1-11. 島の訓練

7月の最後の日曜日。若干の雲はあるが良く晴れた日。この日は、島の訓練の日になっている。

島の訓練は2か月に1回、奇数月の最後の日曜日に実施している。

この訓練は、避難訓練でもあるが、加えて魔獣が襲ってきたときに対処するための訓練も兼ねている。なので、避難訓練と戦闘訓練とを組み合わせて行う。

訓練は、朝9時の警報代わりの笛の音で始まる。笛が鳴ると、島の皆は御殿前の広場に集まって、班ごとに並ぶ。班は戦闘員の班と非戦闘員の班があり、戦闘員の班は1班から10班までの全部で十ある。一つの班の人数は、大体10人程度だ。非戦闘員は班分けせず、一塊になっている。

そうした班の人たちの並びに相対するように、南森家の大人たちが分家も含めて並ぶ。そこにさらに瑞希ちゃんと私が加わる。瑞希ちゃんと私は力が使えるので戦闘要員扱いだ。もっとも、力があっても小学生は非戦闘要員となっているので、瑞希ちゃんは、前に並ぶのは5月の訓練に続いて2度目だ。

全体のリーダーである隊長は、巫女であるお母さんだ。もともとこの島は、巫女とその従者によって拓かれたとされており、序列として巫女が最上位になっている。もちろん、身分制度は無いから、全員が同じ島民ではあるが、昔からの習わしは、今も引き継がれている。

訓練の進行はお父さんや分家の叔父さんたちが回り持ちでやっている。今日の訓練の進行はお父さんだった。

「皆さん、朝早くからお集まりいただきありがとうございます。本日の、避難訓練と戦闘訓練を開始いたします」

お父さんが開会を宣言した。

「続いて、隊長の挨拶です」

そして、お母さんの挨拶の始まりを告げる。巫女は複数いる場合もあるので、リーダーを明確にするために隊長と呼ぶことになっているらしい。昔から巫女が一人でも隊長と呼んでいたそうだ。

「皆さん、おはようございます。暑い中、お集まりいただきありがとうございます。毎度の訓練ではありますが、今回もよろしくお願いいたします。特に最近、ダンジョンの魔獣の様子がおかしくなっており、中学生のダンジョン探索を控えることとなっています。いつ何が起きるか分からないと考え、いざという時に行動できるよう、しっかり訓練をしていきたいと思います。本日もお願いいたします」

お母さんの挨拶が終わると、訓練が始まる。

訓練は班ごとに分かれ、けが人などの応急手当の方法などを確認したり、消火訓練をしたり、あるいは武器や盾の訓練をしたりする。非戦闘員の班は、応急手当や消火訓練をした後は、炊き出しを行うことになっている。

そして、大体11時半ころには、一通りの訓練が終わり、炊き出しのおにぎり作りなども完了する。そうすると、少し早めに炊き出しのおにぎりなどを食べてお昼にする。

午後はダンジョンに行っての実践訓練となる。実践訓練は、戦闘班のうち半分が実施することになっている。5月は1班から5班が実践訓練したので、今回は、6班から10班が実践訓練をする番となっている。

そんなことから、南森家の人々と6班から10班の人たちとで、ダンジョンに向かうのだが、ダンジョンに入るのは一つの班ずつとなっていて、他の班の人はダンジョンに向かう途中にある草原で武器の訓練をしていることになっている。

ダンジョンに入る班には、南森家の男の人が指揮者として付く。指揮者と班が固定してしまうと運用に支障が出るので、毎回変わることにしている。6班には訓練の司会進行をしていた人が付くこととなっており、今回はお父さんだ。以下、火、水、風、土の順番に分家の叔父さんが付く。なので、7班は祐太叔父さん、8班は蒼士叔父さん、9班は浩一郎叔父さん、10班は義之叔父さんだ。

さらに支援者として巫女の力を持つ者が付く。3月までは、お母さんと私が順番に付いていたが、5月から瑞希ちゃんが入ったので、瑞希ちゃんの訓練のためにすべての班に瑞希ちゃんが付き、お母さんと私が順番に瑞希ちゃんのサポート要員として付いて行くことになっていた。今回は、私が偶数の班のときのサポート、お母さんが奇数の班の時のサポートをやる。ちなみに、巫女の力を持つ人の役目は、基本的には防御と治癒だ。前面に出て戦うためではない。そうしてしまうと、治癒できる人がいなくなってしまう。もちろん、巫女の力は強いが、巫女だけに負荷が集中するのは良くないと島の人たちは考えている。だから、島の人たちは巫女だけに戦いを任せたりしないし、私たち巫女も、そんな島の人たちが戦うというときは、支援に専念することにしていた。

ダンジョンに入るときは、南森家の男の人が先頭で、その後班のメンバー、そして瑞希ちゃんに瑞希ちゃんのサポート要員。6班のときは、お父さんが先頭で、私が最後だ。


実践訓練は6班から開始となった。お父さんを先頭にダンジョンの中に入っていく。先日私たちがダンジョンに入ったときのように、皆ライト付きのヘルメットを被っている。そして、大体の人が盾と剣。たまに盾と槍を持っていた。瑞希ちゃんと私は、何もなくても良かったのだけど、これまでの訓練のときと同様に剣を持っていた。そう、武器は、大体が剣か槍だ。御殿の像には、弓を持った従者がいたので、昔は弓を使う人がいたのかも知れないが、いまの島の人たちには弓を使う人はいない。また、銃も使っていない。銃は、弾がダンジョン内の岩に跳ねてどこに跳んでいくか分からないし、魔獣に接近戦を挑んでいる人たちに誤射してしまう可能性もあるし、ある程度以上大きな魔獣には効き目も弱いということもあり、魔獣相手には使わないことになっている。それが世の中一般的な流れであって、ダンジョン探索ライセンス保持者のたとえA級でも、それだからといって銃の保持は許可されていない。

私は、ダンジョンの中に入ると、中の様子を一通り探った。今日は、問題になりそうな魔獣が群れているようなところは無さそうだった。そうであれば、基本は瑞希ちゃんに任せよう。

お父さんが、入り口から一番近いところにいる魔獣を見つけた。

振り返って小さい声で話す。

「魔獣がいたぞ」

班のメンバーに緊張が走る。

「大丈夫、中型です」

瑞希ちゃんも見つけたようだ。

「ここは少し広いから、5人で盾を並べて進むぞ」

お父さんの指示により、前に5人が横に並んで盾を前に出し、盾の壁を作ってから一緒に前に進み始める。

魔獣が向かってきたが、盾ではさみ、盾の間から剣を突き刺して魔獣を斃した。瑞希ちゃんの出番がなかったね、残念。

斃した魔獣は、持ち歩き用の袋に入れ、担ぎ棒にぶら下げて、二人で担ぐ。

そしてさらに前に進む。今度は、前回戦闘に加わらなかった五人が前に出て魔獣と戦い、勝利した。

「今回も問題なく斃せたな」

「まあ、相手は一頭だけだからな」

班の誰か二人が話していた。

「これで今日の6班の実践訓練は終わりだな」

お父さんが言うと、もう一頭も運ぶ準備をしてから、撤退を開始した。そして、他の班が待機していた草原まで戻ると、7班に交代した。

7班が実践訓練でやることは、基本的には6班と同じだ。6班が、ダンジョンに入ってから一番手前の魔獣を斃したので、7班はその先の奥にいる魔獣を2頭斃してから草原まで戻ってきた。さらに、8班から10班まで、順に交代してダンジョン内での実践訓練を実施し、今日のすべての訓練を終えた。

「瑞希ちゃん、お疲れ様」

10班と一緒の実践訓練から草原に戻ってきたところで、瑞希ちゃんを労った。

「全部の班の訓練に付き合うのは大変だったでしょう」

「いえ、今日は、どの班もきっちり魔獣を斃されていたので、私は全然出番が無かったです」

「まあ、付いて行くだけでも大変だけど、出番が無いと支援の練習にはならないわね」

「そうなのですよね」

一瞬、瑞希ちゃんと二人でダンジョンに入って訓練しようかとも思ったけど、いまここで勝手な行動するのもどうかと考えて、思いとどまった。

「今日は仕方がないから、今度、二人で訓練しに行きましょう」

「ありがとうございます、柚葉さん」

瑞希ちゃんが嬉しそうに言ってくれた。

この日の訓練は、草原から班ごとに隊列を組んで、御殿前の広場まで戻り、挨拶して解散となった。

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