第五十話 時は過ぎる・・・・・フライング

 



 外から賑やかな声が、美咲ちゃん夫婦が侑希ちゃんの誕生祝にやってきた。


 美咲ちゃんにとっても可愛い姪っ子の誕生日、何時かは自分達の子供を祝ってやりたいと思ってるようだけれどまだそのような計画はないようだ。

 何、修ちゃんのあのデレっとした顔・・・って人の事は言えない俺がいた。


「兄にぃ、あっという間だったね!侑希ちゃんが産まれてからの一年、殆ど兄にぃがお風呂入れてくれてたんだよね。私達にも出来たら兄にぃに頼んじゃおうかな!ねぇ修ちゃん、私達も赤ちゃんは欲しいけど、まだ遊びたいもんねぇ」


「何、馬鹿なこと言ってんの!この地区の人達が言ってたわよぉ。子供は早めに作って後で楽しんだほうが良いんだって、子育てが早く終わって自分達の時間が早く持てるようになるから年取った時に楽出来るんだってさ」


「だけどさぁあ、お姉ちゃん達だって今後どうするのか考えてんの?妹としては成るべく早く結論を出して欲しいんですけど、と言ってもこの二人は奥手も奥手だから無理だと云う事は此処にいる皆さんも知ってますよね」


 あぁあ、今年も美咲ちゃんに言われちゃったわね。


 まぁ焦んなくても良いけどさぁ、そろそろ考えて欲しいのも確かだわなぁ。


 そのうち、自然に纏まるから。


 それに、まだこの二人には新しい出会いが有るかも知んねぇしな


 等と、皆に好き勝手を言われてしまった。


「はいはい、分かりました!でも、今日は侑希の一歳の誕生日ですから!さぁ侑希、ケーキの上の蝋燭の火を吹き消してねぇ、ってアァアァ駄目だよ指入れちゃ。もう侑希ったら待てないんだからぁ」


 あはははは、それは無理だわなぁ!さぁ皆で祝ってやろう。侑希ちゃん、お腹空いちゃってるからな。



 皆でケーキを前にして写真を撮る時には、フライングした侑希の顔にはクリームが付いて、その指を関矢君の口に入れようとしては顔をクリームだらけにされて、最後は指を口に入れらている写真となってしまいました。

 多くの方に侑希の誕生日を祝って頂けるのは有難い事だけど、正直な話いつまでもこのような生活が出来るとは思っていない、いや、多分私と関矢君との関係は続かないと思っています。


 美咲や護兄さん達だって多分薄々は気が付いていると思うけれど、関矢君に私は釣り合わないと云うか住む世界が違っている、何故ってそれは彼はあまりにも純情すぎるのです。

 関矢君は未だに高校生のままの気持ちを今でも持ち続けているけれど、私はもうその気持ちを忘れてしまって・・・・彼には申し訳ないけれどその気持ちに応えられないと思う。


 関矢君には感謝している、けれど私達母娘が彼には足枷になってしまう様で、それが私には怖いのです。

 関矢君に集まる人は彼を本当に必要としている人達ばかりで、其れは仕事であったり、友達としてであったり、家族であったり、皆彼に感謝してるしそれを喜びとしている。

 私もその一人であるし、侑希だって美咲達だって関矢君を必要としている、其れは友達としてであったり普通の家族とは違う姉弟みたいな・・・不思議な人?其れが関矢君なのです。


「美由紀ちゃん、侑希ちゃんが産まれてくれて本当によかったわね、あれから一年が経ったけど大きな病気もしないで健康に育ってくれて、美由紀ちゃんがお母さんとして頑張った証だからね。其れから、私からなんだけど・・あのねぇ、怒んないで聞いて欲しいの。さっき美咲ちゃんが言ってたでしょう、美由紀ちゃんの結婚の話、確かに私たち兄姉から見れば家の浩史君と結婚して貰えれば良いなぁって思っているけど。でもね、別に家の浩史君でなくても良いの、と云うかもっと良い人がいると思うから、もしそういう人が現れたら遠慮なく結婚しちゃいなさいね。何でかというと、男と女の考え方は違うのよね」


「どうしたんですか純さん?いきなり何を言うのかと思っていましたけど、心配してくれてありがとうございます、結婚は今のところ考えていないですよ。って言うか、本当にどうしたんですか?」


「あのね、浩史君は何時も側にいて見ているから分かると思うんだけど、いつも他人の事を優先して自分の事になると二の次にしちゃうのよ。お正月の時も沢山の人が集まってくれたでしょ、多分ビックリしたと思うんだけど。いつも、他人の為に動いてると云うか、自分が無いのよね」


「純さん、同じ様なことを貴子さんが言ってました。女の考え方は自分への愛と子供への愛を考えてくれる人を選ぶことなのよ、それが女としての本能なのだから。浩史君より良い人が居たならば遠慮する事なく結婚しなさいって。もう皆さんには心配ばかりかけて、でも私、嬉しいです」


「そう言えばさぁ、お姉ちゃん!お姉ちゃん達は二人で撮った写真ってあるの?お兄ちゃんがさぁ、美由紀お姉ちゃんが昨年実家に来て学生時代の写真を整理しては、無い?、無い?って、、それで何が無いんだろうなぁって、もしかして、兄にぃとの写真かなぁ?って私は思ったの」


「あらぁ、それは聞き付て為らないわね。美由紀ちゃん、高校生の時に浩ちゃんと一緒の写真撮らなかったの?あんだけ仲が良かったし古い家の時には何度も来てくれたのに、ふぅ~ん無かったのぉ、でも、ウフフフ持ってるんでしょ」


「ないですよ、高校生の時には一枚も撮ってないんです。だから・・・だから、もう良いでしょ、私達の事は」


「お姉ちゃん・・・だから?って、もしかしてお宮参りの時に無理やり頼んで撮ったの?」


「もう、美咲も良いでしょ、私達の事なんだから。それに、誰にも見せないって決めたんだから。アッしまった」


「あれぇ、其れってあると云う事なんだぁ。ふぅ~ん有るんだぁ、まぁこの二人は今始まった訳じゃないけど、何時まで経っても学生恋愛気分なんだから。見て居るこっちが恥ずかしくなりますよね、純さん」



 俺の知らない所でいろいろな話が出ているようだけれど、俺には梶ちゃん母娘が幸せになってくれれば良いと思っているし、侑希ちゃんが健やかに育ってくれることを願っている事しか出来ないのだ。

 人にはそれぞれ幸せなりたいと願っていると思うけれど、俺は自分が幸せになる事を望んできていなかった。

 もしかしたら望んでも良いのかも知れないけれど、どうして良いのかも分からないし、愛し方が分からないと云った方が良いかも知れない。

 

 翌週の日曜日に侑希ちゃんと三人で、一歳になった報告をしに若宮八幡宮へ行ってきました。

 参道を歩いていると侑希ちゃんがあっち行ったりこっち行ったりと忙しく、欅の木の下にある落ち葉を拾っては梶ちゃんや俺の所に持ってきてはまた拾ってくるのです。


 あぃ、パァパ、あぃあぃマァマあぃ、パァパあぃ


 社務所には宮司さんと奥様が居まして、ご挨拶を済ませてから参拝をしていると、大奥様が出てきて侑希ちゃんを抱っこして貰えたんです。


「あらっよく来てくれたわね!この子も一歳になったのね、早いものねぇ。お正月の時よりもしっかりと歩いて、良い子ですねぇ。ちゃんとパパとママの云う事を聞くんですよ。って言うよりもお二人はまだ結婚しないの?息子たちがお二人の事心配していましたよ。色々と片付けなくてはいけないことが有るでしょうけど、二人で乗り切っていくんですよ。この子の為にも、ネッ」




 二月に入りバレンタインが、今年は侑希ちゃんからと言って梶ちゃんが俺にチョコレートをくれた。

 チョコレートを貰える日が来るなんて、「なんて日だぁ」って食べようとすると侑希ちゃんが俺にくれたチョコレートを舐めだしている。

「あぁあ、其れ俺のチョコレートだぞぉ」って言おうとした時に梶ちゃんが「侑希、ダメだよそれは関矢君のよ、侑希のこっちにあるでしょ」って、でも、もう無理かも!侑希ちゃんの涎でベトベト状態になっている((´;ω;`))。


 俺は黒沢の十五年忌の法事を済ませてから、親父とお袋の墓前に挨拶をして家に戻ってきた。

 住職から、その後の生活で変わりないですかと聞かれ、侑希ちゃんの事や、高畑さんの御家族の事などをかいつまんで説明して、いまだに俺自体が踏ん切りが付けられないでいる事を話してきた。

 住職からも急ぐことはなくじっくりと焦らないで、時期が来るまで自然に任せるようにするのが大事ですよ!とのお言葉を頂き寺を後にして、と言われても俺自身はどこに向かおうとしているのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る