第四十四話 あれから一年・・・・・二度目のお正月





 お節料理も出来上がり、秀樹兄さん達も近所に挨拶を済ませてから作った御節をお重に詰めて帰って行ってしまった。

 この家には梶ちゃん達家族と俺だけが残り、昨年と同じように・・・でも今年は三人で新しい正月を迎える。


 大晦日に梶ちゃんが蕎麦を打ちたいと言い出し、そもそも蕎麦なんて打ったことが有るの?なんて思っていたら案の定一度もない。

 其処で俺はタブレットも持ち出し、ネット情報で確認しながらキッチンを粉だらけにしそば打ち初挑戦、それでも何とかセメントや漆喰を捏ねるよりは楽かなんて思ったりしていたら梶ちゃんからこれが蕎麦?って不評が出て梶ちゃんが今度は作り直して何とか上手に蕎麦が打てたのです。


 天ぷらは以前に梶ちゃんから褒められていたので自信があり、今回も上手く揚がった為に褒められ少し有頂天になっている俺。

 こんな楽しい年末は今まで経験した事が無く、侑希ちゃんも喜んでくれている。


 昨年同様に、殆どの日本国民が見て居る歌番組を見ながら蕎麦を食べ、そして侑希ちゃんを風呂に入れては寝かせ、新しい年を迎えテレビの中の鐘の音を聞いてから二人で立ち上がっては挨拶を済ませた。


 新年あけましておめでとうございます。

 本年も侑希を含め迷惑を掛けると思いますが宜しくお願い致します。


 こちらこそ、昨年は風邪を引いて迷惑を掛けましたが宜しくお願い致します。


 改めて思う、高校生の時にこの日を夢見ていた気がする。

 梶ちゃんとこうして行く年来る年を行える喜び・・・でも多分そんなに長続きはしないだろ、そんな予感が俺の胸をよぎるけれど、今は今の時間を感じていたい。


 新年の朝を迎え、いつもの様にダァッダァダダダ、と這い這いの音をさせて俺の部屋にやってくる侑希ちゃん。


 パァパオ~ジ、パァパ、キャキャキャッ、オ~キ!オ~キ!マァンマ、マァママァマ、オ~キ


 それを追ってくる梶ちゃんの足音と何時もの声が「侑希ぃ~、ダメだって言ってるでしょ!」、あぁあ、今年も賑やかになりそう。


「おはよう侑希ちゃん、新年あけましておめでとう。今年も宜しくね」


 ダァダァダァコ!ダァコ、パァパオ~ジ、ダァコ!


 まだ顔も洗っていない俺に抱っこをせがむ侑希ちゃん、この子もそのうちに大きくなって「おじさん嫌い!」なんて言いだすんだろうなぁ、と思いつつ手を繋いで洗面所へと向かっていく。


「おはよう関矢君、顔を洗ったら餅焼いてね、侑希のは私のを上げるから二個と後、関矢君の分焼いてくれれば良いから」


 感慨に浸っている暇もなく梶ちゃんからのお手伝いの指示、多分、外から見れば尻に敷かれてるなって思うんだろうな。

 昨年末まで作っていた御節が並ぶテーブル、子供チェアにちょこんと座って大人しく・・・待ってる訳がない侑希ちゃんスプーンを持ってドンドンとテーブルを叩いて喜んでいる。


 マァマ、マァママァンマ、マァンマ、キャキャキャッ!ブブブブブゥ!


「侑希、静かに待ってなさい。今、関矢君が餅焼いてるんだから、ねぇ、まだ焼けないのぉ」


 えぇっそれ催促なのぉ、今焼いてって言われたばかりなのに、急いで焼けと言われても火を強くすれば焦げるし、意外と難しんだから餅焼きは、何べんもひっくり返して焼かないといけないこと教えてやりたいよ。

 やっと餅が焼け、お醬油味のお汁の中に、鶏肉とニンジン、大根、里芋が今年は入っているし其れと寿ナルトに三つ葉が、今年も美味しいお雑煮が食べられる、俺はなんて幸せ者なんだ。


 結婚している訳でもないし同棲してる訳でもない、大家と間借り人の共同生活なのにこんな幸せ良いのだろうか。

 いつかは訪れるだろうと思っている別れの日が来るまでは、この幸せ時間を味わっていたい。

 

「何さっきから独り言いってるの関矢君、餅が焼けたら食べようよ。侑希が待ちきれないんだから、ねぇ侑希」


「ゴメンゴメン、お待たせしちゃったね侑希ちゃん。お腹空いたよね、さぁ食べよう」


 三人で手を合わせて新年の挨拶をしてから、さっそく食べようと思ってる矢先に侑希ちゃんが今年初めてのフライングイート、やってくれましたね。


「今年も宜しくお願いします。頂きま~す、ってもう侑希ちゃんお口に入れてるよ((笑))」


 ウゥンマゥンマ、アァッアッアッ!パァパオ~ジ、ゥンマゥンマ


 今年も侑希ちゃんに振り回される一年になるのかなぁ、其れとも移動命令が出たりなんかしてどうなるんだろう。

 他の人から見たらおかしな共同生活だけど、長く続けばいいなと思っている俺が居た。


 朝のお雑煮も食べ終わり、三人でお宮参りをした若宮八幡宮へ初詣に行く事になった。

 境内も盛況で多くの人が入れ替わり入ってくる、破魔矢を買おうと社務所に寄って中を見ると宮司さんのお母さんがお札を売っていた。


「あらぁっ貴方たちお参りに来てくれたの。昨年お宮参りに来た娘ね、もうこんなに大きくなって・・・もう歩いているの、早いわね、家族みんなが元気に今年も過ごせますよ」


「ありがとうございます。奥様も今年も来年も元気に過ごせますように、失礼します」


 破魔矢を買っておみくじを引いて家に戻ると、寺子屋教室の子供達と英語教室の子供たちが待って居た。

 今年もお決まりの金額のお年玉をそれぞれ上げて、昨年と同じバドミントン大会が始まった。


「さぁ今年は負けないぞ、おじさんチームには侑希ちゃんのママがいるんだから覚悟しろよ」


「え~えっおじさんズルい~!美由紀さんは私達のチームだよ。ねぇ美由紀さん私達だよね」


 侑希ちゃんがバドミントンの羽を拾いたがって邪魔をするバドミントン大会、だけど侑希ちゃんの御陰で俺の顔も真っ黒だけどガキンチョ共にも今年は墨をつけれる事が出来、昨年の雪辱を腫らす事が出来た。

 子供達と一緒に墨を塗った顔で記念撮影をしてから顔を洗い、土間で皆でお茶会、此れも昨年と同じだ。

「あっそうだ、おじさん、お父ちゃんが明日家に居るかって、何でも新年会をやろうって言ってたよ」


「あぁっ、家のお父ちゃんも同じこと言ってた、おじちゃん明日家に居るの?」


「明日は午前はちょっと家の中を片付けて、午後なら開いてるよ!ただ明日は秀樹兄さん達も来るけど、まぁ大丈夫だよ」


「分かった、おじさん電話貸して、お父ちゃんに連絡すっから、良い?」


 子供達のお父さん達が新年会って、何処でやるの?って思っていたらこの家でやる事になっているようだ。


「おじちゃん、明日の午後二時から二時間だけおじさん家でやろうって、そんで、皆で持ち寄るから何も用意しなくていいから、机と椅子とコップだけ頼むってさ」



「関矢君、明日私居ないけど大丈夫?出かけるの止めても良いよ、何時でも行けるんだから」


「あっははは大丈夫だよ、高畑さんや護さん達は梶ちゃんと侑希ちゃんが来るのを待ってるんだから行きなよ。心配いらないって、秀樹兄さん達も来るから丁度良いんじゃないのかな」



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