第四十話 あれから一年・・・・・俺達の関係って?
親父の一年祭も無事に終わらすことができ、多分、親父も空の上から良くやったとか言ってることだろう。
侑希ちゃんも順調に大きくなって八千二百グラムとしっかり重くなって、歩きだしてからはプニュプニュしていた足も少し締まって来たような気もする。
最近は歩くと音がする靴を履くようになり、保育園には履いて行かないけれど家の周りの散歩には履いて音が出るたびに喜んでいる。
キュスゥキュッキュッキュスゥキュスキュッキュッ
秋の終わりの散歩の道沿いには小さな動物や花もなく、落ちている黄色くなった落ち葉を拾っては喜んで俺に見せてくれる。
ダァダァ、キャキャキャッアァウァ・・・アッアッ
「何、侑希ちゃん。何かいたぁ?‥‥あぁあ葉っぱの下に虫さんがいたかぁ、冬眠の準備しようとしてるんだよ、だからそっとしてあげようね」
東京にいた時には冬の気配には気が付かなかったけれど、茨城では意外と早くやってくるこの山から下りてくる冬の兆し、土間にある薪ストーブの薪も多く準備している。
梶ちゃんと一緒にと言うと語弊があるかも知れないので共同生活を始めてから一年が過ぎ、あの時にはまだお腹の中にいた侑希ちゃんだけど今俺と一緒に散歩をしている。
秋江叔母さんの家に行くと犬のゴンが侑希ちゃんの顔を見ると「ワン」と吠える
ゴンを見て喜んでかけて行った侑希ちゃんだったけれど、吠えられたのに驚いてしまい、立ち止まって泣き始めてしまった。
ウッウェウェッ、ビエェ~ンゥエッビエェ~ン
「なに侑希ちゃん、犬さんに吠えられたの、大丈夫だよ、ゴンは怖くないよ大丈夫だからね、良い子良い子してあげようね」
ヮンキュゥ~ンキュ~ンヮン
「ほらゴンも侑希ちゃんに泣かれて困ってるみたいだよ、犬さんゴメンネ、良い子良い子ってしようね」
怖がりながらもゴンの背中を撫でる侑希ちゃん、其処にネコのミーコを抱っこして秋江叔母さんがやって来た。
「侑希ちゃん来てくれたの、何、ゴンに吠えられたんかい、ゴン駄目だよ侑希ちゃんを吠えちゃ。ちゃんと叱ったから大丈夫だよ」
「侑希ちゃんネコさんだよ、名前はミーコだからね、ほら撫でてごらん、ゴロゴロ言ってるだろう」
ニャ~ォゴロゴロゴロゴロニャ~ゥ
ニャ~ ニャ~ ニャァ~
ミーコの鳴き声に合わせるかのように納屋のほうから三匹の子猫が出てきて、おばさんの周りに集まってくる。
「侑希ちゃん、ミーコの子供たちが出て来たよ。浩ちゃんから降んりしてネコさん所においで」
ワァワ、ワァワダァア、ナァナナァナ、パァパ、ナァナナァナ
俺と猫達を何度も見ては指さして喜んでいる侑希ちゃん、よちよち歩いていくと離れていく猫達、しゃがんでは猫達を触ろうとしているけれど中々触れない。
「ねぇ浩ちゃん、美由紀ちゃんとあの子の事どうするの?ずっと此のままでいいの。叔母さんは良く分かんないけどどっかで区切りをつける日が来んじゃないの、叔母さん達はそれが心配なんだわ」
「叔母さんゴメンネ、ずっと此のままで行けないのは分かってるけど・・・でもいつかは梶ちゃん達はあの家から出ていくんだろうね。俺だって会社員だから、また転勤が出るのかだって分かんないよ。俺は本社採用だから移動は全国か又は海外だってあるしね」
「転勤って茨城だけじゃないの?営業所の人たちは茨城県内だけしか動かないんでしょ」
「そうだね、みんな所謂地元採用ってやつで、地元での移動しかないからね。でも、俺は一応本社の人間で、其れも親父の介護をするという目的で移動して来てるから、その親父も亡くなってしまったから大義名分が無くなってしまったんだよね。いつ移動が出てもおかしくないよ」
「だったら尚更なんじゃないの、侑希ちゃんは浩ちゃんの事パパだと思ってんじゃないのかなぁ。何とかしてあげないさいよ、男なんだからさぁ。と言っても浩ちゃんは、、、、おじちゃんが心配していたことが良く分かるわ」
時が過ぎると云うのは感じないくらい早いもので「あっという間」と人は云うけれど、確かにそう思う程日々は過ぎていく。
昨年の今頃は親父が亡くなったばかりで寂しさに日々が追われ、その中での共同生活が始まり、そして新年を迎え、今では侑希ちゃんの言う新しい家族と云うか命の誕生を迎え、その子が今ヨチヨチと前を歩いては俺の目を楽しませているのだから。
俺達というか俺と梶ちゃんの関係は今でも変わってはいない、大家と間借り人の関係でそれ以上にはなっていないし只の同居人なのだ。
確かに叔母さんの言う通り仲は良いけれど、正直な話まだ手だって触ったことは無いし部屋にだって入った事はない訳で、此れだけは胸を張って言えるって誰に言ってるかは分からないけれど((笑))。
マァママァマ、ワァワ・ワァワ、ナァナ・ナァナ
「侑希ぃお帰り~。何どうしたのぉ?何かあったの。ワァワナァナって?」
「梶ちゃん、侑希ちゃんは秋江叔母さんの所で、犬のゴンと猫のミーコとその子供たちが居た事を話してんだよね。ワンワン・ニャァニャァってネ!」
「そうなんだ犬と猫が居たの、よかったねぇ。其れで侑希は吠えられて泣かなかったぁ」
梶ちゃんはゴンを犬と呼びミーコを猫と呼ぶけれど、俺には不自然に聞こえた。
小さな時から犬はワンちゃん、猫はネコちゃん、牛はウシさんと呼ぶ癖があるのだ、それは多分この地区では犬も牛も馬も家の中で一緒に生活をしていたせいなのだろう、まして養蚕をしていた家では蚕を御蚕さんと呼んでいた。
其れほど家畜は生活の中で家族であり、農耕では必要性が高く、また育てて売る事で得られる現金収入源でもある。
実際に俺の古い家の時には風呂場の近くに馬小屋があって、親父が小さい頃には「風呂に入っている時によく背中を舐められた」と話していたのを思い出す。
この生活はいつまで続くんだろう?この仮初の家族と云うか、不思議な家族関係??叔母さんや伯父さん達は俺と梶ちゃんが一緒になって侑希ちゃんのパパになればと思っているようだけれど、それは外から見た思いであって、実際には当然だけれど俺たちは他人であって生活は全く別なのだ。
確かに食事は一緒にしているけれど作業分担はされているし、お風呂だって?梶ちゃんとは一緒に入ったりはしていない、侑希ちゃんは俺が入れているけど・・・夫婦の像が俺は見えていないのかも知れない。
叔母さんにも話したけれど、会社の移動は必ず有る。
多分、望めばそこに行けるかも知れないしまた全く違う部署に移動させられる場合だってあるだろう、適材適所、後はは会社の考えもあるだろうからそれは何とも言えない。
もし移動が出た場合俺はどこに行くのだろうか?全国の支社や営業所はある程度回って来たけれど、海外だって行って来たけれど再移動は?もしあった場合、俺は梶ちゃん家族との別れに耐えられるのだろうか。
梶ちゃん達には美咲ちゃんや高畑さんたちが居るけれど、俺にはもう家族というカテゴリーから離れている。
親父もお袋もこの世にはいないし兄さんや姉さん達にはもう甘える訳にも行かない、だからこそ小父さんやおばさん達は俺の事を心配してるのだろう。
「ねぇ関矢君・・ねぇ関矢君聞いてる、ありがとうね。この家に引っ越してきてから一年が過ぎたけど、私たち家族の事何時も暖かく見てくれて感謝してんだ。私たち夫婦じゃないのにこうして同じ家の下で暮らして、それに多分、皆に変に見られているのも知っているけど声が私達に入らないようにしてくれてんだよね。侑希の事も面倒見てくれて感謝してんの、本当に有難う」
「何?急に、俺は大家として面倒見てる訳で別に他意はないよ。其れだけは本当だから、この地区の人達の事は気にしなくていいよ。それより今度スミレ会に参加してみれば、そうすればもっと仲良くなれるし誤解も解けると思うよ」
「そうだね、一年経ったし、侑希も大きくなったから参加してみようかな。秋江さんに連絡してみるね」
スミレ会は連への繋がりになっているから地元に溶け込むにはちょうど良いのかも知れないし、梶ちゃんの人当たりの良さは俺が一番知っている訳で、きっと誤解している事もすぐに理解してくれるだろうと思っている。
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