第五十五話 スミレ会の企み(一)・・・・地域への感謝




 スミレ会の会合で諦めていた白無垢の花嫁衣装を着た私は、袖に腕を通した感触を侑希と部屋に戻ってからまた思い出していました。

 侑一さんが生きていれば本当は着ていたかも知れない花嫁衣裳、でも今は・・・・なぜか写真の中の侑一さんを見つめる事が出来ませんでした。


 その夜の私は布団に入っても何故か寝付かれず、と云うか理由はある程度わかっているのですがウトウトしている内にいつの間にか熟睡したようで、夢の中で誰かさんとの前で花嫁衣装を着ている自分が居て・・・・・久しぶりに侑希に朝起こされてしまいました。



「侑希ゴメ~ン、朝起きられなかったぁ。関矢君の部屋に行けなかったねぇ本当にゴメン」


 ブゥブゥブブゥダァ~、ママ、ダ~、ダ~!ブッブッブゥ~、マァマ、メッ!


 急いで台所に行くとすでに関矢君は起きていて、侑希のミルクは出来ているし私の分までコーヒーを淹れてくれていました。

 コーヒーの甘い香りが漂う中で侑希は哺乳瓶を貰って喜ぶかと思いきや、私を指さして怒っているのです。


「お早う侑希ちゃん、今朝は俺ん所に来なかったねぇ!」


 マァマ、メッ、マァマ・ネンネ、オッキ・ナイ・ネンネ、メッ、マァマ、メッ、ブッブゥ~


「なに、梶ちゃんを怒ってるの?ママがネンネ、オッキ、ナイ、メッ???・・・成る程ね!ママが起きてくれなかったから、朝俺の所に来れなかったと云う事でママがダメって云う事なんだね。アハハハハ侑希ちゃん、ママ疲れてんだよ、許してあげなよ。朝ご飯が出来るまで俺と散歩行こうか」


「関矢君ゴメンねぇ!私、朝起きられなかったぁ。朝から侑希に怒られてさぁ、侑希すっごく怒るんだもの。散歩でご機嫌治ると助かるぅ、侑希の大好きなパンケーキ作ってあげるからお願い、二人で行ってらっしゃい~」


 朝からご機嫌斜めの侑希ちゃん、あっと言う間に哺乳瓶のミルクを飲み干すと音の鳴る靴の所に俺を連れていく。


「はいはい、クックね。侑希ちゃん今履かせてあげるからね。ママがパンケーキ焼いてくれるってさ、良かったねぇ!其れじゃ散歩行こうか」



 キュッカラッカラッカラッキュッュッ、パァパ・オ~ジ、アッチアッチ、イコイッコ、タンポ・イッコ!



 おぉ、二人で今日は朝から散歩かい、侑希ちゃんおはよう、元気だなぁパパと散歩で良いなぁ!


 パァパ・オ~ジ、タンポアッチ、マァマおいち、パンパン、ネッ


 「あのね、いつも言わせてもらってるけど、俺パパじゃないから、おじさんだからね」


 パァアパオ~ジ、パァパ、ユチ、パァパオ~ジチュキ、エヘヘヘ


 はいはい、だけどよ、侑希ちゃんはパパ、チュキって言ってるじゃねーか、パパオ~ジで侑希のパパって、なぁ侑希ちゃん。


 ユチ、パァパ、ユチパァパ!ナァナァあっちナァ!ナァ~!ナァ~?


 あぁあミーコか。ミーコは今、子供達と御飯かな?ちょっと待ってな。


 ナァ~?ナァ~?あぁあ、あっナァ!ナァ!パァパ、ナァ!だぁこナァだぁこ


 「侑希ちゃん、ミ~コ抱っこしたいの?猫さんは赤ちゃんに抱っこされるの嫌がるんだよなぁ、多分ミ~コも嫌がるんじゃないのかちょっと不安だなぁ」


 俺は侑希ちゃんと一緒にミ~コの側に行って手を指し延ばすと、ミ~コがやって来て侑希ちゃんの手をペロペロ、ゴロゴロ!おっ、此れは大丈夫かも!

 恐る恐るゆっくりとミ~コのお腹を抱えて侑希ちゃんの前に抱き寄せると、侑希ちゃんも両手を出してきて・・・引っかかられでもされたら・・・今日は抱く真似だけにして、けれど本人はご満悦でした。(良かったぁ)


 畑道を一緒に歩いては何かを探している侑希ちゃん、小さなバッタが見つかる前に跳ねて飛んで行ってしまった。


 あっピョ~ン、パァパ、ピョ~ン・・あっち、あっち、ピョ~ン


 お腹が空いてきたので、家に戻ろうかと侑希ちゃんに声を掛けても探し物は続き、小さな棒を持っては地面に落書きをしながら家に戻ってきた。


「ただいまぁ、お腹空いたよぉ~!侑希ちゃんの御帰りですよぉ」


「あらっ遅かったわね、何処まで行ってきたの~!。さっき秋江さんが来てトウモロコシちょっと早いけどって置いて行ってくれたの」


 マァマ、ナァ抱っこ、ナァ抱っこギュゥッ抱っこ、ムゥチ、ピョ~ンピョ~ン、ねぇパァパ・オ~ジ、ピョ~ンって


「侑希~、ごめ~んママ何言ってるか分かんない?関矢君、侑希の云ってるの訳してぇ」


 「アハハハハ、侑希ちゃんはミ~コをギュって抱っこしたんだよね、本当は軽くだけど、引っ搔かれたら困るからさ真似事だけ、でも一生懸命抱っこしてたよ。其れで畑道でバッタが居たんで、捕まえようとしたらピョ~ンって跳ねて逃げられたと云う事だよね、侑希ちゃん」


 ナァダァッコ、ムゥシ、ピョ~ンキャキャキャッピョ~ン、ねぇパァパ!


 オムツを付けた重たいお尻で、梶ちゃんに一生懸命にバッタの動作を真似ては又跳ねている。


 梶ちゃんと二人でそれを見て笑っている俺達だけど、オムツが取れたらもっと活動的になるんだろうなぁ。



 何時も散歩から戻ると梶ちゃんに手を洗ってと言われているのに、今日はその前に洗面所へ行って手と顔を洗う二人でした。

 


「侑希ちゃん、お手てゴシゴシキレイキレイ、お顔はペチペチペチキレイキレイ、お口はクチュクチュペッペッペッ!はぁい、お顔と手を拭いて終わったよ」



保育園で手洗いと歯磨き・うがいをしているので、最近は素直にやらしてくれるようになったけれど、この間までは泣いたり怒ったりで大変だったなぁ!保育園の指導力は大きい。


 マァマ、テッテ、クチュクチュペッ、ペチペチキレイキレイ、オッタァ


「はぁい、手も顔も口の中も綺麗にしたのね。侑希、ちゃんと出来るようになったねぇ。パンケーキ焼けているから食べようね、本当にママ朝起きられなかった、ゴメンねぇ」




 浩ちゃん本当に親子だよなぁ、俺だってあんなに子煩悩じゃねぇぞ。其れに侑希ちゃんだってあんなに懐いてるしよ、もうそろそろ良いんじゃねぇのかぁ?


 な~に大丈夫だよ、お父ちゃん!スミレ会でも何とかしてあげようと考えてんだから、だから、もう少しみんなで大事に見てあげようと決めて来たんだ。


 まぁ、あの二人なら末永くやっていけるだろし、心配は要らねぇだろう。そうか、スミレ会で何とか協力してやれるんならそれに越したことはねぇな。


 本当にあの二人は仲が良いよなぁ、何で浩ちゃんは言わねぇんだろう!侑希ちゃんのパパに申し訳ないと思ってんのかなぁ?


 そうかもねぇ?浩ちゃん優しいから、いろんなとこで遠慮してんのかもねぇ!




 

 俺も梶ちゃんもスミレ会の企みが進んでいるなんて、色々話しているのに此れぽっちも知りませんでした。

 其れだけ俺達三人は地域の中に溶け込み、皆に見守れているのだと云う事を後で改めて知ったのです。


 皆さん本当に気を遣わせてゴメンなさい、俺達は大丈夫ですから????多分。


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