第六十四話 スミレ会の企み(二)・・・・嵐





 9月に入り、会社の仕事も忙しくなってきたけれど、TVの中での気象情報が気になりだしてきた。

 小笠原付近で5日に発生した台風15号がゆっくりと北西に進みながら発達しこのままいくと神奈川県三浦半島付近に上陸するかもという情報が流れているのです。


「近藤支社長、ちょっとヤバいかも知れません。この台風少し大きすぎます、早めの対策を講じないと我が社の現場が危険な状態になるかも知れません」


「分かったか、どうすればいい?俺の方から関係各所に連絡をつける、お前の対策を早く出せ」


 等の会話をしている内にTV画面には台風の勢力図が表示されて、神奈川、東京、千葉、茨城、栃木、群馬、福島熨斗支社営業へ砂防ダム現場やのり面強化現場、河川工事現場などの重機の移動、現場保護、そして従業員の安全への配慮として台風が過ぎ去った後に各営業所への安否確認の電話を入れるように指示を出させてもらったのです。


 案の定、関東地方JR及び私鉄などの交通機関は自粛運行発表し、厳戒ムードになってきました。

 俺達も会社の指示として早い帰宅を促され、俺は侑希ちゃんを迎えに行ってから家に戻ったのですが、公務員で有る梶ちゃんは定時に上がり雨風が強い中、無事に帰ってきたので侑希ちゃんと二人でホッと安心したのでした。


 台風15号は9日未明に千葉市付近に上陸し多大な被害をもたらしていきました。

 台風が通過した大島や三浦半島、千葉県、茨城県南部の地域で停電が発生し、既存不適格住宅の倒壊、防風林等の大きな樹々の伐採等がされていなかった為に電線の破断、電柱の倒壊によって数日間にわたる停電が発生してしまったのです。

 台風情報をいかに早く収集して判断するか、それが会社での損害を少なくし社員の安全を確保する事が出来る、俺が東北地方で何も出来なかった時を今になって思いだしました。


 支社に出勤すると、台風の被害状況報告が届き、担当支社管轄地域での人災は無く、器機材の損失は少なかったのですが、千葉市の営業所管轄では多大な損害が発生してしまったのです。

 台風が千葉県に上陸したために増水した河川の水が海に流れ込む事が出来ずに内水氾濫が起こり、その水が市内に溢れてしまったために床上浸水などが起きていました。

 伐採されずにいた大きな木などによる倒木や倒壊家屋による電柱倒壊や損壊、断線などによって大規模停電が各地で多発的に発生した為、電力会社での復旧が追い付かない状態となり、各県から応援が駆け付けて復旧作業が始まったのです。


 メディアは復旧の遅れを批判するばかりでどこで何が不足しているのか、今何が必要なのかを伝えて欲しいと願うのだけれど、最近のメディアはIncite angerばかりで、怒りで視聴率を取る手法の為に肝心な事を伝えて貰えない事が分かったのではないでしょうか。

 この時には停電が長く続いたために発電機や情報不足を補うスマホなどの充電器、そして一番求められているのが女性用の生理用品や乳幼児向けのオムツやミルクなどの不足が各地で出てきたのです。

 メディアはこの不足場所を教える訳でもなく、何処で配布しているのかも伝えず、ただIncite angerをするだけなのでした。


 常陸南田市も一時停電が有りましたが復旧し、市職員による被害状況の確認が収集され対策に追われたようです。

 梶ちゃんの話によれば役所内に市長の判断から土木課を中心とした対策本部が設置されたと云う事だったけれど、里川や久慈川、那珂川等の河川の越水が無かったか、また危険な箇所は無かったかなどの情報収集がされたとの事です。

 

営業所管轄では。早期の撤収が良かったみたいで機材の損壊や水没が無くて良かったのですが、工事現場はまた一からやり直さなければならない箇所も出て来ました。

 このような事を考えて納期はかなり幅を取っていますが、現場を知る人間としてはかなりやる気がなくなる事は確かですね。


 雨風が強かった15号、侑希ちゃんはゴォ~ゴォ~となる雨・風の音に驚いて梶ちゃんに抱き付いては静かにして、寝る時も小さいながらの怖さから俺に抱き付いたまま寝ていました。



「ふぅ、昨夜の台風凄かったねぇ、今年は台風が多いのかなぁ?こんなに早い時期に大型が来るなんて今までなかったよなぁ」


「本当だねぇ、侑希も初めての台風で驚いたみたいだったけど、台風が過ぎても台風一過にならないなんて今まであまりなかったよね。今日も愚図ついているんだから嫌になっちゃう」



マァマ ゴォ~ ガチャガチャガチャ ゴォ~ コワチャッタ



「そうだねぇ侑希ちゃん怖かったねぇ!でも、もう台風さん行っちゃったみたいだから大丈夫だよ。でも今日も風も強いし雨も降っているから気を付けないとね」



 何故か最近の台風は大型化しては被害の規模が広がり、経済的な大きな損害を出している。

 雨の降り方や風の吹き方も尋常ではないし、メディアでもかつてない規模のとか経験した事のないという言葉で気象情報を解説始めているのだから聞いている俺達もどの様な規模なのかの想像が出来ないのだ。


 農家や林業、土木を生業としている者にとっては天候によって生活が振り回されるのは死活問題で、その為の早い復旧が求られる。

 農協や市役所などが対策に追われているが、生存競争のためと云うか田畑を手離す人が増えたのと金融化を推進してしまった農協は弱体化が進み、農家を守ると云う事が出来にくいと云うか人件費に対して収入が追い付かないのが現状と言えるし、其れほど農業は逼迫しているのだ。



 この地区の農家だって、兼業農家で専属で農業を行っている家は皆無に等しい、息子達は会社勤めをしているので年寄りたちが行っている、と云ってもその年寄り達も元は会社員や役所勤めをしていた訳で、順送りと云ってもおかしくないのです。

 昔は機材や農薬を農協で買ったり貸して貰ったりしていたけれど、今は近くに出来たDIYセンター等で機材や農薬肥料等も買えるので、農協を利用するのは貯金や保険くらいになってしまったのです。


 昔は自動車を持っている家が少なく、農協が畑や田圃に農薬や肥料を置いて回っていたり、田植え機やトラクターなども農協が貸してくれていたそうです。

 しかし、最近は夫婦で共働きする家庭が当たり前となり会社員になったことで収入が増え、機械メーカーやDIYセンターから自分で安く購入し、田畑に運ぶと云う事が可能になってしまったのです。


 最近では農協に頼る事が希薄になりつつあり、地元の農業事情を一番知っているはずの農協は金融へとむかっているのです。 

 其れでも米や野菜などの販売は農協を利用しなければ販売促進への道は開けないと云うか、農家自ら販促を行う時間は共働きでは難しくその為に時間を割くことが出来ないのです。


 兼業農家は販促販売は農協を頼り、働いている会社などの給与の振込指定には地方銀行や大手銀行にしている訳で、農協の弱体化は時間の問題となってきているのです。

 その為、農協を集合合併させて存続をかけ、道の駅の運営や直売場等の運営で持ち堪えていると云っても過言ではない。

 

しかし、この地区のように会社勤めを終えれば専業農家になるため農協は欠かせないのです。

 災害復旧には農協があってこそになる為、地域によっては大きな力にもなるので結束力が再確認できる場になるのですから必要不可欠と言えるでしょう。








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