第三十一話 和 解・・・・・絆
侑希ちゃんも三カ月検診が終わり順調に育っているようで、体重も六千百グラムになりミルクも増えている為、今のところ問題は無いそうだ。
生後百日も過ぎてしまったけれど今度の土曜日にお食い初めをする事になったが、今回は俺達だけで行う事にした
皆、繁忙期で忙しいし、そんなに手間がかかる訳ではないので、お食い初めのセットを買ってきてそれに小さな焼き鯛、ハマグリのお吸い物、お赤飯、等一汁三菜を添えて祝ってあげる事にしたのだ。
例え形だけのお祝いだとしても、侑希ちゃんが食べる事に困らないように健やかに育ってくれる事への願いを込めてしてあげる事は、梶ちゃんが母親として希望している。
最近では、下の歯が生え始めたのか歯茎に少し白いものが見えてきている、梶ちゃんに言わせると母乳を飲ませていると乳首が痛いんだそうだ。
そんな事を言われても俺は困ってしまい顔を赤くするしかなく、その話をしている梶ちゃんも気が付いて顔を赤くして「ごめん」って謝ってくる。
本当はこの時に高畑さんの事を話しておけばよかったのかも知れないけど、この雰囲気では俺は梶ちゃんにまだ話す事は出来ないでいた、理由としては高畑家と梶谷家の問題だからと思っていたし、決断が出来ていなかったのだ。
俺は第三者であるし、いくら仲が良くても入り込めないことは知っているし、高畑さんが気分を害する可能性が高いと思っている。
「梶ちゃん、この御祝い膳を侑一さんと侑希ちゃんと三人で先に祝ってくれると嬉しいんだけど。ほら、俺は同級生で只の大家だし。ねっ梶ちゃんの部屋に運んであげるから、此れから侑希ちゃんの行事は先に侑一さんに報告してからにしよう」
「えっ、どうしたの急に?今までそんなこと言わなかったじゃない、何か私に気を使ってない。なんか不自然だよ、でも有難うね。・・・そうだね、此れから関矢君に言われた通りにするよ。大家さんと貸部屋の住人だからね」
「梶ちゃん、それから此れ!俺からの侑希ちゃんへのお祝い。銀の匙。そのぉシルバースプーンはさぁ、海外と云うかイギリスだけど「初めての食事を銀のスプーンで取ると一生食べ物に困らない」と言われているんだって。そして、幸せを運んでくれんだとか。其れと、こっちは梶ちゃん用に俺からの侑希ちゃんとお揃いのスプーン」
「えぇっプレゼントって嬉しいけど・・・でもどうしたの、さっきと言いなんか変。シルバースプーンって、あら、此れ同じ花模様が彫ってあるんだね、それに名前と誕生日も。アッ私の誕生日も彫ってある、覚えてくれてたんだぁ」
「東京へ行った時に、侑希ちゃんのプレゼントで悩んでいたら栗原さんがイギリスでの話をしてくれて、あっ、彼女は帰国子女だからそう云うのは詳しんだよね。其れで一緒に選んでもらって買って来たんだよ」
「えっ栗原さんて帰国子女なの、へぇそうなんだ。其れじゃ関矢君はこの事を知らなかったという訳で、栗原さんが選んでくれたのね」
「いやっ違うよ、アイデアは栗原さん。選んだのは俺で、誕生草と云うか花なんだからその柄は・・特別に作ってもらったんだよ」
「うっふふ、知ってるわよ、栗原さんからLINEで教えて貰ってたの「楽しみにしてね」って、関矢君いつも有難う。早速、侑希に使わせてもらうから」
ウンッLINEってこの二人LINE友達なの??俺はこの日まで栗原さんと梶ちゃんが友達になっている事を知らなかった。
もはや俺の隠し事なんて全部筒抜けになりつつあるようで、「やばい、対策を考えておかないと」なんて思っても俺たちは他人これ以上の関係にはならないだろう・・・多分。
暫くして護さんから電話があって、高畑さん夫婦が田植えも終わったし草取りも片付いたから会いたいと云う事で場所を決めたいと云う事だった。
もはや俺の関する事ではないと思っている為、護さんの家、つまり梶ちゃんの実家ではと言ってみたが、護さんは妹と姪の生活を見せたいと云う事で家に来る事になってしまった。
護さんから当日までは梶ちゃんに話さずにしてくれと頼まれ、俺自身はどうした物か考えてしまった。
美咲ちゃんからも電話が有り、当日「私達も行くからちょっと騒がしくなるかも」って、大家としては何をして良いのかも分からないし、俺は時任せにすることにした。
責任転嫁という訳ではないけれど、俺は第三者であるしこれ以上は梶谷家と高畑家に深入りする訳には行かなかった。
侑希ちゃんは高畑さんの孫である以上は、侑一さんの代わりは出来ないし、まして侑一さんにも慣れないのだから・・俺は只の同級生であり大家なのだ。
そして五月下旬に遂に其の日がやってきた、そう高畑さん夫婦とお姉さんが来る日が、俺はその日は仕事で居ないことにした。
俺には侑希ちゃんが高畑さんに取られてしまうと云うか、これはヤキモチ???なのか分からないけれど耐えられないような気がする。
ああぁあ俺って本当にチキンだなぁ!情けない自分がいる事を自覚してしまう俺は本当に情けないと思っている、笑う人は笑え・・・って誰に言ってんの?。
「お~い美由紀、侑希。元気かぁ!護おじちゃんだぞぉ。大きくなったな。レロレロレロレロバァ~おぉぉお可愛いなぁ、美由紀も美咲も小っちゃかった時は可愛かったけど。侑希は本当に可愛いなぁ」
「はいはいはい、お兄ちゃん馬鹿なこと言っていないで、今日な何の用なの?さっき美咲も来るって電話が有ったけど何かあったっけ?」
「そうか美咲も来るって!それじゃもう少し待ってくれ。今日は浩史君も出かけて居ないんだろう?仕事だとか言ってたな」
「そうなの、普段、土曜日は休みなんだけど何だか忙しいみたいで。急に仕事が入ったからと言ってさっき出かけて行ったよ」
「美由紀、今日な大事な人がここにやって来んだ。だから部屋、綺麗にして置け。そして、お茶の準備もな」
「えぇっそんなの聞いてないよ、誰が来るの?其れって私の知ってる人?部屋ならすぐに掃除出来るけどでもそんなに汚くないよ」
「それは分かってるよ、浩史君の写真なんか置いてないよな、いくら仲が良くても今日は片付けて見えないようにな」
「それは大丈夫です、侑一さんの写真はどうすんの?有っても良いの」
「あぁ、それは大丈夫だ!其れから、今日はあまり浩史君の話はすんなよ」
「其れって本当に私の知ってる人なの?だって私は関矢君の家に間借りして住んでるんだから別に良いんじゃないの」
「だから、普段なら良いけど今日はダメだ。頼むから浩史君の話はするな。良いな」
お兄ちゃんと話している間に美咲と修君がやって来て、手にはスーパー川西に寄って来たみたいで寿司と唐揚げやフルーツなどの盛り合わせをぶら下げている。
私としては何も聞かされていないし、関矢君も黙って会社に行ってしまったので何がこれから始まるのか想像出来ませんでした。
部屋を片付けていると農道を走ってくる青いワンボックスカーが見えて、お兄ちゃんが慌てて外に出ていくんです。
「お姉ちゃん、これから何が有っても驚かないでね。兄にぃとお兄ちゃんが一生懸命頑張って今日という日を作ったんだから、だから、今日だけは兄にぃの話は無しだからね。其れと兄にぃを怒らないでね」
「何で私が関矢君を怒らなくちゃならないの、美咲、あんたは此れから誰が来るのか知ってるの?何で私だけが知らないの、お兄ちゃんもだけどなんか変だよ」
青い車が庭先に泊まると降りてきたのは侑一さんのお父さんとお母さん、そして私と同年位の女性の方だったのです。
何で高畑さん夫婦が?もしかして女性の方はこの間、関矢君が有ったという侑一さんのお姉さん・・・どうしてこの家に、あの時私を玄関払いしたはずなのに。
「美由紀、驚くのは無理がないと思うけど、高畑さんがお前に許して欲しいと、そして侑希に合わせて貰えないかと言って今日来たんだ。お前の言いたいことは分かるけど、高畑さんはお前にどうしても謝りたいって、其れと侑希を産んでくれたことへ感謝したいと言ってくれてな」
「美由紀さん、俺が悪かった、今まで冷たい言葉ばかりかけちまって申し訳なかった。すまん許してくれ。其れと侑一の赤ちゃんを一人で産んだんだって、有難うな。それを知ってれば俺達も早く協力できた、本当にすまなかった。全部俺が悪いんだけど詫びと言っちゃなんだけど、俺達にも侑希の世話について協力させてほしいんだ」
「高畑さん、侑希の話をどこで聞いたんですか?私は侑希を一人で産みましたけれど、この地区の多くの方に協力して頂きまして子育てをしています。お陰様で侑希はこの地区の子供達にも可愛がってもらっています。とても有り難いと思ってるんですよ」
「あんたが侑一の子供を産んだと云う事は、娘が車の中で待って居た関矢さんに教わったのがきっかけで、其れで娘が調べてくれるよう頼んでくれて、分かったと云う事なんだわ。そんでこの間、関矢さんと護さんが家に来て説明してくれて、俺達に孫がいるって分かって・・・俺はあんたに八つ当たりばっかして聞く耳を持っていなかった、だから謝りたくてな。そんで今日、護さんに会わせてもらえないかって頼んだんだ」
「そうだったんですか、高畑さん私に謝らくて良いんですから。私もずっと悩んでいました、あの時一緒に出掛けなけらばあの事故には会わなかったのではと、私こそ本当にごめんなさい、謝り切れないのは分かっています。でも私は侑一さんの子供である侑希を授かる事が出来ました。今はこの侑希と一緒に居る事が出来るのが幸せなんです。高畑さん侑希を抱いて頂けますか。体重はこの間三カ月検診で五千七百六十グラムで、下の歯が生え始めてるんですよ」
「梶谷さん抱かせてもらえるんかい、母ちゃん侑希を抱かせてもらえ、俺達の孫だぁ。本当に有難うなぁ」
「高畑さん、美由紀は私の妹ですが貴方達の孫の母親でも在るので美由紀と呼んであげてください。此れからいつでも会えますから、その方が・・・お互いにもう嫌な気分に戻りたくないでしょ」
「そんじゃ美由紀さん私も侑希を抱いても良いかな、おぉお目元なんか侑一そっくりだわな。侑一は小っちゃい時は体が弱かったけんどこの子は大丈夫かい。よく夜泣きしてな、母ちゃんと俺で交代に起きてはなぁ大変だった、娘も起きてしまってなぁ、お前も覚えてるだろう」
「そうだね、侑一と私は四つ離れてるけど、よく泣いては甘えていつも私と一緒だったの、ちょと気が弱い子だったけど優しい子でね」
「それは私と美咲と同じくらいですね、お兄ちゃんと私も三つ離れていますから多分姉弟はどこも同じなのではないでしょうか」
「そうだな、美由紀も良く泣いてはお袋を困らせていたし、美咲は親父にベッタリだったしどこでも同じですよ」
「でも、この子は今凄く恵まれていて、この地区のマスコット的な存在で、いつも小さな子供達が学校が終わるとこの家に集まって来ては可愛がってくれるんです。ですから私も恩返しの意味で子供たちに勉強を教えて上げたりしています((笑))」
「今日は大家の関矢さんは居ねぇのけ、今回の事でお礼を言おうと思ってたんだけんど」
「大家さんなら今日は仕事が入ったと言って会社に出て行きました、最近忙しそうですね」
「そんなら伝えて貰えっと嬉しいな、今回の事で世話になった、ありがとうなって言ってたって伝えれくれな」
私は、関矢君が裏でDNA鑑定や、今回の誤解を解いて顔合わせが出来るように働いてくれて事を知りませんでした。
何で高畑さん御夫婦がやって来たのか、そして侑希の事を詳しく知っていたのか不思議で仕方なかったのです。
でも其の御陰で高畑さんに孫として認めて頂けたこと、そして何時でも侑一さんの墓参りをしても良い事などが許された事はとても嬉しかった。
この事を関矢君に伝えたい・・・そうか、彼は今日の事を知っていてそれで仕事に出て行ってしまった?多分そう。この頃、関矢君の態度が変だったのは高畑さんの件が有ったからなのだとこの時に知りました。
高畑さんとはお盆前に自宅へ訪問させて頂くことに、その頃には多分侑希はもっと話せるようになっているかも、それともヨチヨチ歩きをしているかも知れない。
皆はその頃の様子を想像しては喜んでいるけれど、それは関矢君との距離が少し遠くなっていくような気が何故かしました。
その夜、俺は遅く帰り今日有った出来事は知らないことにした、俺は今日の事を聞きたくなかったのだ。
翌朝に梶ちゃんが何か言おうとしていたが、俺はそれを遮り急いでいるからと言ってさっさと家を出てしまった。
そして、家に戻ってから昨日の事を護さんから聞いたと嘘を言って「梶ちゃん良かったね、此れで高畑さんに侑希ちゃんをいつでも合わせる事が出来るんだね」と言って自分を落ち着かせている。
アァア、なんて俺は情けないんだろう、もっと素直になれば良いのにと何回思った事か。
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