第五十八話 父さん達の思い・・・・真実との蟠り
父さんが社長を退陣すると云う噂は社内を駆け巡り、そして取引会社や銀行までも動き始めている事が分かったのです。
その為父さんも栗原取締役も終息に奮闘する事に追われてしまったのですが問題はそれで終わる訳ではなく、取締役会でも問題視されてしまい任期全う及び新事業の確立できるまで続投すると云う事になってしまいました。
当然ながら影の取締役会と言われる4人の関係でも、父さんは身勝手だとか、お前の気持ちは分かるだとか散々言われてしまい、「それでも俺達はお前を応援するし俺達がお前を守る。その為には関矢、お前がもっと頑張れ」と言われ、何で俺が関係するの??分かりませんでした。
社内での終息が図れると共に新しいプロジェクトへの取締役達の意見集合と云うか会社指針がはっきりした事で、各事業と協力していく事になりその窓口に俺が指名されてしまったのです。
茨城と東京を行ったり来たりしながらなんとか時間を作っては父さん達の夢作りの資料を集めたり。猿渡さんの意見を聞きながら纏めていってはいるけれど、俺の本業はどっちなの?ウワァ、ちょっと忙しすぎだよ。
「浩史さんお願いがあるのですが、其ぉ今度の日曜日ですが私達夫婦に美由紀さんと侑希さんを合わせて頂けないでしょうか?」
「別に畏まらないでください猿渡さん、母さんに話して奥さんと一緒に御休みをお願いしてみましょうか、きっと許してくれる筈ですから一緒に茨城に行きましょうよ」
「宜しいんですか、美由紀さん達困りませんか?社長御夫妻と違い私達夫婦は使用人の立場ですから、其ぉ会って頂けるでしょうか?」
「何を言ってるんですか、父さんから聞いていますよ、猿渡さんとは同じ対場で今後仕事をして行きたいと。其れに梶ちゃん達や近所の方達もですがそんな事は一切気にしてません、皆さん仲間として歓迎してくれますから私の方でご招待したいと思います。是非来てください」
等と言う事もあり、俺の口から猿渡さん御夫婦を茨城に連れて行く事を母さんにお願いしてみた。
「あらぁ香子さんも連れていくの!私も一緒に行きたいわぁ、でも、私が行くと二人とも気を使っちゃうわね。どうぞ行ってらっしゃい、本当に浩ちゃん達はモテモテね、私も其れは其れで嬉しいわ。今度は東京へ美由紀さん達を連れてきたいと思っているの、其れで暫くこの家に一緒に居て欲しいと思ってるのだけれど・・・・と、その前に浩ちゃんがしっかりしないといけないわね。ウフフフどうなのそっちの方は」
「いやっそのぉ、何でその話になるんですか?母さんも人が悪いんだから、その内にはっきりさせますからと云うか僕達の事は気にしないで下さい」
「あぁあ!浩ちゃんはいつもそうやって誤魔化すんだから、侑希ちゃんを早く孫として抱っこしたいわぁ、ウフフフ!香子さんも美由紀さん達に会えばすぐにファンになっちゃうわよ、会った時の顔を見てみたいわね」
あぁあっブゥブ?ブゥブ?マァマブゥブ・・・アッアッアッパァパ、パァパオ~ジオカェチャィエヘヘヘ!ダァコ!オカェチャィ、ダァコ!
「関矢君、お帰りなさ~い、侑希がずっと待ってたよ~!。そして、初めまして!遠い所ようこそ来て頂きまして有難うございます。侑希、ご挨拶だよ!」
イラタァイ、ユチ、マァママァマ、パァパオ~ジイラタァイ、ネッ、エヘヘヘ!
「初めまして、猿渡京子です、無理言って本日来させて頂きました。浩史さんにはいつもお世話になっているんですがどうしても美由紀さんと侑希さんに会いたくて、貴子様に無理言ってしまいました」
「何言ってるんですか、私達は大歓迎ですよ。私達は東京での関矢君の事あまり知らないんです、彼話してくれませんし、だから私達の方が来てくれて有難いと思っています。本当に遠い所よく来てくださいました。ねっ侑希!」
「美由紀さん本当に申し訳ありません、私ども夫婦も子供に恵まれませんで、其れで浩史さんと社長御夫妻にお願いを致しまして今日休みを頂きお伺いする事が出来ました。ご迷惑かと思いますがお許しください」
「猿渡さん、別に気にしないで下さい、誰にも迷惑は掛かっていませんから。其れに、侑希に会いに来て頂いて本当に嬉しく思っています。関矢君にはいつも驚かされているばっかりで、と云ってももう慣れましたけど。ねぇ侑希、抱っこしてもらったら」
ダァコ、ニィッダァコ!パァパオ~ジプィ、じぃダァコ、ばぁダァコパァパオ~ジプィ!
「あぁあ侑希ちゃん俺の事プィしたなぁ、此れ此れ此れホッペツンツン」
エヘヘヘプィ、ニィップィジィ、バァバプィ!
「アッハハハ侑希ちゃん駄目だよ浩史さんにプイしちゃ、ネッ!私達初めてですよ、初めて会ってすぐに抱っこ許されるなんて、家内がこんな顔するなんて嬉しいですね」
「侑希は、人見知りなんてどこかに行ってしまったみたいで、もうすぐに抱っこされちゃうんです。あまりにこの家は人が多く集まるもんですから、連れて行かれないか心配なんですよ」
「黙って連れて行くのは東京の父さん達くらいだよ、今回も梶ちゃん達を早く連れて来てって煩かったんだから」
「浩史さん、私達からもお願いします。美由紀さんと侑希ちゃんを連れて東京へ来て下さい、面倒は私達が見ますから。美由紀さん是非、東京へお時間を作って頂き来て下さいね」
侑希ちゃんは猿渡さんと香子さんに交互に抱かれて上機嫌で、梶ちゃんもご満悦顔で俺としても鼻が高かった。
そんな所に秋江叔母さんと静婆さんがやって来たと云うか、俺が連れてきた新しい人の顔を見に来たのだろう。
「浩ちゃんいつ帰って来たの、あらっまた新しい人がやって来たの!侑希ちゃん抱っこされて上機嫌だね。野菜持ってきたし西瓜が取れたから食べな。で!こっちの人は?確か、社長さんが来た時に自動車運転していた人だよね」
「そうだよ、俺が東京でお世話になっている人で、食事の世話や英語の勉強など教えてくれた人で猿渡さんご夫妻、どうしても梶ちゃんと侑希ちゃんに会いたいからと行って今日来てもらったんだよ」
「あぁそうけえぇ!浩史が東京で世話んなったのけぇ其れは其れは有難い事で、浩史は色んなとこで世話んなっている人がいっぺぇ居て、一人ではとても感謝しきれねぇな。早く美由紀さん嫁ん貰って、皆にきちんと挨拶できるんようにしねぇといけねぇな。なぁ秋江」
「本当だょお、浩ちゃんも美由紀ちゃんも、そろそろ考えてみても良いんじゃないの、ねぇ猿渡さんもそう思うでしょ!」
「本当ですよ浩史さん、猿渡も私も、社長御夫妻も皆様同じように願っているんですから、気持ちが落ち着きましたらご家族を考えてくださいませ」
それからいつもの様にスミレ会メンバーが集まり出してきて、土間で猿渡さん御夫妻を囲んで連の儀式と云うか賑やかに俺の話で盛り上がっていた。
浩史は東京でどうだったの、社長さんの話だと最初凄かったらしいと聞いてっけど何が凄かったの?
あぁあ其れ私も聞きたい、そういう生活していたんですか?おじさん英語は独学だって言ってましたけど、でもさっき英語の先生だと話していましたが??
「浩史さんは、最初は今と違って年配の方が着るようなスーツを着て、ネクタイもシャツもアイロンなんて掛かっていないヨレヨレの姿だったんですよ。でも、後で理由を聞いて納得出来ましたが、社長は自分の仕立てたばかりのスーツを浩史さんに着させたり、シャツ類も私と一緒に買いに行ったりして殊の外自分のお子様のように接していました。其れからです、書生のように毎週金曜の夜から日曜の朝まで社長のお世話をしたり、庭掃除から自動車の洗車や掃除を進んでなさって下さり、其れで本当は私達には休みが無いのですが、浩史さんが行うから私達に休みをと土曜日とか日曜日に御休みが頂けるようになったんです。」
そうけぇ、其れは良かったなぁ浩史も役に立ってたんだぁ、あれも父親と同じで皆に優しいからなぁ。
「そうなんです、其れで家内が浩史さんが庭掃除や洗車などを朝早くから行っている時に御握りを握って食べて頂いたりしてもらってたんです」
「その話聞いたことあります。凄く美味しくてお母さんのこと思い出して泣きそうだったと、凄く美味しかったんだと話してくれました」
何で毎回こうして集まるんだろう、其れに俺の話ってそんなに面白いのかなぁ?梶ちゃんまで参加して、侑希ちゃんは猿渡さん達の膝の上でご満悦顔している。
何もないと云うか黒羽地区にはこれと云って有名な観光物がある訳ではないけれど、人情と思いやりがたくさん詰まっている。
此れは特段黒羽地区ばかりではなく、多分、田舎ならではの絆なのかもしれない、どの地域でも自然に人を受け入れ、そして互いに深く干渉しないで助け合っていくコツと云うか繋がり的な物が出来てしまうのだ。
都会みたいに「声は聞くが顔を見ず、隣に誰が住む人ぞ」的な事は無い、多少お節介的な所もあるが其れでも何かとお互い助け合っていくのが田舎の繋がりなのだろう。
どこかの街で村八分裁判をしている事が新聞に載っていたけれど、この地区ので村八分とは深く関わらないと云うだけでそれ以外は普通に付き会うし挨拶もする。
困った時には手を差し出すし、決して見て見ぬふりはしないと云うのがこの地区と云うかこの地域では当たり前になっている。
父さんと母さんは、年寄りと云うか引退した人達へ手を差し伸べ、新しい目的と云うか生き甲斐みたいなものを見出してやりたいと考えているのだ。
高齢者社会と言われて久しいけれど、行政が率先して高齢者に手を差し伸べる事は出来ないと云うか其れほど余裕はは無い、行政だって高齢者が増える事で財政圧迫されているのだから、それなら自分達の手で何とかして行きたいと考えるのが普通で、その受け皿を作っていきたいと考えているのだ。
誰にだって夢はあるし何時までも追い続けていきたい!けれど夢だけを追っても食べていけないのは確かで、父さん達はその夢を夢で終わらせるのではなく実現させたいと思っているのだ。
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