第四十一話 あれから一年・・・・・病 気
もう十二月半ばも過ぎもうすぐクリスマス、会社の山の仕事も終わり平場の仕事だけが残って、俺も年内の在庫調査と現場の地質調査の結果をファイルに纏めたりして結構忙しくなっていた。
冷たい雨が降った火曜日に大里地区の現場で雨に濡れそのまま事務所で事務処理をして家に戻って来たけれど、何だか体が怠いような少し足元がフラフラしている。
「ただいま!梶ちゃん、俺ちょっと頭が痛いようなフラフラして。侑希ちゃん御免、俺・・・・今日はもう寝るから」
「ちょっ、ちょっと関矢君どうしたの。フラフラするって?熱計ったの、風邪ひいたんじゃないの。侑希駄目だよ、関矢君の所に行っちゃ感染ちゃうからね」
そんな訳で、俺はその夜から39度近くの熱が出て魘され布団の中で汗をかいていた。
侑希ちゃん達が出て行ったのも分からないままいたけれど喉も乾くし、それよりお腹がすいて・・・「そう言えば昨夜何も食べずに寝たんだっけ」と思いながら、だけど体が怠くて動かない、それに節々が痛いような、此れは無理だぁ。
意識がまた遠くなるような、だけど喉は乾くしお腹は減るし、それにトイレも行きたい・・・ゥンなんか車の音が聞こえるけれど梶ちゃんは仕事に行ってるし、これは熱の性で聞こえる幻聴かなぁ?俺は其のまま又寝てしまった
「関矢くん、ねぇ関矢くん!私だけど起きてる、入るからね。大丈夫、熱は、あっ寝てるかぁ、此処に水とお薬置いとくね」
冷たい手が俺の額に触れているような?・・・凄く気持ちが良くてもっと触れていて欲しいけど、此れも熱からくる俺の希望の幻覚か、あぁ俺の体どうなるんだろう。
「関矢君、ねぇ関矢君起きて。ダメだよ、ちゃんと薬を飲まないと。その前に水を少し飲んで、トイレ大丈夫いける?」
「ウゥ~ンえっ、梶ちゃんどうしたのゴホッゴホゴホ?仕事行ったんじゃないのゴホッ。その前にトイレ行きたいけど・・・ごめん。その起きられないかも、少しだけ手を貸してほしいんだけど」
「何言ってんの、ほら手を掴んで・・・肩を貸すから起きようね、しっかり摑まって」
俺は何とか梶ちゃんの手を借りてトイレに行って、そしてキッチンで水を飲んで今の状況を改めて確認した。
えぇっ、俺いつの間にか梶ちゃんに看病されてる!其れも今まで手なんか触ったことないのに・・・・・其れも手や肩も借りて起きてしまった、まさか夢じゃないよね。
「関矢君お腹空いてるでしょ、小粥作ってあるから。その前に体拭こうか、凄い汗かいたみたいだから。ちょっと待っててね、今お湯持ってくるから。着替え用意していて」
「うぅん分かった、有難う。ゴホゴホ助かるよ」
俺は、梶ちゃんが用意して持ってきてくれた洗面器に入ったお湯にタオルを浸して首や胸を拭いたけれど、背中だけは拭けないので困っているとそれを見かねた梶ちゃんが声を掛けてくれた。
「背中拭いてあげるからタオル貸して、・・・背中だけだからね」
梶ちゃんに言われた時に一瞬ハッとして、梶ちゃんに背中を向けたままタオルだけを手渡して・・・二人共黙ってしまった。
今までこんな経験もないし、された事もない、多分お袋にもされた事はないと思う。
でも今はそんなこと言ってられない状況で、俺としてはなんて不甲斐ないのだと思っている。
「梶ちゃん有難う、後は俺一人で出来るから、体拭いて着替えたら小粥を食べるね・・・そのぉ後は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「分かった。食べ終わったら呼んでね、片付けに来るから。それと食べ終わったら薬飲むんだよ。侑希は保育園に行ってるけど、帰って来ても関矢くんの所には来させないようにするからゆっくり休んで」
俺は梶ちゃんが部屋から出てから拭き残った所を全て拭いて、汗で汚れた下着を交換してやっと落ち着いた気がした。
下着を交換しただけなのに凄く気持ちがいいなんて、普段感じないことを今感じている、其れと梶ちゃんの手の感触も・・・・って何を考えてんだ。
ちょうどいい感じの温かさになっている小粥と海苔の佃煮と梅干、少しづつだけど体が生き返るような、もし都内で一人で居たらどうなってるんだろう?きっと二~三日も何も食べないで只寝ているだけかも、風邪で独身男が死亡なんて記事が出ていたりして、怖い怖い。
梶ちゃんが水枕を抱えて俺の部屋に入ってきた。
「関矢君食べ終わったぁ、綺麗に食べてくれたね。昨夜何も食べないで寝たもんね、びっくりしたよ。侑希が子供なりに心配したみたいで私にしがみ付いて、朝も元気のない声でパァパパァパって。それで私、侑希を保育園に預けて午後休んじゃった。でもよかった!少し元気が出たみたいで、でも熱が高いから明日も無理みたいだね、会社に連絡しなきゃダメだよ」
梶ちゃんは言うだけ言って、洗濯物を抱えていなくなると俺はまた睡魔に襲われ、いつの間にかまた寝てしまった。
夢の中で梶ちゃんが俺の手を握って側にいる、そしてその隣に侑希ちゃんが心配そうに俺を見ている「侑希ちゃんゴメンネ、パパ直ぐに元気になるから、元気になったらいっぱい遊んであげるからね」って言いたいのに声が出ない俺が夢の中にいた。
夜中にまた熱が上がったようで、息苦しさと熱さで何度も起きてるような夢を見て、その度に梶ちゃんが水枕を交換しては額に手を当ててくれてるような気がして、何故か安心して寝てる気分だった。
侑希ちゃんの声が「パァパ、パァパオ~ジ」、梶ちゃんの「ダメだよ関矢君熱があるんだから、ネッ治ったら遊んで貰おうね」と隣の部屋から聞こえるけれど、俺の体は動かない・・・んっ?おや?体が動くし熱も下がったような手を伸ばして体温計を取り熱を測ってみると「ピィピィッピィピィッ」37度6分下がってる。
「侑希ちゃん保育園行っておいでぇ、関矢おじさん熱が少し下がったよぉゴホゴホ」
アァァアッ、パァパパァパオ~ジ、マァゥマ、パァパオ~ジ、キャキャキャッアァウァ
梶ちゃん達が居なくなってから俺は一人でトイレに起きて、キッチンに出来てる小粥を温めて食べた。
きっと梶ちゃんが朝作ってくれたんだろう、また仕事から戻ってこられたら困るので、LINEで「今日はもう大丈夫だから安心して仕事をしてください。お粥食べました、ゆっくりとまた寝ます」と送り、所長にも電話で連絡をして、着替えをしてから布団に入ったけれど起きた時にはもう夕方になっていた。
ダンダンダダダダダッ・・・ガラッ・・・パァパパァパオ~ジ、オッキパァパオ~ジオッキ!
「侑希ダメだよ、まだ治っていないんだから。関矢くんの所に言ったら貴方も感染っちゃうでしょママ困るんだから!まだ行っちゃダメ、ネッ良い子だから」
「梶ちゃん帰って来たの、ごめんね未だ熱が上がったり下がったりしてるようなんだ。俺もあれから今まで寝ていて、熱計ってみたら8度1分あるから・・・・でも少し楽になってる、梶ちゃん有難う」
「ウゥウン風邪ひいたんだからしょうがないよ、でも良かった少し熱が下がって、昨日なんか9度6分くらいまで上がってたから心配しちゃった。侑希が行きたがってさ、煩くしてゴメンネ」
「梶ちゃん、感染ないように俺マスクするから、俺の部屋開けといて良いよ。俺も侑希ちゃんの顔を見て元気貰いたいから」
「分かったわ、侑希、部屋に入っていいよ。でもあまり騒いじゃ駄目だからね、関矢君また熱が出たら困るんだから」
ガタッスゥ~、俺の部屋の扉と襖が開いて冷たい空気が部屋に入ってくるのが分かる。
そして、「パァパオ~ジ、オッキ、パァアパマゥマパァパオッキ」の声も一緒に聞こえてきた。
なんか久しぶりに聞いているような、侑希ちゃんの声は俺にとっては活力源だと云う事がよく分かる、でも起きて抱っこする訳には行かない。
それを知ってか侑希ちゃんは、おもちゃを持ってきては俺に見せて布団の上で遊び、俺の顔を覗き込んではキャキャッと喜んでいる。
病気になると云うのはなんと心細いと云うか、此れが夫婦ならば問題は無いのかも知れないが、俺達の関係はあくまで大家と間借り人の繋がりであって、いずれは離れる事が決まっているのだ。
俺は梶ちゃん達を繋ぎとめる言葉も資格もないことは十分知っている、だけど今回は凄く有難いと思っている。
俺は結局、火曜日の夜から熱が出て金曜日の夕方まで寝込んでしまった訳で、会社もこんなに長いこと休んだことなど今までなかった。
営業所から支社長ヘ連絡が云っていたみたいで、金曜の昼に連絡があり、「早く結婚しろ、嫁さん候補と暮らしてんだから籍を入れろ」って他人事だと思って適当に流して電話を切った。
栗原さんからも心配の電話が有り、「何でおれが風邪ひいたこと知ってるの?って梶ちゃんとLINE友達???いつからなの、葬式の時からだって・・えぇっ嘘」俺は何も言えなくなってしまった。
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