第四十九話 時は過ぎる・・・・・一歳の誕生日




 お正月も過ぎ毎日が追われている中で、もうすぐ侑希ちゃんの一歳の誕生日が来る、そう病院で産声を上げてから一年が経つのだ。

 あっと言う間の一年、今では歩いて色々な物に興味を持ち、キャッキャっと喜んでは遊びまわっているのだから子供の成長の速さには驚くばかりで、侑希ちゃんと同じに其れなりに少しは成長したのかなぁ?と思っている俺がいた。


 昨年には梶ちゃんもまだ高畑家との関係が拗れていたけれど、血液鑑定から侑希ちゃんを認めて頂き今では高畑家の孫としても可愛がって貰っているし、こんなに嬉しいことはない。

 俺には梶ちゃん達を幸せにする事が出来るような力は無いけれど、見守ってあげる事くらいは出来るだろう。

 多分、今後も色々あるだろうけど見守ってあげたいと思っている。


 子供の成長は早いと云うけれど、侑希ちゃんも身長が75.6㌢、体重も8730㌘、平均的でミルクと離乳食の混合になり、最近はオッパイは飲んでいないけれど怪我も無く病気も無く、去年の秋に心配した自家中毒も今の所は再発もなく治まっている。

 12カ月検診でも今の所特別な異常は見られませんと云う事で、ただ、片親であると云う事はこれからが大変な時期に入るので、その時に誰かに面倒を見て貰える人を探しておいた方が良いと云われてしまったそうだ。


 最初、其れを聞いた時にこれから大変ってどういうことなの?って思わず聞いてしまったけれど、これは、どこの家庭でも一緒で「お母さんが仕事が出来なくなってしまう時期がある」つまり、これから侑希ちゃんは毎日のように病気のオンパレードが続くと云う事で、その度に保育園を休まなくてはいけない!そうすれば母親も付き添う訳だから仕事を休まなくてはいけない事になる、と云うのだ。

 父親が居れば経済的な安定が図れるけれど、母子家庭では働き手である母親がその度に休む事になる為、収入が減り経済的に厳しくなってしまう事が生じるので、その様にならないように子供の面倒を見てくれる人を探しておいた方が良いと忠告されてしまったのだ。


 連鎖球菌(溶連菌感染症)、リンゴ病、RS、はしか、おたふく、水ぼうそう、手足口病等々季節ごとに必ず罹ると云われている程で、避けては通れないようだ。

 取り敢えずは俺も協力するし秋江叔母さんなどにも声だけは掛けておいた方が良いのではと云う事になり、さっそくお願いする事にした。


 梶ちゃんは、朝から侑希ちゃんの誕生日用のケーキを作ると云っては張り切っている。


「ねぇ関矢君お願いがぁ!明日、侑希のケーキ作りたいんだけど良いかなぁ?材料費は侑希の誕生日だから私が出すけど、そのオーブンとか使わせてもらいたいんだぁ」


「梶ちゃん、何を今更言ってんの!普段通りに使っていただいて結構ですし、それに材料費だって俺が出すよ。そんなことまで心配してたの?」


「うぅん。だけど、侑希の誕生日は梶谷家の問題からね!あまり甘える訳に行かないでしょ。その辺はハッキリしないとダメですよ、大家さん」


 なんて朝から云われてしまい、俺は侑希ちゃんの子守りをしながらケーキ造りを眺めている。


 マァママァマ、オイチィ、ダンダン・マゥンマ・アァチアァチ・・・オンモ、オンモ・・・アァア、パァパオ~ジ、オンモ


 侑希ちゃんは家事ちゃんがケーキ作りを見ているのに飽きたみたいで、外へ出たがって音の鳴る靴のある所へと俺の手を引いていく。


「侑希ぃ、外へ出たいのぉ、ダメだよ今日は風が少しあるから、上に何か羽織らないと後で風邪引いてクシュンクシュンになっちゃうから」


 梶ちゃんが後ろを向きながら話しかけているけど、侑希ちゃんは外へ出る事しか考えていないようで靴に足を入れては俺に履かせようと怒っている。


 クックダァダ、パァパ、オンモアッチ!アッチマゥンマ、バイバイ


 あぁ怒られるのは俺か!と思いながら靴を履かせて上に赤ちゃん袢纏を着せて外に出ようとすると梶ちゃんから「早く帰って来てね、遅くまで遊んじゃだめだからね」との注意が飛んできた。


 庭に出ると少し冷たい風があるけれど侑希ちゃんには全く関係なようで、昔から云う子供は風の子とはよく言ったものです。

 庭を走り回っては落ち葉を拾って俺の手に持って来ての繰返しで、俺の両手には落ち葉がたくさん集まっている。


 パアァパ、パッ、キュッキュッ、パッ、あい!キュッキュッ、パッ、あ~い!


 秋江叔母さんの家に行くととゴンが待って居るのを見つけては駆け寄って、ワンワン、ワンワンと教えてくれる。

 以前は吠えられただけで泣いた侑希ちゃんも慣れたせいか、もう泣くことは無いし、自分から手を差し出してゴンに舐められては喜んでいる。


 ワンワン、レロレロ、パァパ、レロレロ、ワァン!ワァン


 侑希ちゃんの話している言葉も最初は分からなかったけれど、最近はこの赤ちゃん言葉が分かる様になって、親って本当はこのような会話を楽しんでいるんだろうなぁって思う俺が居た。


「あらっ、来てたの。侑希ちゃんも大きくなって歩くの上手になったから子守は大変だわね、ゴンに吠えられて泣かなかったのぉ偉いねぇ侑希ちゃん、あっちにミ~コと牛が居るから見てくれば」


 秋江叔母さんに此れから侑希ちゃんが病気に罹りやすくなると云う話をしてみると、「大丈夫よ、ちゃんと面倒見てあげるから!私だって三人の子供を育てたんだから心配しないで、浩ちゃんの時も私が面倒見たんだよ!覚えてる?」ってそう言えば・・・・・俺は頭を搔きながら「そうだったけ」って(そう言えば叔母さん家でゴロゴロしてたような)照れてしまった。


 ミ~コの話を聞いた侑希ちゃん、周りを見渡してからバイバイ、ナァナ!アッチ、ナァナ!バイバイ


 そう言うと一人で侑希ちゃんはさっさと駆け出していく、それを追いかける俺はいったい侑希ちゃんの何のだ。

 侑希ちゃんはミ~コを探してはあっちこっちへと行ったり来たりしながら狭い所へ入っていくので俺は冷や冷やしている。


 アァアァ!パァパパァアパ、ナァオ!ナァオ!だぁこ、だぁこ、ナァナ!だぁこ、ナァオ・ナァオ!


 ネコの鳴き声をしながらミ~コに近づく侑希ちゃん、ミ~コは五月蠅いなって顔をしては体を丸めて寝たふりをしている。

 ミ~コも子育てが一段落しているせいか、親のとしての雰囲気を出しながらも尻尾を小さく動かしながら侑希ちゃんの相手をしてくれてるようだ。


 少しづつ動物との触れ合いの仕方を覚えて、嫌われないようにあまり深入りをせずにいる。

 怖いのかどうかは分からないけれど、近くに寄っては触ろうとしているけれど、いきなり触ろうとはしていないのが面白く見える。


 家に戻ると土間に立ち込める甘い匂い、侑希ちゃんの顔が喜んでは梶ちゃんの所に行こうとするけれど止められてしまった。


「ダメよ侑希、こっちに来ては!まず手を洗って頂戴、お顔も汚れてるねぇ何処に行ったの?ケーキは皆が来てからだからねぇ、其れ迄はミルクとタマゴボーロがあるからそれで我慢してねぇ、良い子だねぇ」


 と云ってもそれで我慢出来る訳がない事は母親である梶ちゃんがよく知っていて、スポンジの余りを侑希ちゃんに渡して満足させている。

 俺は梶ちゃんに侑希ちゃんがどこに行って何をしていたのかを説明しながらお茶を飲んでいる時に外で車の音がした。


 秀樹兄さんや純姉さん達も恵や健を連れて、今日は侑希ちゃんの誕生日祝いに来てくれたのだ。

 秀樹兄さんは昨年暮れの約束通りに一升餅を搗いて、紅白の熨斗餅と繭玉飾りを作ってくれた。


 兄さんの話では、親父が小さい時に初午の時に作って神棚に飾っていたと云う話を聞いたとか、其れで俺が小学に上がるころまでは作っていたそうだが覚えていない。

 親父の仕事が忙しくなったのと、此の辺の農家でも繭玉飾りをしなくなったと云う事で止めてしまったのだとか。


 繭玉つくりは元々養蚕農家が蚕繭の豊作を願って作ったり、作物の実り(稔り)に合わせて柳の木や水木の枝に紅白の餅を刺して願ったものだそうだ。

 親父の小さい時にはまだこの辺の畑には蚕のエサになる桑畑があって、その黒紫色に熟した桑の実を食べるのが子供のおやつだったと秀樹兄さんから初めて聞かされた。


 美咲ちゃん達ももうすぐ来るだろうけれど、「侑希ちゃん、生まれてきて良かったね」と俺は心の中で一人思っていると秀樹兄さんから「おい浩史、なに一人でニヤニヤしてんだ」って、あぁあ俺の気持ちを察して欲しいよ。


「ダメよ兄さん、浩史は侑希ちゃんには甘々なんだから、本当のパパじゃないのにね。また寂しい思いする事になるかも知れないのに・・・・本当にどうすんだろ?」


「そうだな、そん時はまた俺達が何とかしてやればいいんじゃないか!そのための兄姉弟なんだからな、もうアイツ一人に背負わせるのは無しだ」


 俺には純姉さんや秀樹兄さん達が俺と梶ちゃん母娘について話している事なんて知らなかったけれど、もっとこの時間が長く続けばいいなって思っていた。

 梶ちゃん母娘がここに居続ける事が無理な事は知ってるけど、それくらいの希望を俺が持っていても誰も文句は言わないだろう。




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