第3話 置き土産

 私は平和活動の一環として、フィリピンを自転車で巡る旅に参加した事がある。

 

 その中で、「赤い家」と呼ばれる家に訪れた。そこで、戦時中にに集団レイプされた人に話を聞いた。多くの女の人がその赤い家に集められ、レイプされたと言う。そして、虐殺もあった。

 そんな話を、実体験として聞いた。


 その時、仲間のメンバーが、急に泣き出した。悲惨な話しに泣いたようにも思えるが、ちょっと泣き方がおかしかったので、気になった。

 すると、そのT(仮)は、急に1人でフラフラ~と二階に上がっていった。

 

 ちょっと心配になったので、話しは続いていたが、私は二階に様子を見に行った。


 すると、Tは窓際で、ボンヤリ外を眺めていたが、そのTのすぐ横に、髪の長い女性が立っていて、Tに近付いて行くのが見えた。

 私は「これはヤバいな」と思い、Tの腕を掴んで、近付いて来る女性から引き離した。

 

 この行動がいけなかった。


 帰国してから、独り暮らしのマンションの、浴室に入ると、シャワーの間、ずっと背後から、すごい視線を感じる様になった。

 後ろに人が立っていて、のぞき込んでいる気配がする。

 シャンプーをしても、怖くて、目を閉じる事が出来ない。

 そんな日が何日も続いた。


 流石に嫌気が差して、ある日、風呂場で「お前なんか、消えちまえ!帰れ!帰れよ!!」と、叫んでしまった。


 翌日から私は熱を出して寝込んだ。

 約一週間は寝込んでいて、ようやく動けるようになり、久しぶりに体を綺麗にしようと、浴室に行って凍り付く。


 浴室正面の壁に、長い黒い髪の毛が1本貼り付けてあった。

 それは、ちょうど、赤い家で見た女の人と同じくらいの長さだった。


 それ以降は浴室で視線を感じる事は無い。

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