聞いた通りなら、麗奈ちゃんは花柄のビキニ、花蓮ちゃんは薄青のワンピース、瑞希ちゃんはピンクのフリルの付いたセパレートの水着のハズ。私もTシャツ着ているので見えてないが、紅色のビキニなのだ。肌の上に防御障壁を展開していれば大丈夫なのだけど、まあ、ここは皆と一緒で。私が居れば、クラゲに刺されても治癒できちゃうのだけど、わざわざそんなリスクを冒す必要もないから、皆いつものようにTシャツを着ているのだ。
浜辺についてから、同性同士で、日焼け止めを塗りあった。そして私は、体を解してから、シュノーケルを持って海に入った。外気に比べて冷たい海の水が気持ちいい。沖合まで少し歩いていく。マリンシューズ越しに、足下がゴツゴツしているのが分かるが、深さは腰ぐらいまででそんなに深くはない。足下を見ると、透明な海の水越しに、海の底が見えている。
シュノーケルを付けて潜ってみる。ゴツゴツした岩肌やサンゴ礁にイソギンチャクが居たり、クマノミなど小さな魚が泳いでいたり、良く見えて楽しい。プカプカ浮きながら、海の中を覗いていると、波で動かされてしまうので、岩肌に手を掛けたりして動かないようにしながら水中の風景を見る。同じ場所を見ていても、魚が出入りしたり、イソギンチャクが揺れたり、見ていて飽きない。しばらくそうしてぼーっと光景を眺めていた。
もうそろそろ良いかな、と思って水中に足を付け、顔を上げて海岸を見ると、中学生たちはビーチボールで遊んでいた。
「おーい、柚葉さーん」
花蓮ちゃんに呼ばれた。
「はーい、やっほー」
返事をする。花蓮ちゃんは、私に向かって両手を上にあげた状態で手招きしていた。
「なにー?」
「ビーチバレーしましょうよー」
「良いよー」
ビーチバレーがやりたいのか、そうだよね、折角皆できたんだから、皆と遊ばないとね。
砂浜から見て2本の木の反対側のところに、ビーチバレーの道具一式が置いてある。わざわざこの島に盗みに来る人もいないだろうということで、置きっぱなしになっている。
ビーチバレーのネットのポールも立てたままだ。そこに保仁くんと卓哉くんがネットを掛けてくれた。麗奈ちゃんがボールに空気を入れ直して、自分の腕でボールが跳ねるか試していた。
「じゃあ、どう決めようか?」
「最初にゲームをやる4人を決めようよ。4人決めたら、チーム分けでどう?」
花蓮ちゃんが提案してくれた。
「それで良いよ」
と、卓哉くんが言った。他の皆の顔を見ても良さそうだったので、その案で進めることにする。
「じゃあ、じゃんけんで4人決める?」
「そうですね、勝ち抜けで」
私の問いかけに、花蓮ちゃんが応じる。
最初のじゃんけんで、麗奈ちゃんと私がチョキを出して勝ち抜けた。次は何度かあいこして、パーとグー。パーを出して勝ったのは、花蓮ちゃんと瑞希ちゃんだった。
「おー、皆女子だねぇ」
「チーム分けは?」
「勝ち抜けごとで良いんじゃない?」
何となくの流れで、花蓮ちゃんと瑞希ちゃん、麗奈ちゃんと私のペアになった。
「じゃあ、いつものように瑞希ちゃんは、ジャンプの時だけ、ちょっと力使って良いってことで。柚葉さんは、力使わないでくださいね」
はい、そういうルールなのね。確かに、瑞希ちゃん、一回り背が低いから、跳ぶのが大変ではある。
「男子は、審判お願いします」
「僕が主審やるよ」
私がお願いして、保仁くんが応じてくれた。卓哉くんと恭也が線審だ。
じゃんけんして、私たちが陣地決めで、瑞希ちゃん達がサーブになった。
「では、21点のワンゲームセットで試合をします。始めてください」
保仁くんの掛け声で、瑞希ちゃんがサーブの動きに入り、ゲームが始まった。大会なら2セット先取だけど、回転を速くするためにワンゲームで交代だ。
皆、よくやっているのか上手だった。瑞希ちゃんのジャンプアタックは、打点が高くて拾うのが大変だった。私も、それなりに頑張ったのだけど、砂地で足下が不安定なので、持ち前のパワーを活かしきれずに苦戦した。
「はい、21点対18点で、花蓮ちゃん、瑞希ちゃんチームの勝ち」
保仁くんが、試合の終了を宣言した。
「ありがとうございました」
試合をした女子たちは互いに礼をした。
負けた。うーん、砂地での立ち振る舞いに課題かなぁ。ちょっと気が散っていて、集中できなかったのも敗因かもしれない。
「ごめんね、麗奈ちゃん。足引っ張っちゃった」
「いえいえ。でも何か、柚葉さん、試合に集中できていなかったですよね?」
「ああ、分かっちゃった? そうなんだよね、ちょっと気になってしまって」
「何がですか?」
「そだね。皆に言った方が良いかな」
主審をしていた保仁くんのところに行き、皆を集める。
「あのですね。もう一試合したかったのですが、そうもしていられない状況になりまして、悪いんだけど、保仁くんたちはネットをしまってもらえる? 他の人も荷物をまとめて欲しいんだ」
皆は良く分からない顔をしていた。そうだよね、説明不足だよね。でも、瑞希ちゃんは気が付いたようだ。
「もしかして、魔獣ですか?」
「え?」
他の子は、魔獣が近づいているのに、呑気な会話をしていていいのか、という顔になった。
「まあ、まだ離れているけど、段々とこちらに近づいてきているようなんだよね。だから、迎え撃つ準備をした方が良いかなって」
「あとどれくらいで来そうですか?」
「そうねぇ、おおざっぱにしか言えないけど、10分くらい?」
「あのぅ、どれくらい離れている魔獣を探知しているのですか?」
「いまの魔獣は大体1kmくらいの距離かな?」
そうなのだ、先日のダンジョンでの戦い以降、力を意識して探知するようにしていたら、探知範囲がどんどん拡がっていったのだ。自分でも良く分からない。1kmなんて余裕なのだ。
ネットを外して、道具などを片付け、持ち物も集めて、盾を用意して、こちらの準備が完了したあとしばらくして、魔獣が浜辺に姿を現した。
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