第17話 スーパードクターSSK (最終編)
その夜、突然にSSKが病室に訪れた。
カーテンを少し開けて半身でのぞき込んでいる。
「・・・・・・三木さん」
「はい?」
直接来ると思っていなかったので、少し驚いたが、冷静に対応する。
「今日は転院の調整は難しいです。相手のある事なので」
「ええ、分かっていますよ」
それから少しの沈黙。
「あなたに1つ教えたいことがある」
突然何か言い始めたので、いらっとする。私はあなたに教わることなど何一つ無いと思っている。
「何かをした時は何かを犠牲にするんです」
名言でも何でも無いなぁ。
「私は今日16時から会議だったんです。でも、あなたたちが無理矢理ねじ込んだから、壊してしまったんです」
「壊してしまった」って言葉のチョイスが、メチャクチャ狂ってる。頭が悪いのかな?それとも頭が悪いのかな?
どっちかで間違いないか。
「ですが、先生が面会時間の14時から16時までなら時間を取ると言ったじゃ無いですか?会議が16時からなら、15時半までと言えば良かったんじゃないですか?」
外来の様子を見ると、他の部署に比べてガラガラだったから、全然可能だと、ここの看護だった妻が、始まる前に言っていた。それは午前中の勤務で、妻の病院の医師に聞いても同じ意見だった。「あそこなら、もっと暇だろう?」と。
暇とまでは思わないが、本当にガラガラだった。
私が指摘すると、またしても「だ!が!」と何か呻く。
そして、自分では怖いと思っているのだろう目で私を見る。
「私は犠牲を払ったんです!!もう2度と非常識なことはしないでもらいたい!!」
即座に言い返そうと思った。
「それって先生の都合ですよね」と。
「先生は会議に出られなかった犠牲(この犠牲という言葉をチョイスする辺りが痛々しい)を払ったとして、では患者はどうなのか?!もっと大きな犠牲を払っている!!自身の体、仕事。経済的な犠牲も!!家族も犠牲を払っている!!あなたの言う犠牲など、患者からすれば知ったことではない!!あなたは医師としてすべき事を何一つしなかったではないか!!あまつさえ患者家族を非常識とののしり怒鳴って睨み付けた。それを私が許すと思うか?!全ての患者、そしてその家族が、あの場で発したあなたの言葉を許すと思うか!!」
言ってやろうと思った。だが、ここは病室で4人部屋。
ここで突っかかっても意味が無いし、無駄な労力になると分かっていた。
そもそも、私にはこの男の性格改善に寄与してやる責任はない。
「ああ、はいはい」
おざなりに答えて終わらせた。
「三木さんが私を信頼できないのであれば主治医を交代することで良いですか?」
「はい、当然お願いします」
SSKは、多分自分の中では「最後に言ってやった」と思って溜飲を下げたのだろう。まあいい。
ICの時、退室する時の看護師たちの態度から、どれだけ嫌われているかが十分わかった。
件の看護師の態度も「またあの先生だ」と思っての態度ならまあ、許せるというものである。
妻はICが終わってから、楽しそうに笑った。
「本当。何年ぶりに怒ったんだろうね」
私が相手に怒って見せたことを面白がっている。私としては「妻のために怒った」と言った辺りに何か感じないのかと憮然とするが、まあ、言わないなりに分かっているのだろう。
しかし、本当にどれだけ振りに他人に怒っただろうか・・・・・・。
翌日の昼に、新たな主治医が病室にやって来た。
とても若く、20代だろう。細くて背が高く、「イケメン」と言えば言い過ぎかも知れないが、間違いとも言えないだろう。今時風に前髪を斜めに流している。
この新しい主治医だが、身振り手振り、例え話を交えながら、相手に分かるように状態やこれからの治療過程等を細かく教えてくれた。ちゃんと患者に触って、患者の話を聞きながらである。
この先生なら任せられると思わせるに充分だった。
なので、転院は無しにして、同じ病院で入院することにした。
あ、ちなみの、この先生に尋ねたら、取り過ぎなければ甘い飲み物もOKだそうです。さっそくココアを飲みました。
現在は入院5日目の金曜日。ようやくおかゆを食べられるようになったが、楽に食べられる訳ではないので、固形物はまだ先かも知れない。
そして、同じ病院内なのでまたSSKと顔を合わせるかも知れないが、それはそれで楽しみである。
以上で、今回の話は終わりとなります。
面白い話として紹介しましたが、実際は本当に恐ろしい話です。
人怖どころでは無いです。
なぜなら、あんな人物が医者ですから、何時皆さんがSSKを主治医にするとも限りません。
このSSKの話を、妻が現在務めている病院の医師に話したところ、実に面白がられましたが、界隈では有名な、無能で変人で、何言ってるのか分からない藪医者だそうです。
その病院の関係者の身内が、祖父が胃がんで外科手術する前の処置をする為に内科に紹介されたが、消化器内科の主治医が不運にもSSKに当たってしまい、何と一週間も放置されたそうです。
で、患者が怒って転院したのだという。
話を盛っていると思うでしょ?
全く盛っていませんよ。それどころかこのSSKの異常さは伝えきれていないと思います。表情や佇まい、仕草、一つ一つが、有り体に言えば「不愉快」。
今は、主治医がとても良い先生に代わって笑い話に出来ました。
だが、恐ろしいのは、このスーパードクターSSKはこの地域で最大の救急病院の消化器内科の医長の立場にあるのです。これが医療現場の闇なのか・・・・・・。
皆さん。お体には、くれぐれもお気を付け下さい。
決してこの医者に当たらぬように気を付けて下さい。
すみません。次回はちゃんと302号室の話を投稿します。
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