第9話 空耳

 現在の我が家でも、時々不思議な事が起こる。

 

 今は、実際に見たりする事はほとんど無いはずなのだが、チラチラ視界に何か入る事もある。


 ただし、音は頻繁に起こっている。

 所謂ラップ音。

 誰かが、階段を駆け下りてきたり、ドアを閉める音がしたりも珍しくは無い。


 普通のラップ音は、もはや私は全く気にもとめないし、妻も慣れてしまっている。


 そうした物音が増えると、「お客さん来ている?」なんて言われる。

 我が家では、怪現象を起こす何かを「お客さん」と呼んでいるくらいだ。



 そんな中、こんな事があった。

 同じ日の事なのだが、2階に私が、1階に妻がいて、私は小説を執筆していた。

 すると、妻が下の階から大きな声で呼ぶので、どうしたのか下の階に行くと、妻に言われた。

「ねえ、何?」

 私は戸惑う。何はこっちの台詞だ。なぜ呼ばれたのかと思ったのだが・・・・・・。

「いや、そっちが呼んだんでしょ?」

 そう言うと、妻はキョトンとする。

「今、カイタさんが私の事呼んだでしょ?」

「ええ?こっちは何も言ってないよ?」

 私が答える。

「あれ?私は声を掛けられたから、何かと思って呼んだの」


 どうも、妻は、私が声を掛けてきたのに、それ以上何も言われなかったので、どうしたのかと思って私を呼んだと言う事だ。


 とぼけたものだと、互いに気にする事もなく、再びそれぞれの趣味に取りかかる。




 しばらくすると、書斎のドアを開ける音がする。私はパソコンに注視している。

「ねえねえ、カイタさん」

 と、はっきり声を掛けられたので、私は振り返ったが、ドアは開いておらず、妻の姿も無い。


 そこで、私は下の階に行ってみると、妻は自分の趣味に取り組んでいた。

「何か用があったの?」

 と尋ねると、やはり妻はキョトンとした。

「私、何も言ってないよ?」


 2人で首を傾げるのだった。

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