第四十三話 あれから一年・・・・・家 族




 二十九日に美咲ちゃん夫婦もやって来て、「お姉ちゃん、お節料理の買い出しに行くから手伝って。それと、お節料理造るの教えて欲しいの」って言って来たんです。


「美由紀さん、お節料理手作りなの?其れ、私も手伝わせて」って裕子義姉さんも言いだして、今年は三家族で何か賑やかそうだぞって、秀樹兄さんと顔を見合わせている俺でした。


 修君と女性陣で買い物に行ってる間に秀樹兄さんと俺は、古いお札を剝がしては宮司さんが持ってきてくれた新しい当麻を入れ替えたり火伏のお札を貼ったり、そして本日のメインイベントである煙突の掃除を、此れが厄介で毎回煤だらけになっては梶ちゃんに笑われ侑希ちゃんには泣かれているけれど、今日は居ないのでさっさと済まて終わらせた。

 夕方になって賑やかな声が聞こえ、裕子義姉さん達が帰ってきた、侑希ちゃんが俺の顔を見ると両手を突き出して抱っこを欲しがっている。


 パァパ、パァパオ~ジ、ダァダァ、パァパオ~ジ、ダァダァ


「こら侑希ぃ、今までママに抱っこされていたのに関矢君に抱っこを欲しがるなんて、もう何甘えてんの」


 プイッ、ダァッダァッマァンマダァダァ


 「はいはい侑希ちゃんおいで、ママ達と買い物に行ってきたんだよね、楽しかったかい。あぁっお口から甘い匂いがするぞぉ」

 

 パァパオ~ジ、キャッキャキャブゥブブブブブ、キャッキャキャキャ


 「本当に関矢君は侑希に甘いんだから、はいはい侑希には甘いお菓子を欲しがられて買ってあげました。口の周りベトベトにしてたから拭いてくれると嬉しいんだけど」


 「はいよ、侑希ちゃん洗面所に行ってお口綺麗にしようねぇ。アリさんが来ちゃうからねぇ」


 何て事がありながら、俺と侑希ちゃんと男共は邪魔になってしまい、土間でのんびりと座ってはテレビの年末特別番組を見ている。

 台所では昨年俺が一緒にしていた野菜の下ごしらえを、明日からは煮物や卵焼きなどを作り始めるんだろう。


 今までこんなに賑やかな年末を迎えたことが有るだろうか、小さい時にお袋が一人で正月準備をしていたけれど大変だったんだなぁと今になって思う。

 親父は警察官だったから一日おきの休みで、朝、家を出たら次の日のお昼頃に帰って来ては小さな畑に出て農作業をしていた。


 何もなければ次の日が休みとなって俺達の相手をしたり一人で畑作業をしていた親父、お袋は平日は学校の仕事が有ったのだから仕方が無いけれど、其れでも夫婦で頑張って俺達を育ててくれていたのだ。

 親父には正月も何も変わりはしなかったけれど、お袋にとっては俺達子供と一緒に居られる時間だったんだろうと今になって思う。


 美咲ちゃん達は夕食が済んでから明日も来ると行う事で帰って行き、秀樹兄さん達が泊まっていく事になっている。

 今夜の侑希ちゃんは裕子義姉さんと梶ちゃんと三人でお風呂に入っている、賑やかな声が風呂場から聞こえて、やがてオムツだけを付けた侑希ちゃんが脱衣所から脱走してきた。


 ダダダダダ、廊下を這い這いしてくる足音が聞こえるとキャキャキャッ、パァパ、パァパオ~ジ、バァ~!バァ~!


「あぁっ駄目だよ侑希ちゃん、パジャマ着ようね。パパオ~ジは何処にも行かないからママの所に戻って服着てきなさい。そうじゃないと抱っこしてあげないよ」


 渋々脱衣所へ戻っていく侑希ちゃん、梶ちゃんの怒っている顔が少し見えるような気もするけれど、此処で甘やかしてしまうとまた俺が悪者になってしまうので心を鬼にしなければならない。


「ほぉぅ、浩史も時々侑希ちゃんを叱るんだ、へぇお前がねぇ。お前が小さかった時なんか純の言う事聞かないで逃げ回ってたけどな。最後に親父かお袋に怒られて泣きながら俺ん所に来てたのに、それが今じゃ侑希ちゃんの面倒を見てるんだから年取りたかねぇな」


「何それ、そんなの覚えてないよ、何年前の話だよ。俺はいつも良い子だったってお袋が言ってたぞ」


「お袋もや親父もお前には甘かったからなぁ、純なんか怒られて泣きながらお前の面倒見てたんだぞ。感謝しろよ。でも、パパオ~ジは考えたな、パパじゃ無い、小父さんだよってか」


 って言われてもなぁ、あまりに小さい時の話をされたって俺には記憶にはない、俺は自分にとって不都合な事は全て消し去る事にしてるのだって声に出して言いたいよ。

 手に白湯の入った哺乳瓶を持ってやっと着替えて戻ってきた侑希ちゃん、何も言わないでさも当たり前のように俺の所にチョコンと座って俺の手を掴んで前に持って行ってはニコッと笑っている。


 ダァコ、キャキャッブブブゥ、ダァコ


「こら侑希、白湯で遊ばないのよ、関矢君が濡れちゃうでしょ。それにもう寝るんだからね、ちゃんと御休みしなさい」


 パァアパオ~ジネッネ、ネッネ、ママネッネ、バィバィ


「はい、侑希ちゃん良く出来ました、其れじゃ御休み、バイバイねぇ」


 侑希ちゃんは梶ちゃんに手を握られて部屋への入って行ったけど、あれは直ぐに出てくるなぁ、なんて思っていると案の定、梶ちゃんの大きな声が聞こえてくる。


「こら、侑希寝るの、ダメよ、行っちゃだめ。もう遊び時間は終わりなの、寝る時間だから。ネッ」


 やがて静かになって、暫くすると梶ちゃんが部屋から出てきて哺乳瓶を洗ってる。

 此れで侑希ちゃんはもう完全に寝たはずで、多分、朝早く俺の所にまた入ってくるんだろうなと思いつつ半分期待して俺も布団に入る事にした。


 ダッダッダッダダダダダッダッ・・・パァアパ、パァパオ~ジネッンネ・・タンタン、ネッンネ


「侑希ちゃん、お布団に入りたいの・・ママに叱られるよ。しょうがないな、おいで一緒に寝よう」


 やはり思った通り、侑希ちゃんは俺のお布団に入って来ては朝までグッスリと寝て梶ちゃんに二人して怒られてしまった。

 と言っても梶ちゃんだってズルいのだ、部屋の扉を侑希ちゃんが出やすいように開けておくから、俺も人の事は言えないけど同じように部屋の扉を開けて待って居るのを侑希ちゃんは知っているのだ。


「もう、侑希あれほど行っちゃダメと言ったでしょ、其れと関矢君もなんで侑希と一緒に寝てるの、ママ怒ってるんだからね((笑))」


 其れでもいつもの様に楽しい朝食を済ませると、美咲ちゃんがやって来て昨日の続きを始め、兄さんと俺は侑希ちゃんに邪魔をされながらも障子の張替えや庭の掃除をしている。

 何とかお節料理も出来上がり、・・・あれ、そう言えば秀樹兄さんの息子・秀一は葬式の時にも居なかったけど、其れに一年祭の時にも、思い出せない?俺は茨城帰って来てから一度も会っていないのだ。


「兄さんそう言えば秀一君は?俺が茨城に帰って来てからも一度も会っていないんだけど、確かもう高校卒業したんだよね」


「はぁあ何を今更聞いてんだ、秀一ならアメリカの学校に行ってるの知らなかったのか。来年の9月に帰ってくるんだわ。其れまでは会えないぞ。お前だって知ってるだろMITと迄はいかないけど建築工学では結構有名なGTを卒業してくんだ」


「GTって確か、俺の会社の黒沢社長が出た所じゃないかなぁ?俺も其処に論文出したような気もするけど、社長命令で」


「そうだよ。お前の論文を見たって秀一が連絡してきてな。其れで卒業したらお前の会社に入る事が内定してんだ。なんでもお前と仕事をしたいんだそうだ。だからお前だっていつ迄もこっちに居たんじゃだめだろうって話だな」


 俺はそれ以上話す事は出来なかった、茨城に何時までいられるのか俺だって分からないしそれに・・・・俺は梶ちゃん達と離れる事が出来るんだろうか。

 俺と梶ちゃんの関係はあくまで同級生でそして大家と間借り人の関係、それ以上でも以下でもないし其れに梶ちゃんに好きな人が出来たらそれはそれで良いと思っている俺??が居ない。


 いつから俺の中に梶ちゃん達への思いが強くなった来ていたんだろう、多分侑希ちゃんの影響なのかも知れない。

 家族って・・・・本当の家族って何なんだろう?俺にとって梶ちゃん家族は本当に大切なんだろうかよく分からないでいるのかも知れない。

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