第四十八話 時は過ぎる・・・・・知らないのは俺だけ?




「本当に皆さんこんなに来てくれるの、二人共嬉しい事だわね。皆さん損得無しで集まるって素敵な事なのよ。我が家も人が集まるけれどそれは社長という権利に縋る人の集まりだから、利害関係が強いのよ。此処とは大きな違いだわ」


「あなたもそろそろ迎えが来る頃じゃないの、浩ちゃんの苦手とする近藤さんが来る事になっているのよ」


「えぇっ父さん、近藤支社長がここに来るの、早く言って下さいよ。もしかして明日のゴルフって渡辺部長とか一緒じゃないですよね」


「浩ちゃん何を言ってんだ、明日は公私の公でメンバーは海外事業部社長の栗原君と渡辺、それに近藤と私のいつものメンバーだよ。君は誰が苦手なんだったか思い出せないな?」


「いやぁまいったなぁ、それは全員です。会社の陰の取締役会じゃないですか、毎回海外視察で自由奔放なんですから、案内するこっちの身を考えて貰いたいくらいです」


「うむっ其れは近藤か栗原君に云いなさい、私に言ってもなぁ貴子さんもそう思うだろう」


「別に如何わしい所に案内してくださいと言ってる訳じゃないんでしょ、だったら其れもあなたの勉強になるわね。哲司さんんとアメリカに居た時なんか、あっち行ったりこっち行ったりと気になれば変わるんだから私だってついて行くのが大変だったのよ。大丈夫、浩ちゃんだからこそ信頼してくれてると思いなさい、ネッ哲司さん」


「そうだ、貴子さんの言う通りだよ。僕も皆君に期待しているし、その期待に応えてくれているじゃないか。今度は誰かさんの期待に応えられるよう今年一年頑張らないとな」


 いろいろと言われている俺だったけど、誰かの為にって言われても今の俺には・・・・思わず梶ちゃんの顔を見てしまった。


「うんっ何、関矢君私に何かついてる?ウフフフ変なの!」


 地区の皆も居なくなり梶ちゃん達母娘と東京の父さん達だけになり急に静かになっていく、侑希ちゃんだけがにこやかに皆に愛想を振りまいてくれてるので場が持っているようなものになっている。


「浩ちゃん、今夜は貴子さん泊っていくから宜しくね。明日、姪っ子母娘が迎えに来るからそれまでゆっくりさせてくれ。普段、社長の奥さんとしていつも気を使ってくれてるから、其れに孫みたいな侑希ちゃんと居られる機会なんて滅多にない事だからな」


「それは構いませんけど、父さん達こそ羽目を外さないで下さいよ。皆さんの行動は危なっかしくて見ていられない時がありますから、お願いします」


「おい関矢、誰が危なっかしいだって、黙って聞いてりゃ言いたいこと言いやがって、危ないのは渡辺一人だろ俺を入れるな」


「おいおいおい、お前も危なっかしいだろう、栗原なんてもっと危なっかしいしな、誰が一番危なっかしいのは何と言おうと黒沢御大だよな」


 アッハハハハ


 いつの間にか来ていた会社の上司で、そして父さん達の親友であるこのメンバー達、何で、この人達はこんなに仲が良いのか俺には分からない。

 父さんが一番年上で偉いはずなのに、いつも不思議に思っている俺・・・・梶ちゃんも不思議そうな顔して見てるよ。


 「おい関矢、ちょっと紹介しろよ、お前の同級生で元カノ。お前はフラれたんだろう、今一緒に共同生活させてもらってんだろうから感謝して紹介してくれ」


「勘弁してくださいよ、本当に思っていること直ぐに話すんですから((笑))仰る通り感謝して一緒に共同生活させて頂いております、梶谷美由紀さんとそのお子様の侑希ちゃんです、侑希ちゃんご挨拶しましょうね」


「皆さん、遠い所来て頂きまして本当に有難うございます。梶谷美由紀です、そして抱っこされているのが娘の侑希です」


「アァァア、関矢はダメなパパになりそうだな、こんなに娘に甘くてはなぁ栗原、お前ん所は違うよな」


「いや、俺も娘には甘いよ、何でも買ってあげちゃうし許しちゃうから怒られてばかりだ。年末から海外に遊びに行って今日帰ってくるらしい。未だ俺と顔を合わせていないんだよ」


「あぁぁあ、ここにもダメパパが居やがる、俺なんか見ろ子供の躾は厳しいぞ」


「何言ってやがる近藤なんか奥さんからのメールで買い物してから帰るくせして、俺より女房に甘いだろ。とはいえ黒沢には負けるけどな」


 なんて酷い会話なのだ、会社の上層部がいう言葉かって思いながら諦め、侑希ちゃんは皆に代わる代わる抱っこされて上機嫌で俺も鼻が高かった。


 海外に行っても皆を貶してすぐに褒める、上げたり下げたりが忙しい人たちだけれど誰も怒らない、信頼し合ってるからこそ言える会話だと云う事は十分知っている。


「本当に皆さんは会社に入社してからの付き合いで長い事、私の入る余地なんか有りませんね。今年も哲司さんを宜しくお願いします」


 この一言で皆が急に真面目顔になり、「大丈夫です任せてください、代わりに栗原が居ますから」でまた高笑いが出て、父さんも支社長達と一緒に水戸のホテルへと向かってしまった。


 お母さんと梶ちゃん達で新年会の会場と化した土間の片付けをして、夕飯の準備を始める梶ちゃん、俺も手伝ってある程度準備が出来たので、女性三人で風呂に入って貰い、俺は梶ちゃん達の部屋へと布団を運んでいく。

 母さんは侑希ちゃんのような小さな子供と一緒に風呂に入った事が無くて、侑希ちゃんの着替えセットやおもちゃなどを準備しては説明をしている。


 お正月は俺が入れてあげたけど、今日は三人で入る侑希ちゃん、何か梶ちゃんも楽しそうに準備をしているのが嬉しかった。


 TVでは正月特番が流れ、何処のチャンネルに変えても殆どがお笑い系であまり見る物が無くて母さん達は疲れもあって梶ちゃん達の部屋へと、俺もさすがに今日は疲れてしまい少し早いけれど早めに寝る事にした。

 

 まさか、東京の父さん達がこの茨城の俺の実家へ来るとは思わなかったし、秀樹兄さんも黙っているなんてサプライズかもしれないけれど、これでは心臓が幾つあっても足りないよ!なんて思って居るうちに眠ってしまった。


 ダァダァキャッキャキャ・・バンバン、パァパ、ネッネネッネ、イットネッネ


 侑季ちゃんが俺の部屋に入ってくる音で目を覚まし、ベッドの布団を開けて侑季ちゃんとまた添い寝している俺が居る、きっと母さんも吃驚してるだろうな。



「美由紀さん、浩ちゃんの事どう思っているかは分からないけれど急ぐ必要はないのよ。貴女にはこれからもっと素敵な人が現れるかもしれないでしょ、もしそのような人が現れたなら遠慮しない事ね。だって貴女は自由だし、そりゃ侑希ちゃんがいるから自由の制限はあるでしょうけど本当にあなたを守ってくれる人、そして侑希ちゃんを大事にしてくれる人が現れたなら浩ちゃんを捨てなさい。それが出来なきゃあなたは幸せになれないわよ」


「有難うございます。私はてっきり関矢君と結婚してほしいといわれると思っていました。正直に言います、私は関矢君が好きです。でも、結婚相手としてなのかは分からないんです。侑季を可愛がって良くしてくれていて感謝していますが、関矢君、急にどこかに行っちゃいそうで不安があるんです。そのぉ、仕事とかじゃなくて、急にちょと・・・・なんて言うんでしょうか、侑一さんと同じように居なくなってしまうのではと・・・・何時も考えてしまうんです」


「侑一さんって、侑季ちゃんのパパの事ね。そうねぇ同じようにはならないと思うけど、こればっかしは分からないわね。そうだ、面白い話してあげましょうか、ウフフフ。今日、会社の人たち来たでしょ、美由紀さんから見てどう思った、面白いでしょう。あのね、あの中で哲司さんが一番年上といっても確か四歳くらい上かな、でもみんな会社の同期なの。会社では社長とか部長とかって役職があるからあのような会話は出来ないの、だから、ゴルフや東京の家に来るとあんな感じになるのよ。歳が行った悪たれ小僧って感じで面白いでしょう」


「アッ同期入社だったんですか、納得しました。なぜか可笑しいとは思って見ていたんですが、そうなんですね。でも羨ましいですね、あんなに仲がいいなんて」


「そうね、外から見ればそうなのかも知れないわね。でも、哲司さんはすごく悩んで・・・それでも大変だったの、其れを浩ちゃんがいつの間にか間に入って元に戻してくれたのよ、本人は気が付かないけれど。それはあの人達が一番知ってるの、だからみんな浩ちゃんならって所があるのよ、不思議な子よね。私達、あの子を養子にって関矢さんご夫婦にお願いしたことが有るの。だけど・・・断られちゃった。理由は貴方も知ってると思うけれど保護観察中だったことも有るけれど、私の息子はまだまだ未熟で私達が上手く育てることが出来なかった。だけど、私たちは親です、女房が自分のお腹を痛めて産んだ子ですから。でも私達では見せる事が出来ない未来を、この子に見せる事が出来るかも知れません。息子の将来を考えて貴方達に息子をお預け致します、其れで勘弁してください、って言われちゃったわ」


「関矢君のご両親は立派な方でした、私も存命中に何度かお会いさせて頂きましたが、私のお腹に侑希がまだ居る頃に関矢君と再会して。それがご縁でまた何回か訪問させてもらっていたのですが、困っている私に自分の命が短いというのに気にかけて頂きこの部屋を造ってくださったんだそうです。「困っている人がいるのに誰も手を差し伸べないのは関矢家としては恥だ」みたいな事を言っていたそうです」


「関矢さんらしいわ、元警察官として人の為にという気持ちがあったんでしょうね。多分、浩ちゃんのお嫁さんとしては考えていなかったんでしょう。損得無しの方でしたもの、だからこそ貴女は幸せにならなければいけないわね」


「あらっ侑希ちゃんどこに行こうとしてるの、まだ遊ぶつもりなの?」


「いいえ、きっと関矢君の所だと思います。何時もはお風呂も関矢君と入っているんですよ、朝方になるといつも関矢君のベッドに入って一緒に寝てるんです。今日は一緒にいる時間が少なかったので甘えたいんじゃないでしょうか」


「それって・・・・本当にパパみたい((笑))、浩ちゃんは本当に優しいのね」


 私も本当はそれでいいのって迷っていた時期も有りました、今はもう慣れてしまったというか侑希のしたいようにさせてあげようかと思い始めていたのです。

 もしかしたらこの生活は長く続かないのかもと思う気持ちと、出来れば長く続けばいいなぁって思っている私も居て、本当の私の気持ちはどっちなのでしょうか、誰か教えて欲しいです。


 侑希は朝まで関矢君と一緒に寝ていて、多分一度は起きてミルクを飲んでいるはずなのに関矢君は何時も普通にしてくれてるようです。

 いつも思うのですが、きっと侑希より関矢君に甘えているのは私なのかも知れません、母親として気にはしているんですが全く気にはしない関矢君に感謝している私なのです。関矢君ゴメンネ。


 貴子さんから慌てなくても良いからゆっくりと関矢君を見て知って欲しい、彼の事だからあなたに誰か好きな人が出来ても応援してくれると思うし、帰れる家になってくれるはずよって。

 私がいつも困っている時に必ず助けてくれる人、其れが関矢君・・私はいつも甘えてばかりで彼に恩返しができる日が来るのだろうか?



「おはようございま~す、美由紀ちゃ~ん、早智子で~す!迎えに来ました~。伯母さんがお世話になっていま~す」


 えっ何、誰?早智子って、伯母さんが世話になってるって誰のこと??

 俺は初めてこの時に栗原さんが姪っ子である事を知り、そして海外事業部栗原社長の娘であり母さんの弟の子供であると云う事を知ったのです。


 うわぁ本気(マジ)かよ。


「浩史さん御久し振りです、今日は栗原さんの運転手として浩史さんに会いたくて、早智子さんが奥様を迎えに行くと云うので運転させて頂いております。家内も浩史さんに会いたがっていました。でも、社長の家を留守には出来ませんので家内は留守番をしています」


「猿渡さん久しぶりです。僕も逢いたかったです。父さん母さんをいつも身近に見て頂き連絡くださって本当に感謝しています。どうして栗原さんが弟って教えてくださらなかったんですか?初めて知りましたよ((笑))」


「はい、実は社長から口止めされておりまして、自然に普通に出会えればそれが一番だからと仰られ私共もそのように思い黙って居ました、申し訳ありません」


「いや、猿渡さんが頭を下げる必要は有りません、皆さん私のことを思って頂いた訳ですから、気になさらないでください、奥様はお元気ですか、また東京での美味しい御握りが食べたいです」



「美由紀さん久しぶりですね、侑希ちゃん早智子ですよぉ。ママの友達ですよぉ、はぁい抱っこしてあげますねぇ」


「ウフフフ早智子さんも子供好きなんですね、早く結婚して健康なお子様が出来る事を願わなくっちゃですね」


「そうよねぇ、何で私に彼氏が出来ないのかしら?彼氏探しは本当に難しいのよねぇ、美由紀さんはどうなの素直な気持ち伯母さんに話したの。伯母さんはいつも中立よ、だから私もよく相談するし伯父さんが困った時にも力添えをしてるの、伯母さんは地位を捨てて伯父様に尽くしてるんですもの私には多分できない」


 私には貴子さんの事がよく分からなかったけれど、同じ女性として尊敬されると云う事は素晴らしいと思いました。

 私には尊敬されるほどの力も知恵も美貌も無いけれど、其れなのに如何してこの家にはこんなに人が集まるんだろう?これも関矢家の人徳?力?うぅ~んちょっと違うような気もするけれど、でも毎日が楽しいから許しちゃおう。


「美由紀さん本当に久しぶりね、顔を合わせるのはあの日以来だから、侑希ちゃんがお腹に入っていたのに、もうこんなに大きくなって、私も叔母さん街道真っ直ぐに進んでいるのかなぁ((笑))」


「早智子さん本当に久しぶりですね、私は茨城から殆ど出る事が無いから御免なさいね。でも侑希を抱いてくれてありがとう嬉しいわ。でもまさか貴子さんの姪だなんて本当に信じられなかったのよ。多分関矢君はまだ知らないはずよウフフ」


「そうなの?さっき運転手さんの猿渡さんと話していたけど、それまで誰も教えていなかったんだ。へぇ伯母さんも関矢さんには厳しい所があるんだ。伯父様や猿渡さんの話だといつも会えなくて寂しいと言っていたようなのよ。それが最近、孫が出来たと云ってるらしくて、其れでピンと来て侑希ちゃんの事だ分かって、それで私も逢いたくなって来ちゃったんだから。侑希ちゃんに会えて本当に良かった」


 全く父さんも母さんも人が悪いんだから、何時か姪っ子に合わせてあげるからって話していたくせにもう会っていたなんて、ウンッ!そうかあの合コンは父さんが仕組んだなぁって今更遅いか(´;ω;`)

 土間では早智子さんや母さん達が梶ちゃん母娘と話し合っていて、俺と猿渡さんは廊下で座って話している、猿渡さんも田舎出身だから余計に地方の違いについて華が咲いた。


「奥さん元気ですか、毎日休み無しで大変なのでは。猿渡さんもですけど」


「浩史さんが社長に掛け合ってくれた御陰で私達にも休みが取れるようになって、奥様も最近、料理教室や陶芸教室へは一人でお出かけしては楽しまれています。この間なんか奥様の手料理を私たち頂く機会がございまして、浩史さんに食べさせてあげるんだって言ってました。早く帰って来て欲しいです。社長も美由紀さんのお子様の写真をスマホに入れて自慢してるんですよ((笑))私達夫婦も子供が居ませんのでお気持ちが分かるんです」


 そんなことを言われてもなぁと思っている俺だけど、まさか強権発動なんて・・・・有り得ない、有り得ない、その為のブレーキとしてあの三人が居るのだからと願う俺でした。

 いつかは別れが来る!其れが何時なのかは俺には分からないけれど、其れ迄は長く続いて欲しいと思う気持ちが最近俺の心の片隅に生まれている、何も変わっていないはずなのに・・・・。


 やがて、母さんや早智子さん達は猿渡さんの運転する車で東京へと戻って行った。

 やっと静かになった我が家はお正月もこれで終わり、明日からは普通の生活に戻るのだ。



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