第四十五話 あれから一年・・・・・高畑家と梶谷家





 そんな事が有った翌朝、梶ちゃんと侑希ちゃんは護さんの家に寄ってから侑希ちゃんのパパである侑一さんの実家へと、義姉さんの和子さん夫婦も帰って来てると云う事だった。

 和子さんの御主人には俺も会っていないし、梶ちゃんもまだ会ったことはないそうだ。


 俺が作った昨年の秋から撮影した侑希ちゃんのアルバムを持って、梶ちゃんと侑希ちゃんは出かけて行った。

 高畑さんの奥さんも和子さん夫婦も、歩き始めた侑希ちゃんに早く会いたがっているだろうし高畑さん夫婦にとっては亡くなった息子の子供である孫に、和子さん夫婦にとっては弟の子である姪っ子が産まれた事で新年を迎えるのだから環境が大きく変わったのだ。


「お父ちゃん、侑希ちゃん達来たよ、もう足んよしてるんだ。まだお尻が重そうだね。久しぶりね美由紀さん、明けましておめでとうございます」


「和子さん本当に久しぶりです、明けましておめでとうございます。ほら侑希もご挨拶しなさい」


 ダァダァダァコ!オゥオゥア~・・ダァダァ、ダァダァ


「何を言ってんだろうね((笑))侑希ちゃん本当に大きくなって、お父ちゃんが毎日写真見て喜んでるんだって、そんで私にも電話掛けて来て「早く孫を作れって」でね、私もやっと赤ちゃんが出来たみたいなの。家の旦那が大喜びしてさ、今日お父ちゃんに報告する事になってんのよ。此れも関矢さんの御陰なんだ。其れと、どう彼と上手くやってんの?」


「和子さん其れはおめでとうございます、良かったですね。長いこと出来なかったんでしょ、本当におめでとうございます。其れと関矢君とは何にもありませんよ、皆さん誤解しています。単なる大家さんと間借り人の関係ですよ」


「あらっまだそうなの?家の旦那が侑希ちゃんの写真を見て、どう見てもこれはパパ目線だな、侑希ちゃんがこんなに良い顔で出来んのはよっぽど関矢さんが好きなんだよ。俺も産まれてる来る子供にこうして見られたいよって、今から高望みしてんのよ。美由紀さん、無理しなくていいからね。侑一はもうこの世には居ないんだし、別にお父ちゃん達に気兼ねする事ないんだから。其れに関矢さんならお父ちゃんも何も言わないよ」


「大丈夫です。まだ私達は其処まで近づいていませんから、心配掛けてごめんないと云うか、さっきも言いましたけどそんな関係じゃありませんよ今の所は、それに関矢君は誰にも優しいから勘違いされるんですよ。」


「そうね、本当に優しいよね。特にあなた達家族には、だからこれから先が楽しみなの。さぁっ家に入ろう、おじいちゃんが待ってるから、おばあちゃんもね」


 和子さんに言われたから今の所はと答えた訳ではなく、私自身が関矢君をどう思っているのかがハッキリしていない事は自分自身が知っています。

 私が関矢君が帰ってくるまでをもっと待って居る事が出来ていたなら侑一さんとの関係はなかったのでは?でも…そうすれば関矢君が可愛がってくれる侑希は産まれてこなかったと悩んだことも、それに今の私は関矢君に愛される筈はないのです。


 皆が知っての通り関矢君はまじめで一生懸命で誰にも優しく、私には釣り合わないのです。

 彼には栗原さんのような方が似合っていると思う、だって私はバツイチではないけれど未婚の母なんだもの、世間の目が有るのだからきっと彼に迷惑をかけているのではと思う事もあるのです。。


「美由紀さんよく来たね。侑希ちゃんも寒いから早く入んな、ばあさんと待ってたよ」


「新年、明けましておめでとうございます。侑希、おじいちゃんとおばあちゃんに挨拶しなさい」


 ジィジ、バァバ、マァンママァンマ、ジィジダァダァ


「ジィジん所来るか、そうかそうか本当に大きくなったなぁ。おいで、膝の上に乗んな。美由紀さんも炬燵に入んなよ。ばあさんも俺も美由紀さん達が来んのを待ち通しくてな。でも今年は和子夫婦も来てくれて本当に嬉しいんだぁ」


「本当だよ美由紀さん、おじいさんなんか昨日から和たちに侑希ちゃんの話ばっかして、和達も聞き飽きたっぺ。だけどこうして家族が揃うなんて本当に久しぶりなんだわ、侑一に感謝しなくっちゃね。其れと関矢さんにも、ホントに有難いことなんだわ」


 朝の十時を過ぎたばかりなのに高畑家には大きな笑いが、其れもみんな侑希を中心とした笑いで、もうすぐ一歳を迎える一つ一つの侑希の動きが皆を笑顔にしている。

 高畑さんの膝の上でお菓子を口に運んでは食べられない事を知り嫌な顔をする侑希、それを高畑さんの口に入れようとしている。


「侑希、ジィジはもう食べられないよ。そうだ、バァバに食べて上げな、なっバァバにあげればバァバも喜ぶぞ」


「ヤダよお父ちゃん、もう侑希ちゃんに御菓子あげんの止めなよ。涎でみんな食べられなくなっから。侑希ちゃん、もうナイナイだよ無いないしようね」


「すみません、気づかなくて。ダメだよ侑希、ママの所においでミルクあげるから。ミルク飲もうねぇ」


 ャダァャダァ、マァンマ、マァンマ!キャキャキャッ!ブブブブブゥ!


 普段は関矢君の膝の上にいる侑希、今までと違う事でいろいろ気づかされることを知りました。

 関矢君は侑希には普段殆ど怒っていないし??あれ怒っているのは私!でもちゃんと注意と云うか教えてくれて居るよね。他人に悪い事をする時には注意しているけれど関矢君にする時には注意も怒っても居ない・・・うぅ~ん、彼は侑希に甘すぎるという事がこれでハッキリしたんです。


 家に帰ったら「侑希を甘やかさないで」って関矢君に注意しなくっちゃって侑希とは親子じゃないし、まして私たちは夫婦でも・・・でも、どこかで望んで居る私が居るのかも知れません。

 和子さんの御主人から新年の挨拶として新しい命が宿ったこと、そして、なるべく農業の繁忙期に帰ってくるようにするなどの話が出たのです。


「美由紀さん、迷惑をかけるかも知れないが和子と仲良くやって頂きたい。其れと和子から話が出たと思うけれど、自分の気持ちに素直に前向きに考えておいてください。応援します」


 えぇっ何なの皆して、私達ってそんなに気になる存在なの・・・でもありがたい言葉として受け止める事にして高畑家から帰路に付きました。





 馬場口の実家に寄ると美咲達も来ていて、新年の挨拶を済ませている内に侑希が御昼寝の時間になってしまい、小声で話している私達兄妹でしたが義姉さんから「大丈夫よ少しくらい大きな声を出しても、子供って起きないんだから」って、やっぱり子供三人育ててる母親は違う。

 美咲達夫婦もまだ子供を造る予定はないとの事でしたが、授かりものだから自然に任せる風なことを言っています。


「でっどうなんだ?美由紀、その後少しは変わったか。俺としては早くそっちの話が聞きたいんだが、なぁ美咲だってそう思うよな」


「お兄ちゃん無理だって、お姉ちゃん達は未だに高校生気分なんだから。いまだに手を触れていないんだよ。でも、あれだね。昨年暮れに兄ぃにが風邪を引いて寝込んで、お姉ちゃんその時に仕事休んで看病したんだってさ。だ・か・ら・・その時にちょっと何かあったんじゃないの」


「ちょ、ちょっと何言ってんの何もないわよ。身体を拭いてあげてって背中だけだよ。それに水枕作って交換して、小粥を作ってあげただけだから。侑希が心配して大変だったの、感染らない様に近づけさせないのを嫌がって何度も行こうとして泣いちゃってさぁ」


「本当に侑希ちゃんはパパっ子だよね、だからみんな心配してるんじゃないの。美由紀さん、護さんはさぁ、美由紀さんが子育てを一人でしているのが心配なんだよ。だから良い人が出来たらって、其れで関矢さんとはどうなのかなって?ほら市役所でもお見合いパーティ主催してるじゃない、だから今年、もし良ければ参加しても良いんじゃないかって話していたのよ」


「お姉ちゃん、本当の気持ちはどうなの?もしあの家を出るとなれば侑希ちゃんは兄ぃにと別れられるの?そっちの方が心配だね」


 何て、実家でも心配されて・・・アァアア私って幾つになってもみんなに心配されて、一人娘の母親なのに信用性ゼロなのかも、でも私を分かってくれる人・・・・・駄目だめっ、関矢君に頼っては、と思う自分なのでした。


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