第三十三話 雨降って・・・・・お 盆


 梅雨が明け、眩しい日差しとともに焼けるような暑さが朝から襲ってくる。

 侑希ちゃんにとって初めての暑い夏、そして俺達にとっても今まで経験した事の無い三人での夏を迎えた。


 毎日、子供達が学校を終わってからやって来ては土間で勉強をしているがやはり暑いようで、其処で天井から風が送れるにようシーリングファンを付けて風の循環を促してみたのだがこれが評判は上々で俺は嬉しかったですね。

 これは子供達には涼しい風が天井からくるため勉強が捗っているみたいで、侑希ちゃんも昼寝を土間でしているとの事で俺にとってはこれが何より嬉しかった。


 侑希ちゃんも最近では寝返りをするようになって、梶ちゃんも目が離せなくなっていると話してくれた。

 俺の担当の高校生達も英語がかなり上達し、学校でも褒められたと言って自慢話をしてくれて俺としても次の段階を考えなければと思っている。


 そんなある日、高畑さんからお盆の前に侑希ちゃんを親族に紹介したいからと言って泊りの誘いが梶ちゃんに有ったのです。

 梶ちゃんは俺に相談して来たけれど、俺には返答の仕様が無いので「誘いに甘えて見れば」としか言えなかった。



 七月中旬に、梶ちゃんと侑希ちゃんが高畑さんの家に泊まりに行ってしまった。

 普段、家に帰れば侑希ちゃんがダァダァって甘えてくるのに今夜は誰も居ない、元々は一人者なのだから居なくて当たり前なはずなのに、誰も居ないと云うのは寂しい事なんだとやっと気が付いた次第です。


 今まで東京にいた時には一人でいても気にならなかったけれど、昨年の十二月から梶ちゃんと一緒に住み始めてから一人でいる事が無くなっていたせいなのかもしれない。

 侑希ちゃんが産まれた時の入院してからの五日間、でもあれは毎日病院に行っては顔を見ていたから寂しくなかった、今夜のこの静けさは何だと思ってしまうくらいの静けさが、俺を寂しさに誘い込んでいる。


「Teacher, aren't there Yuki-chan today?(先生、今日は侑希ちゃん達居ないんですか?)


「Kaji-chan's family is going to stay at Yuki-chan's deceased dad's house.(梶ちゃん達は侑希ちゃんの亡くなったパパの家に泊まりに行ってるよ。)」


「Yeah, that's right. The teacher will be lonely(へぇ、そうなんだ。先生寂しいでしょう)」


「She won't be lonely. There is only one teacher from the beginning(寂しい訳ないだろう。最初から先生は一人だよ)」


「Teacher, let me call you(先生、電話掛けさせてください)」


「お父ちゃん、敏江だけどさ。今日、美由紀さん達居ないんだって、そう・・・小父さん一人。寂しいみたいだよ。うん・・堂の前と大杉の、うん・・小父さん達にも声かけて来れば良いんじゃない」



 子供達の勉強が終わって皆が帰った後、俺が風呂に入っていると玄関に声がする。

 今どき来るのは誰だろうなんて思いながら玄関を開けてみると、勉強を教えている子供たちの親達が手に鍋や酒を持って集まっていて、其処には秋江叔母さん達も居る。


「浩ちゃん、皆が子供に勉強教えてくれて有難うだってさ、全く都合の良い事言ってどうせ酒を飲みたいだけなんだろうから」


「動機は何だって良いべぇ、今日は一人なんだろ?普段世話になってんだからたまには羽目を外して貰わねえとなガハハハ」


「そうだそうだ、浩ちゃんと酒飲めるなんて葬式以来だから機会を狙ってたんだ、そしたら敏江から電話が有って、そんで皆に声掛けて来たんだから、たまには良いだろうなぁ秋江さん」


 それから宴会が始まって、久しぶりに遅くまで飲んで騒いで楽しかったけど皆、気を使ってくれたみたいで俺は嬉しかった。


 飲みながら畑の相談も出来たし良い事聞けたし、朝一で畑でも耕運機で畝っておくか!と思った俺だった。





「今日、集まってくれて有難う。実は今日集まって貰ったのは、昨年事故で死んだ侑一の子供を紹介させてもらう事が出来ると云う事なんだわ。俺が今まで梶谷さんに八つ当たりばっかして会おうとしていなかったのが原因で、孫が生まれていたのをこの間まで知らないでいたんだ。そんで六月に入って孫が生まれている事を知って俺は梶谷さんに謝って訳なんだ。美由紀さんに会わせてもらって孫の有希を抱かせてもらう事が出来たんだわ。そんで、お盆前に親族皆に孫の有希を見せてやんべと思って、今日の席を設けさせてもらったと云う事なんだ」


「皆さん始めまして、私は梶谷美由紀と言います。そして、この娘が侑希です。今年の一月二十三日に生まれました、まだ生後六カ月を過ぎたばかりで、やっと下の歯が生えて来て離乳食を始めたばかりなんですよ。名前は侑一さんの侑の字を使わせて頂きまして、それに希望の希の字を合わせて侑希と名付けました。ねぇ侑希、初めましてですよ」


「そうか、この子が侑一の娘か。そう言われてみれば目元なんかそっくりだわな。良かったな侑喜男、孫が産まれててよ。それにお前らの一字が繋がって云ってんだからもう何も言うことはあんめぇ」


 その夜は私と侑希は高畑さんの家に泊まり、翌日、侑一さんの眠っている墓参りをして帰る事になったのです。


「侑希、何を探しているの、少し落ち着いて着替えが出来ないじゃないの。今夜は関矢君は居ないわよ。だから探しても居ないのネッ良い子にしましょうね」


 パァパ、ゥンマッ、ブゥブゥブブゥ・・・ダァブゥ・・ダァッダァッ


 侑希は落ち着かないままミルクを飲んでそのまま興奮していたのか寝てしまい、そして今までした事の無い夜泣きをしました。



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