第五十七話 父さん達の思い・・・・噂 



「浩史君、父さん後期で現職を退く心算なんだと云うか、貴子さんとも話してもう決めたんだがな。君にも知って於いて欲しいんだ。」


「えっ、父さんどうして?会社は今儲かっているし今の成長を作ったのは父さんでしょう、其れを手放すなんて何か考えが有っての事なんだろけど、渡辺部長や近藤支社長とか栗原取締役には話したの?」


「いや未だだ、その内に話がどこかから漏れると思うからその時に浩史君にも影響が出るかも知れないから今のうちに話しておこうと思ってな。私達夫婦の気持ちと云うか、私が社長になった時から俺は中継ぎだと思っていたからなぁ、その事は知ってるよな、次期社長は義理の弟の栗原君になって貰う事になっている。とはいえ取締役会が決める事だが其の為の新事業部だ、これを成功させなきゃいけない」


「それは分かっているけれど、其れと社長交代は違うのでは?父さん何か夢を見つけたの、最近、何か隠れてコソコソやってるでしょう。猿渡さんから少し話は聞いているけどまさか、まさかだけど」


「何だ、猿渡君から聞いているのか、其れなら話は早い。東京で茨城の連を違う形で行いたいんだ。猿渡君にも協力してもらって同じ立場で一緒にやりたいんだよ。彼も君を息子のように思っていてくれるから、彼の知恵を借りて連とは少し違うけれど引退した取り寄り達をもっと輝かせたい事業を考えている。貴子さんも猿渡君も奥さんの香子さんも参加してもらうつもりだ。皆が好きなように楽しく集まって仕事を仲間として行っていきたいと考えているんだよ。その様な環境を作りたいと思っている」


「分かりました、どうせ言っても聞かないと思ってるから、僕なら大丈夫ですよ、皆さんが付いていますからね((笑))」




 いつもの様に土曜・日曜日の天気の良い日は庭にプールを作ってあげて、侑希ちゃんは水遊びをして喜んでいる。

 短い時間だけれど、梶ちゃんも俺も短パンで水の中に入っては一緒に遊んで侑希ちゃんは大喜びで作った甲斐が有ると云うものだ。


 水遊びが終わればシーリングファンを回し、サマーチェアーを並べて川の字での昼寝が定番になってしまった。

 最近誰も来ないので気にしないで寝ていたけれど、こんな所やっぱり他人には見せられないなぁ。



 「お~い浩史、居るかぁ!」


 案の定、誰かがやって来たって、何だ秀樹兄さんか!えっ何しにやって来たんだ、こっちはただ今昼寝中ですよぉ。意地でも起きないぞ。


「ねぇ関矢君、起きて!お兄さんが来てるよ、起きて頂戴。もう侑希と同じでなかなか起きないんだから、お・き・て」


 「うぅ~ん、良いよほっといて。もう少しこのまま寝たいから、って誰が来たって。兄さん、夢じゃないんだ、今起きる」


 ガタガタガタン!ドテッ!

 

 「あっ痛ぇ~!なんだぁ、サマーチェアーで寝ていたんだっけ、イタ痛い、侑希ちゃんは?」


 「ごめん関矢君、侑希ならまだ寝てるから、秀樹さんが来たみたいだよ、起こしちゃってゴメンねぇ」


「おい浩史、三人で昼寝してたんだ。悪いな邪魔しちゃってまぁ仲が良い事は知ってるけど、川の字で寝てる所悪いなぁ」


「いやぁ別に只、侑希ちゃんがプールに入って、俺もお墓の掃除終わって疲れてたからその一緒に昼寝させてもらってたんだよ、勘違いはしないでよね」


「ハハハハ大丈夫だよ、俺は勘違いはしてねぇから。其れより早くお前達はこれが普通になれるようにと思っているくらいだよ。美由紀さん、こいつを早く何とかしてくれよ」


「いやっ!あのぉ、何を言ってるんですか秀樹さん、そんなのはまだ先ですよ、と云うより冷かさないで下さい。もう皆して、私達の事は良いですから」


「まぁ冷やかしはそれくらいにして、浩史、時間ちょっといいか。お前に話したいことが有ってな」


 俺はいつもと違う秀樹兄さんに連れられて俺の部屋に、何か大事な話があるようだ。

 確か兄さんは先日まで都内へ出張へ行くと云っていたので、母さん達の所に顔を出して欲しいと云って侑希ちゃんの写真集を手渡しておいたのだけれど。


「浩史、黒沢社長の事で何か聞いているか?この間東京へ行ってきた時にちょっと噂が耳に入ってなぁ、後期の任期で社長を退任するのではという話なんだが、どうなんだ」


「あぁあその事、兄さんはどこまで聞いてきたのかは分からないけれど心配は要らないよって言うか、父さんと母さんの考えは変わらないと思うし誰も口に出せない事なんだよ」


「何言ってんだ黒沢さんが居なくなったら会社傾くぞ。今の会社を大きくしたのは黒沢さんだ、それだからこそ多くの企業から実績を買われて仕事の繋がりが出来ているのに、俺の所との繋がりもそうだぞ」


「兄さん、母さんが創業者一族で現会長の長女であり元海外事業部の支社長で取締役だった話は知ってるよね、父さんは当時、技術営業部の課長だった。二人が結婚して父さんは逆玉の輿だなんて言われていたんだって、其れで母さんはあっさりと会社を辞めて仕事の事には口をだなさい、住まいも会長の家に入らないで父さんがロ~ンで買った家に住んで、父さんは会社の仕事の見直しを考えて各支社や営業所へ三カ月単位で移動しては現場に入り、体質改善を図り、部長になったんだよ。まぁその後、俺が同じように現場に、俺の場合は半年単位だったけどね」


「それは後で聞いたから分かってる、だが何であそこまで上り詰めたのに・・・・?まだ引退するのには早いだろう。お前は止める事が出来ないのか、黙って見てるだけなのか」


「父さんも母さんも、社長になった時から決めていた事でさぁ。多分、会長や取締役としても残るつもりはないようだよ。次期社長への為の新プロジェクトが今俺が行っている仕事だからね、父さんは俺達に次への夢を預けてくれた、それに応えるのが次期社長なんだと思うよ。社長って本当に大変なんだよ。末端の俺達のことまで考えてさ。これでやっと自分達の好きな事が出来るんじゃないのって言うか、やりたいことが最近見つかったんだって、俺はそこ迄しか分からないけどね」


 「ふぅ~んやりたい事ね!で、次期社長って誰なんだ?お前、知ってるんだろう。と言ってもお前の事だから教えるつもりは無いだろうけどな。まぁ良い、お前が知ってるなら問題は無いだろう。黒沢さんも俺達の家族の一員だからな、温かく見守ってやるか!口外したらそれこそ大問題に発展しそうだしな」


 兄さんは出張中に俺の会社に営業に行ってその話を聞いて来たみたいで、其れで俺の事を心配してくれたみたいだ。

 兄弟と云うのは有難い事で、年の離れた愚弟を思って心配して駆けつけてくれたのだ。



 其れから社内でもそんな噂が立ち始めたけれど、茨城近藤支社長は渡辺部長や栗原海外部社長と共に黒沢社長の親友であるし相談役でもあり仲間で一番心配しているのが分かる。


「おい、関矢。久しぶりに飯食いに行くか!美由紀さんの弁当は後で食べれば怒られないだろう、ちょっと出かけようか」


「近藤支社長どうしたんですか、奥さんの弁当はどうしたんですか?外食なんて普段しない人が誘ってくれるなんて珍しいですね、やっぱアレですか、すいませんね気ぃ使わせてしまって」


「フン、皆アイツが悪いんだよ、我が儘なんだから。俺達には次への引継ぎなんだと就任当時から言っていた、栗原の気持ちも考えないでな。俺達が一時ギクシャクしていた時にお前が入ってきて、黒沢がさぁお前のことをすごく気に入ってな。其れからお前は俺達の出したと云うか黒沢に次は此れなんかどうだなんて、お前への仕事を提言したんだが其の課題を関矢は問題なくクリアして改善を出してくる。其れからだよ、黒沢の先を見る目に俺達も賭けて見る事にしたんだ」


「えぇっそんな事が有ったんですか、俺全然知らなかった。でも、社長から現場や会社で何が必要なのかお前の思った事を、そして世話になった同僚や先輩のことを思って改善案を出せって。一度だけ批判的な事を書いたら、批判からは何も生まれないから二度と書くな、お前の良い所は感謝する目がある事だと!意味は未だに分かりませんが」


「まぁアイツらしいよな、部下であり、親友でもある俺達がアイツを見守ってやらなくちゃいけないんだが、今ではアイツの事を一番知っているのはお前だからな」


「何言ってんですか、皆さんの関係にはいつも驚かされるばかりですよ。腹を割って話せる関係って素晴らしいですよね。子供みたいな所ばかりですけどね」


「それはあれだよ、お前がいる時だけだ。お前が居るとみんな安心して話せるようだからな、不思議な男だよ・・・・関矢はアッハハハ。だから、黒沢も安心してるんだろうな」


 等ということも有り、支社長と食事をしながら今後の対応について話しては見たものの、結局俺達は何も出来ないと云う事だけ、それ以上も以下も出来ないと云う事だった。


 父さん達の夢に俺も少しは手伝えるのだろうか?まだ噂だけだから状況によっては変わる可能性もあるのかも知れないと思っている。

 ただ見守る事しか出来ないだろう、誰も父さんと母さんの夢を止める事は出来ない事を知っている、だけど企業的にはまだ早いのだ!会社を大きくし企業価値を高めたのは父さんなのだから。


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