第五十一話 二人の距離の違い・・・・・人事異動





 三月に入り決算の準備や在庫整理等で追われている中で、近藤支社長から例のプロジェクト何とかしろって言われてしまった。

 内容を言わないで指示を出してきたと言う事は本格的に始めようとしている訳で、スマート・エコを会社ぐるみで行う予定が見えてきたと言う事なのだろう。


 今まで俺が行ってきたネット会議はあくまで社内サークル的と云うか黒沢社長の諮問的なものであったけれど、どうやら役員会議に諮り事業として確立させるつもりであるようだ。

 だからと言って営業所の仕事もあるし、今後どのようになっていくのか皆目見当がつかないまま日々が過ぎていく。


 梶ちゃんもまた、侑希ちゃんの事を考えて移動願いを出していて、どうやらそれが通りそうだと話してきた。

 今までの市民課では休みが取りずらいと云うことも有り、あまり迷惑が掛からずに連続休暇が取れる所へと出したけれど、どの部署でもそんな都合よく休ませてくれる訳もなく、それでも何とか母子家庭と云う事で少子化・人口減少対策課への異動が決まったようだ。


 移動は4月1日付でと云う事は決まってけれど、仕事の内容については俺は聞いていないのでどのような部署なのか分かっていない。

 其れでも侑希ちゃんとの生活を第一と考えている事が分かり、俺としても「出来るだけ協力をさせてもらうよ、それに叔母さんにも俺から話してあるから安心して仕事に頑張れるからね」と伝えておいた。


 俺の人事異動も内定発表され、今までの南田営業所勤務ではなく支社勤務となり、四月より近藤支社長預かりで共に仕事をする事になりました。

 此れから新しいプロジェクトが海外事業部支社長であり本社取締役の栗原海外支社長をトップに近藤支社長、渡辺技術営業部長が加わり、そして俺と一緒に今までのプロジェクトメンバーが部下に選ばれたのだ。


 あちゃぁ此れは黒沢体制のミニチュア版か!と思えるほどのメンバーだけれど、黒沢社長の諮問会議から外れ完全に独立した新しい事業で、採算が取れなければ解散という厳しいものであることが手に取る様に分かる。

 つまりこの体制は未来の会社への布陣であり、黒沢社長が会社の命運をかけた事業でもあるのだ。


「関矢、やっとここまで上がって来たか!お前の頑張りは皆知っている事だから誰も文句は言わないだろう。其れよりもだ、多分だがお前と一緒に仕事をしたいと云ってくるのが増えるんじゃないのか、ちゃんとその辺は対処しとけよ」


「近藤支社長、お陰様で皆さんの後押しがあってこそで、自分の力ではない事は知ってますから。此れからの展望は栗原海外事業支社長の考え方一つで大きく変わるのではないでしょうか。かと言って独断専行で無い事は誰かさん達の影の取締役会が黙って居ないでしょう((笑))」


「お前なぁ、全く関矢だけだよ俺達に意見出来るのは!アッもう一人いたな、貴子さんがな((笑))」



 春のお彼岸を迎え、梶ちゃんも高畑さんの家へ挨拶をしながら侑一さんの墓参りへと出かけて行った。

 俺も秀樹兄さんや純姉さんや秋江叔母さん達等と一族総出で墓のある山へと列をなして行ってきた。

 

嫌な事や辛いことなど何かあれば必ずと言っていいほど親父とお袋に報告したり悩みを聞いてもらったりしている俺だけれど、天国にいる親父達がただ聞いていくれるだけでも俺は安心できるのだからこの世にいないのに不思議なものだ。

 今度は夏のお盆にまた来るからねと言っては、多分近いうちにまたここへ愚痴を言いに来るんだろうな。


 俺は下旬に事業部立ち上げの為に本社へ戻る事になり、慌ただしく準備を進め28日に本社へ戻って行った。

 今回は寮ではなく社長の家に寝泊まりをする事になっていて、猿渡さんが母さんと一緒に迎えに来てくれたのだ。


「美由紀さん、浩ちゃん暫くの間借りるわね、侑希ちゃんも寂しいだろうけれど、バーバが一緒に居るから何かあったらすぐに連絡して頂戴ね」


 パァパ、パァパオ~ジ、うぇ~んダァダァ、うぇ~んダァコ、だぁこ


「侑希ぃ、関矢君はお仕事で出けるのよ!いつも言ってるでしょ、お仕事の時にはどうするの!・・泣かないの侑希、バイバイでしょ」


 パァパ、パァアパ、うぇっうぇっうぇぅっ、バイバイ、うぇ~んうぇ~ん


「あらあらあら、侑希ちゃん泣いちゃったわね。浩ちゃんどうするの?ちゃんとしてあげてから行きましょうか。其れが良いわね」


 母さんにそう言われてしまい、俺は侑希ちゃんを抱っこして涙を拭いてあげてからちゃんと手を握って「侑希ちゃん、其れじゃ行ってくるからもう泣かないでネ!帰ってきたらいっぱい遊んで、お風呂も一緒に入って寝てあげるから・・・ねっ!良い子にしててね、行ってきます。チュッ」


「関矢君いってらっしゃい!侑希は大丈夫だから、安心して行って来てね。其れと帰ってきたらちゃんと侑希との約束を守ってねぇウフフフ」


 等と帰って来てからの約束をしてから俺は、猿渡さんの運転する車で黒沢家へと戻って行った。



 関矢君が東京へと戻ってから私も新しい部署へと出勤しています。

 前任者との引継ぎを簡単に済ませて、書類や新年度から始まる事業について確認をしていると、初日だと云うのに担当課長から呼ばれてしまいました。


 私、何かした?其れともまた子供の事とか説明しないといけないのかなぁ?

等度と考えながら課長の席に行ったのですが、課長からから思っても居ないことを言われてしまったのでした。



「梶谷さん、移動して早速の仕事で申し訳ないんだけど、実は前から決まっているこの企画の担当を貴女にお願いするから、其れとこのイベントに貴女も参加者の一人として出て貰うからね、後でプロフィール用紙に記入して此方へ提出してください」


「えっ、そんな話は引継ぎの中で聞いてないですが、何ですか其の企画と云うのは?どうしても私も参加しなくてはいけないのでしょうか」


「あぁ君の前任者が企画を立ち上げて移動してしまったからね。それに君は子持ちだけれど独身だったよね、この企画にはちょうど良いんだ。ぜひ君には参加してもらいたい」


 私が移動した少子化・人口減少対策課はお見合いパーティー、いわゆる合コンを主催して市内の在住または企業に働いている独身の男女の方に出会いの場を設け、参加者を広報で募集して集団お見合いを公費で行っているのです。

 役所内でこのような少子化対策の一環として行ってるなんて知りませんでしたので、何をして良いのかなどすべてが前任者の資料の見直しからして行かなければなりませんでした。


 ただ、今度の部署は意外と時間になればすぐに帰る事が出来るので、侑希のお迎えも楽になり、関矢君に美味しいものを???・・・・今は本社に行っていて居ないんでした。

 侑希と二人だけの食事、いつもは侑希が関矢君に甘えては燥いでいるのに、ここ最近は静かで大人しくしています。


 純さんが土曜日に様子を見に来てくれましたので、新しい部署の事を話してみると、「知ってるわよ、その集団お見合い、私も参加して隆さんと知り合って結婚したんだから」って、えぇっそうなの!

 二人の馴初めを初めて聞いた訳で、其れも私の部署が主催している「You&I、Loveネット」でお見合いしていたなんてビックリでした。


 課長が私に参加しなさいと云ったのは、運営メンバーではなく通常の参加者として出なさいと云う事でした。

 確かに私は独身ですけど、「でも子持ちよ、そんな私に興味を持つ人なんている訳はないわ」、でも出なさいと云われてしまった以上断る事も出来ずにプロフィル作成をせざるを得ませんでした。



 お見合いパーティーに参加する事を関矢君に言おうか迷ったんですが、純さんから参加した方が良いと激励されてしまったのです。


「別に良いんじゃない!侑希ちゃんの誕生日の時にも行ったけど、浩史君より良い男がいたら結婚しちゃいなさい。婚期を逃したらそれこそ勿体ないんだから、遠慮する事なんて無いのよ。浩史君だって本当に結婚したかったらそれなりに行動しなければね、今それが出来ていないんだから。其れに何時までも待って居る訳には行かないでしょ、肝心な事は侑希ちゃんに物心が付く前にはっきりさせた方が別れも辛くないし、お互いに良いと云う事よ」


 私は関矢君に申し訳ない気持ちと何と言うか裏切っているような、浮気しているような???複雑な気持ちで課長に参加への申し込みをしました。





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