第18話 302号室 其の3

 連絡もせずに実家に帰って、妹の位牌を確認しようとした。

 だが、実家に行くと、偶々来客中だった。

 欲は知らないが親戚筋だと説明された気がする。興味なく聞いたのと、ほとんど親戚付き合いがないのでうろ覚えである。

 

 ただ、その人は気功の先生に弟子入りしているとかで、(宗教関係では全くない)体の具合が悪い私に、気功を試してみようと言う事になった。

 全く信じていなかったのだが、その人が背後に立った瞬間、髪の毛が逆立つような感じがして、頭から体の中心に電気が走ったような感覚があった。漫画的なイメージにするならば、稲妻に貫かれた表現になるだろう。

 その人は私の頭上に手をかざして気を流しただけだと言うが、私はそんな事知らないまま、思わず頭上を見上げた。

 私も驚いたが、向こうも驚いていた。

「君は敏感だね。ここまで反応が早い人は初めて見ましたよ」

 その人は笑っていた。

 

 その人の話はそれだけで、「自分はまだまだ初心者だから詳しい事はわからないけど、気功の本とかあるから探して読んでごらん」と勧められた。壷とか買う話にならないで良かった。


 ともあれ、私はそれで、「気」というものが実際にあるのだと知った。


 それから位牌の方は、ちゃんとあったので、手を合わせて302号室に戻った。

 

 本屋で適当に買った「気」の本を読んだりして自分で試すと、不思議な事に膝の痛みは引いて来た。これは実際に気の効果なのか、別の要因かわからない。

 気を知った事と、この頃、心霊体験に関して、考え方を改める様になった2つの変化があったからである。


 考え方を改めたきっかけは、霊との対話で、意外にも子どもが来る日が多かったとわかったからである。

 子どもの霊など、とても可哀想に思えて、怖いという感覚がなくなった。

「淋しいなら好きなだけ家に来ても良いよ」

 そんな心境になったのだ。


 そうしたら、他の霊も、別に拒まなくなってしまった。慣れもある。


 霊による金縛りと、半覚醒による金縛りの違いもわかるようになった。

 半覚醒の金縛りは、はっきり言ってリアルな夢でしかない。体を動かそうとするが動かない。周りの景色は見えるが目しか動かない。

 これは夢である。夢とわかって目覚めるがまだ動かない。これを繰り返す夢もある。はっきり言ってとても疲れるし、頭がこんがらがる面倒くさい夢である。


 心霊の金縛りは、実は結構動ける。

 慣れるまでは怖かったが、慣れてしまえば、夢の方が疲れるし混乱するから嫌である。

 金縛りの解除は、力業でどうとでもなる。

 はっきりと霊を見る事はほぼ無く、「何かいる」、「気配がする」、「何か言われる」と言う事がある。

 手や足を引っ張られた事もあるが、大して強い力ではないので、嫌になったら「よいしょ」と振り払えばそれで終わる。

 

 慣れてしまった私は、「またか」ぐらいに思って、ある程度好きにさせる様になった。


 子どもがフラフラやって来た時は、一緒にテレビを見たりゲームするのに付き合って貰ったりしたのはちょっと笑える。

 ベッドに座ってテレビを見たりするのだが、「そなとこにいないでこっちにおいでよ」と私の隣を叩くと、そこが軽く沈んで座ったのがわかる。

 膝に座ってくる甘えん坊もいる。


 まあ、ちょっと嫌な思いも増えたが、あまり気にしないようになった。

 嫌な思いとは、具合が悪くなったり、見なくても良いものを見る事が多くなった事である。

 妖怪大首を知っているだろうか?ただじ~~っと見つめてくる巨大な顔の妖怪。生き霊に近いのかとも思うが、窓いっぱいに大きな顔を職場で見た事もあった。

 302号室では、たぶんおじいちゃんだが、寝ようとすると、ベッドを揺らす。飛び跳ねてでもいるのか、微妙に浮き沈みするのだ。大した力じゃないから、気にしなければ眠れる。


 そんな事になったのだ。

 

 

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