第六十七話 スミレ会の企み(二)・・・・ 病気になって地固まる?




 それから二人して侑希ちゃんが自家中毒に罹患した時にお世話になった久保クリニックへ、西山さんに行ったことなどを話してから俺の入れない婦人科領域の話を梶ちゃんが聞いてきて、此れから2時間ほど点滴をすると云う事だった。

 婦人科の判断でも疲れから体のバランスが崩れてしまったのではと云う事で、別に心配するほどではないと云われてホッとしたけれど・・・2時間は長いなぁ!



「関矢君、私一人で大丈夫だからお昼食べてきちゃって良いよ。有難う、点滴しながら寝ているから心配しないで、少し休みたい!」



 そう言われても・・・と云ってもここでウロウロしている訳にも行かないし、仕方がないので俺はファミレスに行って早めの昼食を食べ、それでも1時間ほどまだ時間があった。

 病院に戻ると梶ちゃんはベッドで点滴を受けながら寝ていて、俺は静かに椅子に座り、側で点滴が終わるまで待つことにしたのです。


 ベッドの上で静かに寝息を立てながら寝ている梶ちゃん、その左腕に点滴のチューブが見えて・・・侑希ちゃんが産まれた時以来の病院で寝ている梶ちゃんの姿を見て居る。

 そんな俺の姿を見つけた若い看護師さんが、医師からの診察の内容を教えてくれたのです。



「梶谷さんの御主人ですか?子育て大変だと思いますが奥様は暑さでの体力が落ちていたのと疲れが一気に出てしまったようですね、仕事なのかは分かりませんが今まで気を張っていたような所に気付きませんでした?其のぉ、緊張の糸がフッと切れてしまったみたいなんですね。でも大丈夫ですよ、お話を先ほど少し聞いていたのですが、どうやら良い方向に糸が切れていた見たいですから」



 大家である俺に気を使っていたのかなぁ?其れとも4月から新しい職場に移動して疲れていたのかも?・・・あぁぁ何で気が付かなかったのだろう。

 でも、良い方向に糸が切れていたって????どう意味なのか俺には見当が付きませんでした。



「関矢君、側に居てくれたの?わぁ恥ずかしいなぁ!私、寝言言っていなかった?まさかとは思うけど鼾なんてしていなかったよね。もの凄く恥ずかしいんだけど((笑))」


「あははは!大丈夫だよ、鼾も寝言も有りませんでした、梶ちゃんは静かにスゥスゥと寝ていましたよ」



 先生から「栄養のある食事を取る事とゆっくり休む事を心掛けて大事にしてください」って言われて、二人とも大事に至らなかったことで安心したのです。


 家に戻ると秋江叔母さんが来てくれて、体には異常がない事、でも、ホルモンのバランスが崩れたのと緊張の糸が良い方向に切れたと云う話をしたけれど、俺にはその意味が分からないので本人から聞いてとしか言えなかった。

 俺は会社の仕事をさっさと片付けてから「此れから侑希ちゃんを迎えに行ってくるね」と寝ている梶ちゃんに声を掛けて、侑希ちゃんを保育園に迎えに行ったのです。



 侑希ちゃ~ん、パパが迎えに来たよぉ~!ホラホラホラ侑希ちゃんの大~好きなパパさんですよぉ!


「先生~!お願いしますよぉ、侑希ちゃんのパパじゃないんですから大家ですよ。本当にもぅ、皆さんワザと云ってるでしょう((笑))勘弁してください。侑希ちゃ~ん、迎えに来たからねぇ」



 アァアア、パァパ パァアパ ダッコ パァパ、ダァコ アイ、ダァコ、ニィ



 ほらぁ、やっぱりパパさんじゃないですかぁ!良かったね侑希ちゃん、お迎えがパパで!其れじゃ侑希ちゃんさよなら~!



 バイバ~イ、チェンチェ、バイバ~イ、パァパいっとバイバ~イ




「美由紀ちゃん、何処も悪いとこなくて良かったね、みんな心配したんだからね。あれだねきっと、今まで頑張って来たから少し休みなさいって事だったかもね」


「そうですねぇ、私実は・・・スミレ会でウェディングドレス着たでしょ、もう諦めていたドレスが着られるとは思っていなかったんです。まさかあそこで夢に思っていたウェディングドレスが着られるなんて思っていなかったし・・・其れに白無垢の時だって・・・それでドレス着たら何かもう良いかなぁって、結婚出来なくても関矢君の側に居られるだけで良いかなって思っちゃったら、そのぉ一気に疲れが出ちゃったみたいで、何か・・・何なのでしょうね?ダメまた涙が出てきちゃったぁ。秋江さんゴメンなさい」


「美由紀ちゃん謝んなくて良いから!ず~と、ずっと我慢してきたんだよね、諦めていたものがスミレ会で着れたんだよね、良かったじゃない。今度はちゃんと本当に着れる日が来るから、それまで私達も応援してあげるから!ネッ。今は安心してゆっくり体を休ませてあげな、美由紀ちゃんが倒れたってもう浩ちゃんが慌てちゃって、其れはもう大変なんだから。其れと、さっきの話はもう少し待ってなね」



 侑希ちゃんを連れて帰った来た時には梶ちゃんも少し元気が出てきたようで、夕ご飯は秋江叔母さんが作ってくれていた。

 何から何まで親代わりの伯父さんや叔母さんにいつも甘えている俺達と云うより俺、後で侑希ちゃんを連れてお礼に行こうと思っている。



「梶ちゃん具合はどう、少し楽になった?夕ご飯は叔母さんが作ってくれたみたいだね、後でお礼に行ってくるから」


「関矢君、ありがとう。なんか私、迷惑かけちゃったね。明日になれば少し楽になると思うけど、今日だけは侑希の事もお願いします」


「食事は起きて食べられるかな?それともこっちにテーブル出して一緒に食べようか!侑希ちゃんも一緒のほうが良いだろうから。ちょっと待って、今テーブル出すから」



 俺は梶ちゃんの布団の隣にテーブルを出すと、侑希ちゃんにお手伝いをと云うか邪魔されながらも料理を運び、三人で一緒に食事を取ったのだ。



 マァマおいちぃ?パァパオージおいち!



「侑希ちゃん美味しいね、ママ早く元気なってくれると良いね。たくさん食べて元気になってねって」


「侑希ぃ、ママ美味しいよ、ウフフフ侑希もママと同じ美味しいだよね、一緒だね」


 マァマいっと、おいちぃ、パァパいっと、おいちぃパチパチパチィ!



 梶ちゃんはそれから三日間休みを取った事でどうやら回復したようで、また仕事に復帰して俺も一安心しました。

 会社の事務員や同僚からも「奥さん元気なって良かったですね」とか「早く籍入れて落ち着いてください」だとか色々冷やかされてしまったけれど、やっぱり元気な顔を見せてくれる梶ちゃんと侑希ちゃんの存在は俺にとっては大きなものなのです。



 「おい関矢、お前なんか少し落ち着いたように見えるなぁ、美由紀さんが病気になって地固まるか((笑))?人の不幸を笑っちゃいけないけどこれを機会に籍入れてしまえ、そうしたら堂々と看病してあげられるし社長も安心できるからな」



 アァア何を言われても反論できない自分が居て、チキンの俺の不甲斐なさを恨むばかりです。



 親父とお袋、こんな俺を空の上から叱ってくれよぉ、不甲斐なくてごめんなぁ!

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