第四十二話 あれから一年・・・・・年 末





 

 風邪をひいて寝込んでから、俺達の関係は少しだけ変わったような気もするけれど多分他の人には分からないだろ。

 あの時に梶ちゃんが俺の背中を拭いてくれた事、そして何度も水枕を交換してくれたこと等、些細な事だけれどそれが俺には嬉しかった。


 クリスマスが近づき俺の仕事もある程度片付き、俺が一週間寝込んだ分の遅れは何とかは取り戻した。

 侑希ちゃんへの玩具と梶ちゃんへ悩んだ末に購入したブランド品の手袋とお揃いのスカーフのクリスマスプレゼント、今までした事の無いクリスマスを迎え小さなケーキに蠟燭を灯してお祝いをした。


「侑希ちゃんメリークリスマス、はいプレゼント、そしてこっちは梶ちゃんへ。俺、今までプレゼントなんて上げた事が無いから選ぶのに迷っちゃったよ、似合うと思うんだけど」


「えぇ!関矢君からのプレゼントなの、うれしい~!侑希、関矢君からプレゼントだってさぁ。また玩具が増えた、部屋がだんだん狭くなっていっちゃうね」


 なんて、嬉しがられているのか嫌味言われているのか??どっちなんだろう。

 早速ケーキに蝋燭を立てて火をつけて祝ったけれど、吹き消す前にケーキは無残に侑希ちゃんに崩されて、飾りのサンタさんだけが辛うじて形を残している有様でした。



 クリスマスが終わってすぐに秀樹兄さんがやって来て、餅搗機があるからと言ってそれを納屋から出しては手入れをしている。

 親父が生きていた時には親父と秀樹兄さん二人で餅を搗いていたそうだが、昨年は親父が亡くなり喪中に入ったので餅は搗いていない。


 侑希ちゃんも興味津々で秀樹兄さんの後をついては邪魔をしているようで、「おい浩史、保護者責任で何とかしろ。俺が仕事出来ないぞ」・・・兄さん、俺は侑希ちゃんの保護者じゃないですよ、アンタの弟ですけど!


「すいません、秀樹さん侑希が邪魔して。侑希こっちにおいで邪魔しちゃダメだよ」


「あっいや、俺は浩史に言ったんだけど別に邪魔になっていないよ、ねぇ侑希ちゃん」


 なんだ其れ、さっきは如何にかしろって、本当に好い加減なんだからって思っても口には出せない。

 二十八日に餅搗きを行うとの事で、前日に餅米を洗って水に浸けとく指示で、お正月に向けて行う事を箇条書きにしてさっさと帰ってしまった。


 高畑さんが一年のお礼だと言ってお歳暮とお米と餅つきをするならと言って餅米とうるち米、大根などの野菜を持ってきてくれた。

 最近何かと来てくれる高畑さん家族、和子さん達も帰ってくるんだとか、それでも近くにいる孫の顔が見たくてやってくるようで、最近は侑希ちゃんもジィジと言って膝の上で遊んでいるようだ。


 二十七日に裕子義姉さんと秀樹兄さんがやって来て、高畑さんから頂いたモチ米を洗米し、水に浸して・・・此れは梶ちゃん達用で、関矢家用には別用意したもち米を洗米し水に浸し準備を進めている。

 同居人とは言え別家族である事には変わりない訳で、兄さん達もそのけじめだけは守っているようだった。


 翌朝、兄さん達の掛け声で準備が始まり、俺の知らない餅つきがって言うか何か違うぞ?杵と臼が無い???全部この機械がやるって!蒸すだけじゃないのこの機械、餅も搗くんだぁって俺たちは何をするの。


 グゥ~ンウ~ンウ~ングルグルグルグルウ~ン


 侑希ちゃんが機械の周りをぐるぐる回って、湯気が出ているので火傷されたらって利が気じゃないけど其れでも此れから餅が出来上がる訳で皆がそれを待って居る。

 蒸された米が少しづつ盛り上がったり回ったりし出すと侑希ちゃんが指をさして何か言いだした。


 オォッオゥオ、グゥ~グゥ~、キャキャキャッ、アァウァグゥ~グゥ~


「浩史、延し板持って来い。さぁ始めるぞ。先ずはお供え用の丸餅造りからだな、それから熨斗餅だぞ。そ~れ浩史、早く延ばせよ。熱いけどさっさとやらないと延び切る前に固くなっちまうからな」


「侑希ちゃんもやりたいの、侑希ちゃんは延ばすより本当は背中に背負わせてあげたかったけどな、背負い餅の習慣はこの地区ではないからな」


「何、背負い餅って?初めて聞くけど・・・分かった子供に餅を背負わせるんだ」


「そりゃそうだよ背負い餅なんだから、一升餅を一歳の誕生日に背負わせるんだけど、それでも子供は立って歩こうとするんだよ。それをわざと歩けないように餅を増やしたり転ばしたりするんだ。理由はね、早く歩き出すと家を離れて良くないと考えられるんだけど、それよりも一生食べ物に困らないだとか、餅は縁起物だから餅には神様が宿っていて神様がいつも一緒に居るんだという意味合いもあるらしいよ。だから侑希ちゃんの神様は天国にいる侑一さんだから、いつも一緒に見守ってくれてるよ。という意味になるかな」


「へぇ、そういう意味もあるんだ、俺は初めて知ったぞ。其れじゃ侑希ちゃんの誕生日に餅を搗いてやんねえとな、高畑さんの餅米取っといて搗いてやろう。美由紀さんどうだろう」


「秀樹さん、裕子さん本当に有難うございます。何から何まで本当にすみません」


「美由紀さんなんで謝るの?謝る必要なんてないのよ。関矢家はいつも人のために何かをしてあげるのが当たり前的になってるんだから気にしないの、と言っても私も最初は驚いたけどね」


 何て事がありながら、神棚に飾る鏡餅を作ると今度は小さな鏡餅を玄関用、台所用、そして秀樹さんの家用と、最後に私の部屋に飾る鏡餅を作り、それから厚さ二センチも有る延し餅を数枚作り餅つきが終わった。

 残った餅を餡子の中に入れた餡子餅と大根おろしで餅を絡めてワイワイしながらみんなで食べて、もちろん侑希ちゃんには小さく小さくちぎった餅を食べて貰いました。


 もうすぐお正月、今年は嫌な事も良い事も色々あったけどそれでも後数日で今年も終わるなんて思いっていると、秀樹兄さんがいきなり思い出したように話しだしてきた。


「そう言えば浩史、風邪ひいたんだってなぁ一週間休んだんだろう。美由紀さんに看病して貰った訳だよな、お礼言ってなかったね!有難うね。それで二人は少しは進展したんだろ、看病して貰ったんだから手くらい握って貰えたか」


「なに、誰に聞いたの?手くらいって俺は高熱で魘されて何も覚えていないし・・・記憶が無いんだよね、ただ夢は見たようなそのぉ梶ちゃんに手を握って貰ったような、侑希ちゃんが俺の顔をのぞき込んでいたような?でも、俺は何も言えなくてと云うか声が出なくて多分夢だと思うけど、本当に大変だったんだから。水枕が気持ち良くて本当に助かったんだ」


「私は関矢君の手なんか握っていませんよ、水枕は何回か交換してあげましたけど・・其れと背中を拭いてあげてお粥を作ってあげました。其れだけです。関矢君、夢の中だけだよ。其れに、私達そんな関係じゃないしねぇ侑希ぃ」


(関矢君覚えてたの其れ、うわぁそのぉゴメン。其れ夢じゃないから、魘されていたからつい手握っちゃったぁ。あの時凄い魘されていたもんね、それにフウッフウッって息苦しそうで、侑希が気になって顔覗き込んでたんだよ)


「あっははは本当に有難う、浩史には面倒見る人が今までいなかったからなぁ俺も心配だったんだけど、話聞いた時俺も純も仕事から抜け出せなかったし、それに純は子供たちに風邪を感染す訳に行かないからな。でもまぁ風邪ひいて地固まるだなぁ良かった」


「そうなんだやっぱり夢か、でも水枕交換してくれて本当に有難う、御蔭でぐっすり眠れて風邪が治ったんだと思ってるよ」


「エッウッフン、美由紀さんちょっと良いかしら。あっちで少し片づけを手伝ってくれる」


「はっはい、良いですけど。何処を片付けるんですか?」


 裕子さんに台所の隅に呼び出されたけど、何を片付けるんだろう?って思っていたら裕子さんが小さな声で話しかけてきたんです。


「良いから早くてきぇ!実はさっきの話だけど、美由紀さん本当は手握ってたんでしょう!あの人達は鈍感だから分からないと思うけど、私には分かるのよね。心配掛けて本当にごめんなさいね、家の人が行ってあげなくちゃって言ってたんだけど美由紀さんがいるから行かなくても大丈夫って私が止めちゃったのよ。でも良かったやっぱり美由紀さんだからこそ看病できたんだと思うの。誰にも言わないから握ってあげてくれたんでしょ」


「本当に誰にも言わないでくださいね、はい・・・・裕子さんの言う通りです。あまりにも辛そうで何もしてあげられなくて・・・・つい、でも良かったのかしら?って今になって思ってたりして」


「良いのよ、美由紀さんだから。浩史さんだって夢の中で手を握って貰って治ったと思ってるのよね。其れに侑希ちゃんが心配したでしょ、子供は敏感だからね。本当に美由紀さんが居てくれて良かった((笑))」



 私達は今でも意識して手を握ったも無いし触れたことも無いんです。

 おかしいと思われるかも知れないんですけどそれが今まで当たり前だったし、多分これからも・・・だから夢の中だと思っている関矢君には申し訳ないけれど、ゴメンなさい私、握っちゃた、でもカウントに入らないよね。


「美由紀さん・・・其れからちょっと聞いていい?本当の所、浩史さんの事どう思ってるの?侑希ちゃんのパパのことも有るし気になって。まだ忘れられないと思うけど、少しは浩史さんの事考えてくれると嬉しいなぁ。義姉としてはウフフフ」

 

「裕子さん、今はまだ分かんないんです。一緒に居ると楽しいし侑希もあんなに甘えちゃって、でも、好きだとは思うんですけど愛してるとかじゃないんです。多分、関矢君もそうなんだろうなぁって・・・・感謝はしています。でもそれ以上は望んではいけないような領域って言うか???よく分からないんです。いつかは・・・・・もう少し待ってください。ゴメンなさい」


「また謝る!。何も謝る事なんて無いわよ、良いのよそれで。無理する必要もないと思うし、全て時間が解決してくれんじゃないかしら。侑希ちゃんがあんなに浩史さんに甘えられるのは浩史さんも侑希ちゃんが大好きだからなのよ。あんなにくっつかれても嫌な顔しないし、他所の人から見たら本当の親子だと思うよね。でもね、美由紀さんはまだ若いし浩史さんの他に良い人が出来るかも知れないわね。その時には遠慮しないでこの家を出ても良いのよ、これは家の人も同じ考えなの。私達は美由紀さんが幸せになる事が最優先なんだから、其れと侑希ちゃんもね。多分、浩史さんも同じように思ってるんじゃないかなぁ」


 まさか裕子さんから関矢君の事を聞かれるとは思いませんでした、いつも私達の事に関心が無いように素振りだったんです。

 でも、正直に話したことで何か関谷君の事で吹っ切れたような、そして少し恥ずかしい感じも・・・もっと素直になれる日が来ればと思う私でした。


「お~なに話してんだぁ?「片付け大丈夫かぁ、力仕事なら浩史貸すぞ」


 

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