第三十五話 雨降って・・・・・祭 り





 梶ちゃんからは高畑さんの家で会った事などは会話に出なかったので、俺も口にはださないでいる。

 そのうちに自然と話してくれるだろうし、高畑家に関しては俺の入る余地はないので別に気にはならないと思う事にしているけど正直な話、侑一さんの事について少し気持ちがざわついている俺なのだった。


 其れでも否応なしに日にちは過ぎて行き、我が家にも親父の新盆がもうすぐやってくる。

 この地区では一族でお墓に迎えに行って、そして終われば一族で送ってやるのが通例となっている。


 お盆の入りには皆午前中に入浴して身を清めてから本宅と云うか本家に集まり、そして茄子と胡瓜で造った牛頭馬頭とメハジキと呼ばれる提灯を持っていって飾り付け、お線香をあげると共に提灯に火を移して消さないようにして火を家に持ってきては、座敷に祀った仮神棚の大きな蠟燭に火を移すことで先祖を家に迎い入れた事に、お盆の迎え火になるのだ。

 そして、親族が集まり各家の神棚やお仏壇に線香をあげて回る、この風習は今でも行っているし、こうして一族の絆が確認されているのかもしれない。


 遠い親戚も三代目になると自然と離れていくけれど、それは仕方がないことで誰も責めないし、それぞれの地区で新しい絆が生れているのだからと考えている。

 其れは其れで良いとしながらも寂しい気もするけれど、高齢となって来る訳だから移動に時間も掛かるし、伯父さん達も帰る際に「もう此処に来れんのは今回で最後になるな」と寂しい事を言っては自分達の住んでいる所へと帰っていく。


 だからこそ、丁寧に迎えて気持ち良く帰ってもらう事を心掛け、と言っても新しいことをするでもなく、昔からの接待をする事で田舎を忘れないようにして上げてるのかも知れない。

 親父の兄妹も二人が都心にいる、伯父さん達はまだ若いから大丈夫だけど、俺たちの時代になってしまったらと思うとやはり寂しい思いはする。


 梶ちゃんも実家へと侑希ちゃんを連れて帰っている。

 きっと高畑家にも顔を出して、侑一さんに侑希ちゃんの報告をしてお線香をあげている事だろう。

 俺も黒沢の墓に行って線香をあげさせてもらって来たけれど、いずれは俺にも迎えが来て親父の隣に骨となって入る事になるのだろうが、それ迄は頑張っていくからと親父とお袋に毎日線香をあげながら祈っている。



 純姉さんから「お祭りやってるんだから行って来れば、学生の時以来でしょ」なんて言われ、美咲ちゃん夫婦にも連絡を入れて皆で行く事になった。

 毎年この時期には南田祭りが二日間に掛けて行われ、鯨台商店会を中心にして南町一丁目から七夕が飾られ、天神囃子や市民神輿が繰り出され賑わいを見せる。


 昨年帰って来た時には既に終わって居て見られなかったけれど、今年は梶ちゃんに新しい家族が出来た訳で・・・美咲ちゃん達と一緒に侑希ちゃんを連れて見学に行く事になった訳だけど、侑希ちゃんは金魚柄の甚平を着て喜んでいる。

 商店街では大きな七夕が飾られていて神輿が錬られ、侑希ちゃんの驚く顔とそして急に泣き出したりで俺と梶ちゃんを行ったり来たりてして、修二君も抱っこしたくて手を伸ばすけれど・・・残念ながら嫌われてしまった。


「侑希ちゃ~ん、僕の所にもおいでよ~。ねぇこっちに来て。あぁあ僕嫌われてるみたい」


「あははは、修ちゃん駄目だよ、侑希ちゃんは兄にぃが大好きなんだから、いっその事パパになっちゃえば良いのにね」


「なっ何を言ってんの、そんな事は良いから侑希ちゃんに綿飴買ってあげて。本当にもう言いたい放題なんだから」


「だって兄にぃと侑希ちゃんはどう見ても親子だし、お姉ちゃん達って周りから見たら夫婦其のものだよ、ねぇ修ちゃん」


「ダメなの!関矢君には私なんかよりもっといい人と結婚して、幸せになって欲しいんだから」


「あれぇ、其れって浩史兄さんも同じようなこと言ってたなぁ。梶ちゃんには俺じゃなくてもっと幸せになって貰いたいって、何か二人も同じこと言ってはいつも側にいるんだからすごく変だよね」




 昔は南町で姉妹都市である秋田竿灯や出囃子等があったと云うけれど、それは俺が学生のころには山吹運動公園のほうに移ってしまっていた。

 俺としては外堀町から南町一丁目~三丁目まで歩いて楽しんでもらいたいし、静かな北町をゆっくりと歩くのものまた楽しいと思っている。


 町並みは南・北町共、其々二キロメートル程度しかないけれど南は商店街で北町はは古い町並みを残している。

 南と北の町並みは簡単に述べると川の字になっている鯨の形をした高台に、背骨にあたる部分と北町側を走る国道293号線、南町側を走る棚倉街道がそれぞれ走っていて、それぞれの街道沿いに違った趣きの街並みがありそれが南田らしいと思う。


 高台に街並みがあるため坂が多く、また傾斜地に沿って家が立ち並び発達してきたけれど、自動車社会なってきた事で駐車場不足や一ヵ所で買い物を済ませたい人が増えた為に弊害が出てきてしまったのだ。

 今の市役所や美咲ちゃんの勤めている西山病院などは元々田圃の中で、鯨台が狭くなってきた為に田畑を埋め立てて新しい町並みを作ろうとした結果だけれど、その為に今まであった商店街も下に降り事で商店が分散され、其れと共に商店街が寂しくなってしまったのだ。


 明日も祭りは有ると云うけれど、明日は山吹運動公園になるので侑希ちゃんの事を考えると到底来る事は出来ない。

 でも昨年では考えられない光景が今、目の前にあると思うと俺は誰にも言えない幸せを感じている。

 この光景を誰が想像できただろうか?学生の時に望んでいた光景、形は違えども今それが垣間見えている…あぁあ俺は幸せ者だぁって思っても口には出せない。



 黒羽地区と里宮地区の一部では大助人形を作って川で燃やす祭りも有った。

 大助人形は、藁で人形を作るのだけれど、腰には茄子を輪切りにした鍔を付けた二本差しの侍で、習字紙で顔を作り胸元には重曹で脹らました饅頭を兵糧として入れて、神社や部落の入り口に立てて祀るのだけれど、今は見られないと云うか子供達が少なくなって忘れ去られて居るのだろう。


 この大助人形祭りがなぜ地区の一部で行っているのかよく分からないし、何故、侍なのかだってよく分からないけれど、ずいぶん昔から伝わっているとの事だ。

 隣国の韓国や東南アジア地区でも同じように村の入り口に邪気が入らないように神様を祭ってあるところがあるけれどちょっと違うような、きっと此の辺では戦国時代に攻め入られないようにしたのか、それとも藁人形で侍の人数でも増やしたのか等いろいろ考えられる。


 侑希ちゃんもお盆過ぎあたりから這い這いを始め、少しづつであるけれどアッチコッチへと動き始めている。

 この家は曲がりや造りで、玄関を入ると土間があり右手側に梶ちゃん達の部屋、奥に洗面所とトイレ正面突き当りが台所、そして左が母屋で関矢家の住まいとなっていて土間に対して廊下で繋がっている


 廊下には土間との仕切りが無いため這い這いの途中でもし落ちてしまったらと思うと・・・これは対策を練らないと・・・・と云う事で隆義兄さんに電話をしてフェンスを侑希ちゃんの為のガードレールを設ける事に、其れも倒せば廊下に座れるように作ってもらう事になった。

 其れから侑希ちゃんは梶ちゃんの部屋を脱走しては俺の部屋にやって来て甘えている為、梶ちゃんが最後には「もう知らない」で怒られて泣いて部屋に戻っていく。


 ウァダダァキャキャキャッ・・ダァア、ダァ


「あぁあ、侑希ちゃんまた来たのぉ、ママに怒られるよ。しょうがないなぁ、おいで抱っこしてあげる」


「もう侑希また居なくなった。関矢君、侑希来てる~。侑希を寝かせるからって、あぁあ!また抱っこして甘やかしてる。さぁ侑希寝るからママの所においで」


 ダァッダァッ・・ブブゥブッゥダァッ


「またそんなこと言って、ママもう知らないからね、知らない、侑希バイバイ」


 ウギャ~ア、ゥンマゥンマ


 毎回同じことを繰り返しては梶ちゃんの部屋に連れ戻されていく侑希ちゃん、此れから歩き始める事への楽しみが待ち通しい俺だった。


 梶ちゃんも十月からの0歳児保育への手続きをしながら仕事場への復帰をし始めている。

 0歳児保育は私立の保育園しか行っていないため狭き門ではあるけれど、母子家庭ということも有り、入れるのではと思っているようだ。

 子供達の寺子屋式教室はどのようにして行く積りなのかは聞いていないけれど、働きに戻れば必然的に失くなってしまうのは勿体ない気もする。


 地区のお母さん達からも何とか存続出来ないかとの話も来ているようで、梶ちゃんとしては悩み所で、どうした物か思案している。

 俺のほうは毎週土曜日の午後からなので別に問題は起きていないけれど、ただ三人だけだった生徒も今は小学五年生から教えているので6人に増えている。


 ボランティアだから別に俺としては何時でも止められるけれど、乗りかかった以上はこの子達が大学に行くまではと思いつつ、子供達が来てくれている以上はまだまだこの先まで続くのだろう。




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