第五十四話 スミレ会の企み(一)・・・・花嫁衣裳




 集団お見合いから数日を過ぎ、私も(関矢君は何も知らないけれど)自分の考えに落ち着きを取り戻しました。

 侑希は一段と甘えを増して関矢君を追いかけては泣いて・・・と云うか最近は嘘泣きを覚えて何とか離れたくないようで、このズルさは誰に似たのか、きっと天国にいる侑一さん(絶対に私ではない)だわ、私は嘘泣きなんて・・・したかも!。


パァパ、ウェ~ん!グスグス、ウェ~ん!パァパ、ウェ~ん!


「はいはい、侑希ちゃん泣かないの!もう少しで終わるからね、終わったら抱っこして散歩行こうね」


ウェ~ん!ウェ~ん、ニィッ!キャキャキャッ、パァアパオ~ジクック、タンポ、クック、タンポいこ、いこ!


「こらぁ侑希、又、噓泣きして関矢君と散歩行こうとしている。ダメよもうすぐ御飯なんだから」


「侑希ちゃん散歩行きたいんだよね!大丈夫だよ梶ちゃん、少しだけ一緒に散歩してくるだけだら、ネコさん見に行こうか?」


マァマ、プイ!ナァナナァナ!いこマァマ、メッ!プイ


「あぁあ侑希、ママにプイしたでしょ、本当にしょうがないんだから。誰かさんが甘やかすから何時も私が悪者になってしまう、もう!早く帰ってくるのよ」




 梅雨明け間近の夏の暑い日差しの土曜日にスミレ会の夏前の集まりがあり、私・美由紀も今まで参加していませんでしたが秋江おばさんと純さんに半強制的に参加させられてしまいました。


 スミレ会はこの地区の小学5年生から上の女性なら誰でも参加でき、関矢君の亡くなったお母さんが旧婦人会を改めなおして、地区の女性交流や昔から引き継がれている料理や風習などを引き継いでもらったり、着物の着付けや裁縫料理など、様々な議題を取り上げては教え合う、または講師を呼んで教えを貰うなど、女性の塞ぎがちな生活を豊かにしていく事を目的にしていると云うのです。

 結婚してこの地区を離れた純さんはこのスミレ会でオブザーバー的な立場で、今でも裁縫教室の講師や編み物などを教えに来ています。


 人に教える技術があると云う事は素晴らしいと私は思っているけれど、残念ながら私にはその様な技術も知識もないので、ちょうどよい機会を貰えたなぁ!と思っていました。

 今回は着物の着付けや浴衣の着方などを教えて頂けると云う事で、スミレ会御用達の貸衣装屋さんの協力を得て皆それぞれ着ては写真を撮りまくっています。


 あらぁ美由紀さん、着物一人で着れるの。誰に教わったの?、大したもんだわ。


「亡くなった母に、家が造園業やっていましたのでお客さんも多かったですから、お正月とかは着物着せられて、夏も浴衣を着せられてはお飾り娘をやらされていました((笑))。其れで自然に着物の着付けを覚えちゃったんです、でも、妹の美咲は嫌がってましたけど」


 へぇ大したもんだよ、お母さんに感謝しなくちゃいけないね。今どきの若い人は早々出来ないからね。


 今日は衣装屋さんが、花嫁衣裳の白無垢と白打掛も持ってきてるから美由紀さん着てみるかい。ねぇ純さんどうだい、美由紀さんに着せてみては?


「あらぁ、衣装屋さんが持ってきてんなら良いんじゃないの、せっかくだから美由紀ちゃん着せてもらったら。ほらぁ子供たち美由紀ちゃんが白無垢の花嫁衣裳着るんだって、皆も見たいよねぇ」


 何々白無垢って、結婚式で花嫁さんが着るやつなの、見たいみたい。美由紀さん絶対似合うから見せて、着て見せてよ


 ワイワイ騒いでいる中で、純さんによって髪を纏め化粧をして頂き、私はもう着る事はないと諦めていた白の肌襦袢に袖を通し、赤い花柄の花嫁衣裳の白無垢を着て白の打掛を羽織る事が出来ました。

 子供達が集まり、侑希が目を丸くしてマァッマ?マァマ?と不思議そうにしているのです。


 美由紀さん綺麗だわぁ、本当に綺麗。そうだ鏡、鏡の中の自分を見て頂戴、ネッ綺麗でしょう。


 

 私は鏡に映った花嫁姿の自分を見ている内になぜか突然涙が溢れてきてしまい、鏡の中の私を涙で滲んで見つめる事が出来ませんでした。

 純さんからハンカチを借りて目頭を押さえていると、周りからも「美由紀ちゃん良かったね着られて、本当に綺麗だよ!お母さんに見せたかったね」との声を掛けられて、只々私は涙が止まりませんでした。


 純さんも周りの人達も私と同じに涙してくれて、私の事をこんなに思っていてくれたんだと改め知ったのです。

 侑希も小さな綺麗な衣装を着せて頂き、二人で花嫁衣装を着た記念写真を撮影して頂きました。


 秋江さんから、「何時か本当に花嫁衣裳着れる日が来ると良いわね。大丈夫だよ浩ちゃんがちゃんと迎えに来てくれるから、それまで待ってあげてね。でも、ウ~ン?いつになるのかねぇあの男は奥手だから、少し心配かなぁ」って言われてしまい、其れって少し無責任のような・・・口には出せませんでしたが、でも何故かすごく嬉しかった私なのです。



 純ちゃん、美由紀さんの着物のサイズと衣装はあれで決まりだよね、其れとも色打掛にするかい?衣装屋さんどうですか、かつらも必要ですかね?


 髪は纏め上げで大丈夫でしょう、色打掛ですか?色打掛はどちらかと言うと披露宴でのお色直しの時に御着用される方が多いですね。


 やっぱり白無垢で白打掛が良いかい?そうだね、そんならそうしてやっぺよ。


 そうだね、其れが良いね。そんで決まりだっぺ。


 それじゃ今度は田圃が終わった頃に、ウエディングドレスのサイズと色を決めて、其の時に侑希ちゃんのサイズも取りましょうか。


 美由紀さん、本当は亡くなった侑希ちゃんのパパと結婚式を上げたかったんじゃないのかな?でも、今は浩ちゃんがいるから死んで居ない人より今を大事にしてくれる人が側にいてあげられるようにしてやろうよ。


 そうだよぉ、でも、ちょっとお節介だけどね。


 だけど、大丈夫なんだろうね二人の気持ちは、秋江さんダメだなんて事ないよね。


 其れなら大丈夫よ、ちゃんと二人の気持ちは知ってるから、美由紀さんの気持ちも子供達からちゃんと聞いてるし、問題はどうやってあの男にハッキリさせるかだね。


 後は純ちゃんが何とかやってくれると思うよ、最後の打ち合わせが終わったら段取りを決めて、この地区の人達に連絡をして協力してもらいますのでその時には宜しくお願いします。


 浩ちゃんの会社の人達の名簿はお葬式の時の住所録があるからそれで拾って、お正月に来た人たちもいるからそっちは会社の人に任せる事にすれば、秀樹ちゃんがやってくれるでしょうから大丈夫として於きますね


 其れじゃ皆さん、お盆が終わったら稲刈りがあるし田圃畑が終わるまで、夏バテせずに熱中症や病気、怪我でメンバーが欠けないようにしましょう。




 美由紀さん凄く綺麗だったよ、私もお嫁さんになりたいなぁ。でも、いきなり涙流すから私達もびっくりして、家のお母ちゃんやおばさん達も美由紀さんの事よく知ってるから一緒に涙流してたし、でも良かった美由紀さんの花嫁姿が見られて、次はおじさんと一緒にだね。


「ごめんねぇ、私はもう白無垢着れないって思っていたから、嬉しくって其れに・・・ゴメンゴメンまた涙が出ちゃうからもう言わない」






「お帰りぃ!もうスミレ会終わったの、侑希ちゃん邪魔しなかった。今日の会合はなんの集まりだったの?」


「今日はねぇウフフフ、教えてあ~げない。でも、すごく楽しかったよねぇ侑希。さぁて晩ご飯でも作りましょうか」


「今日は天ぷらが食べたくてさぁ、さっき野菜だけ揚げておいたんだけど。エビとか魚はまだ上げてないんだ。其れと切り干し大根も煮ておきましたしサラダも作って置きましたので後はお願い出来ますでしょうか((笑))」


「はいはい、分かりました、後は私が引き受けさせて頂きますが、但し条件が。ウフフフ家のお姫様をお風呂に入れて頂けれるとすっごく嬉しいのですが、この取引はいかがでしょう」


「はぁい、喜んでお引き受けいたします。其れでは御姫様の準備をお願いし私はお風呂の準備を致しましょうアッハハハ。梶ちゃんなんなのこの会話、おかしくてもう無理だから」


 俺はいつもの様にお風呂を侑希ちゃんと二人で遊びながら洗ってお湯を張っていく。

 一緒に入りたい侑希ちゃんはもう水遊びばかりしたがるので俺の来ている服はビショビショで、其れでもキャッキャッキャッしながら怒られながらも遊ばされてしまった。


 俺はいつもの様に侑希ちゃんとお風呂に入り一緒に遊んで体を洗って、髪をドライヤーで乾かしてから一緒に洗面所を出て、梶ちゃんに侑希ちゃんを届けて俺の仕事は終わる。


「侑希は髪の毛乾かすのを嫌がんなかった?最近、嫌がって怒るんだよね」


「えっそうなの、別に嫌がんないし、ドライヤー充ててる時にはおもちゃで遊んでいるし、時々椅子から逃げちゃうので追いかけたりはするけれど、其れでも怒る程ではないし、、、、うぅ~ん別に普通だよ」


(あぁあ敵わないなぁ関矢君には。きっと侑希と一緒に遊びながらと云うか楽しみながら、侑希も一緒に楽しんでいるんだろうなぁ。でもそこには私は入れない世界なのかもね)


 パァアパオ~ジ、マンマ・マンマ、ダァッダァッ、マァマ・マンマ、、マァマ・マンマ


「はいはいはい、侑希はお腹が空いたのね、ご飯にしましょうね、ちゃんと椅子に座ってくれたらご飯にしてあげるからねぇ」


「侑希ちゃん、ちゃんと椅子に座ったよ。お待たせしたね食べようか、ママの作ったのは美味しんだからほっぺが落ちちゃうぞぉ」


「関矢君、今なんて言ったの?あのぉ今ママが作ったのって聞こえたんだけど」


「ゥンッ、言ったよママが作ったのって、侑希ちゃんのママが作ったのはいつも美味しいよねって。本当だよ、梶ちゃんの作ったのは美味しんだから、俺は一番好きだよ」


(うわっ恥ずかしい!何一人で勘違いしたんだろ、今日の私どうかしてるかも?きっと花嫁衣裳の白無垢着たから意識しちゃったのかも~!)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る