困った家族
弱腰ペンギン
困った家族
「おにーちゃん。かみひこうきつくって!」
弟からそういわれて、何度も紙飛行機を作らされた。
「ありがとーおにーちゃん!」
私はおねーちゃんだよ。悪かったね絶壁で。将来この事実に気付いた時、絶望を意味する壁だったんだと、そう気づいてもらえたらうれしいな。いやうれしくねーよ!
元気に走りゆく弟の後ろ姿に手を振って見送る。両親が娘を憐れむように口に手を当てて、笑いをこらえている。
コノヤロゥ……。
それから年月が過ぎ、私が高校生。弟は中学生になった。思春期ということもあり、個別の部屋をもらったのだが。
「お兄ちゃん。眠れない」
おい中学生。枕を抱えて姉の部屋にノックもなしに入ってくるな。
「一緒に寝て?」
首をかしげるな。瞼が下がって半分お眠なのにどうして眠れないんだ。
「いや、もう中学生なんだから一人で寝なさい」
……言うべきはそこじゃない気がする。
「やだ」
枕に顔をうずめていやいやしている。おい中学生。
「お姉ちゃん、勉強しなきゃいけないから」
「お兄ちゃん、どうしていじわるするの?」
意地悪じゃないんだよぉ。私思春期なのよぉー。弟とは言え男の子と寝るのはねぇー!
っていうか弟だから余計に嫌よ!
「よし。今日ははっきりと教えておくわね。私はお兄ちゃんじゃないからよ」
「ぇ」
弟は涙を浮かべると。
「そんな……」
その場に崩れ落ちた。
「お兄ちゃんじゃ、ないの?」
「そうよ」
「家族じゃ、ないの?」
「家族よ。でもお兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんなのよ」
「やだ!」
うぅん……。純粋……。保健体育の授業受けて来たでしょうに。
気づきなさいよ、中学生!
「お兄ちゃんと一緒に寝る!」
お姉ちゃんなのよ!
お兄ちゃんじゃないの!
「いい。よく聞いて。高校生になったお姉ちゃんとは寝れないの!」
「やだ!」
「中学生になったら一人で寝なきゃいけないの!」
「やだ!」
「お父さんと寝てきなさい!」
「本当にヤダ」
オオゥ、真顔。
「お兄ちゃんは、僕のこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ。でも一緒に寝たくないの」
「僕は、飽きちゃったの?」
っく。勉強が遅れていくっ!
「ううん。そういうんじゃないの。いわゆる思春期ってやつよ。学校で勉強したでしょ?」
「勉強した!」
「だったら——」
「一緒に寝たら子供が出来るんでしょ?」
先生っ。この子にちゃんと教えておいてください!
「お互い同意の上で避妊しなければ出来るって聞いたよ!」
ちゃんと教えておく方向が間違ってます、先生!
「お姉ちゃんとはできません」
「やだ、お兄ちゃんと子供作る!」
ええい、いい加減にしないか!
「もう、出ていきなさい。私は勉強をするわ……」
強制退去だ!
「お兄ちゃん、僕のこと嫌いなんだね……」
違うわよっ。でも嫌いになりそうだわ。
「違うの。勉強するから一緒に寝れないのよ」
「じゃあ、明日は一緒に寝れるんだね?」
「明日も、明後日も、これからずっと勉強なのよ」
「勉強と僕、どっちが大事なの?」
「今は勉強、かな」
「そういって、僕を捨てるんだね」
突然音楽が流れ始めた。タタターンっていう、ドラマっぽいのが。
「え、ナニコレ」
「僕は、お兄ちゃんにとって遊びだったんだね!」
何の話?
「お兄ちゃんなんか、嫌いだ!」
弟が部屋を飛び出していく。よかった、勉強……扉のそばで何をやってる、両親。ラジカセを持ち出して。そこはスマホで十分……違うそうじゃない!
「突っ込みが追いつかない……」
なんだ、部屋の外で何を、カンペを出すな! 追いかけろってなんだ!
「はぁ、勉強しよう」
全部無視しておくことにした。だがしかし。
「いてっ」
丸められたカンペが投げられた。なになに、早く行けって? しょうがないなぁ。
私はドアに近寄ると閉めた。内側に閉まる奴なので部屋にバリケードを作れば入ってこれない。よし、これでOK——。
「トゥ!」
おい、オヤジ。思春期の娘の部屋の扉を破壊するな。
「何を——」
「ヘァ!」
何に興奮してるのかわからないけど日本語しゃべってくんないかな?
なに、行けって?
「はぁ」
仕方なく弟の部屋に行く。ちなみにお母さんはいまだBGMを管理している。どういうこと。
「はいるよー」
弟の部屋をノックすると。
「だめ!」
拒否されたので部屋に戻る。
両親にすごい顔で引き留められる。もう勉強させろし。しまいにゃぐれるぞ。ちょうど15の夜だからな!
「お兄ちゃんは、僕のこと嫌いなんだ!」
「嫌いじゃないって。もうみんなしてなんな——」
両親がカンペを示す。
「『そんなことないよ。私だって、大好きだよ!』なんじゃこりゃ」
「やったぁ!」
弟が扉をぶち破って出てきたので、巻き込まれた。
「いてて」
「僕も大好きだよ!」
廊下に倒れた私に、弟が抱き着いてくる。
「えぇそうね。はぁ」
チャカチャーンじゃないんだ両親。なんだ、オヤジ。カメラ構えてるんじゃねえ。
「はいはいわかったから部屋に入って寝なさい。私は勉強が——」
「一緒に、寝よ!」
そうだったぁー。これが目的だったぁー。どうすっぺ。面倒だぁー。
「仕方ない。わかったわ」
「やったぁ!」
「その代わり耳元で数学の公式を暗唱し続けるわね」
「へ?」
自室に戻って教科書を持ってくると、弟をベッドに連れていって隣に寝る。
「行くわね」
横で公式の暗唱を始めた。途中わからないところは教科書を見ながらだけど。それが暗唱かどうかはさておいて。三十分後。
「よし」
みんな寝た。
いい勉強になったし私も寝るか。はは、もう勉強する気なんて無いからなぁ!
翌日。
「おはよう」
「「「おはよう」」」
「昨日撮れたホームビデオ、編集終わってるわよー」
「お兄ちゃんとの共同作業だね!」
「そうだな。それに娘の部屋のドアを発泡スチロールにしておいて正解だった。同僚の大道具班にお礼言っておかないとな」
「「「はっはっは!」」」
私はポストに入ってた朝刊を取ると丸めて。
「いい加減にしろ」
全員の頭をはたいておいた。まったく。ディレクターの父に音響の母。子役の弟とか迷惑すぎるわ。
「あ、そういえば今日、番組のオーディションがあるから、入れといたから」
「はぁ? 学校なんですけど!」
「お化粧ちゃんと覚えなきゃダメよー? メイクさんが付いてくれるまで自分でやらなきゃいけないんだから」
「お母さんは別の方向で注意して!」
「お兄ちゃんも一緒にお仕事しようよ!」
「だから私はお姉ちゃんです。いい加減に覚えなさい!」
せめて私は一般人として、普通に生きるわ。
困った家族 弱腰ペンギン @kuwentorow
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます