第三十話 和 解・・・・・和解への道標





 

 護さんと美咲ちゃんの御陰で毛髪と臍の緒が集まり、侑希ちゃんのパパのお姉さんから高畑侑一さんの毛髪と臍の緒、そしてお父さんとお母さんの髪の毛も提供され、俺は東京で行われる会議に合わせて友人の鑑定会社に頼むことにした。

 鑑定日数にはそんなに掛からないと云う事で頼んでは見たものの不安は拭えない。

 しかし、此れだけ材料が整っていれば血脈関係がはっきりと分かると云うが果たして高畑さんは納得してもらえるかどうか?結果をどのように見てくれるのだろうか、後は其々に任せるしかないのだ。


 俺は本社での仕事が忙しく中々茨城に帰れない為、純姉さんと秀樹兄さんに留守番を頼んでみたが繁忙期であるため難しいと断られてしまった。

 美咲ちゃん達にも連絡をして何とか皆で梶ちゃんを頼むことにしたのだが、皆から「彼女は一人でも大丈夫だよ、それに秋江叔母さん達も居るんだから、新婚さんじゃないんだからお嫁さんの心配はいらないよ」と言われてしまった。


 ゥンっ?お嫁さんって、・・・俺は言われてから電話を切るまで気が付かなった。

 クソ、皆して云いたいこと言いやがって、俺達は只の同居人だよ、其れなのにって、そうか俺が心配性なだけだと云う事をこの時に知った。


(ウワァっ穴があったら入りたい)とはこの事だと知った時の恥ずかしさ、きっと梶ちゃんも怒っているだろうなぁ。


「美由紀さん、浩ちゃんが心配して電話を掛け撒くってるみたいだよ。大丈夫だよね、確かにこの家には女一人になってしまうけれど鍵だけはしっかりと掛けていれば問題は無いと思うから」


「あははは、関矢君は心配性だから、私なら大丈夫ですよ。しっかりと鍵を二重に掛けて寝ますので心配しないでください」


「皆そうしているのに、浩ちゃんは美由紀ちゃんの事が心配で心配で。だから言ってやったのよ、新婚さんじゃないんだからお嫁さんの心配は要らないよって。そしたら安心したみたいだったよ」


「えぇえっ、新婚って、私たちは夫婦じゃないんですからそこ迄言わなくても・・関矢君、可哀想」


「あらぁっ本当だわ、この二人は本当にダメな二人だったんだね。あはははは」


 俺は新企画のために急遽社長と役員と共に北欧と東欧に行く事になってしまい、再度帰るのが伸びてしまった事を連絡した。

 ゴールデンウイークに入ることも有り、今度は秀樹兄さんが家に戻るってくれると云う事で、裕子義姉さんに梶ちゃんと侑希ちゃんのお願いが出来た。


 一週間で帰る予定が、海外視察を含めて二週間も家を留守にしてしまった。

 強行スケジュールを敢行した俺だが、海外視察からに帰ってきた時にはDNA鑑定の結果が家に届いていた。


 護さんと高畑さんのお姉さんに連絡を入れ結果が届いた旨を伝え、一度皆さんと会って中身を確認してから話を進めていきませんかと?提案してみた。

 護さんもお姉さんも納得して頂く事が出来、護さんの家でと云うか梶ちゃんの実家にて開封して見る事になった。


 結果としては最初から予想した通り、侑希ちゃんは侑一さんの子供であり、高畑さんの孫でありお姉さんの姪である事も、そして美咲ちゃんや護さんの姪である事も確認できた。

 この結果をどのようにして高畑さんに伝えるか、・・・まだ一度も有ったことが無い俺と護さんが結果報告という形でお伺いし説明する事になった。


 三月の時には梶ちゃんが一人で高畑さんに会いに行ったけれど、今回は俺と護さんの二人で、果たして会って説明を聞いてくれるだろうか?不安がある。

 今回はお姉さんの誘導も有って家の中に入れる事が許され、高畑さんは家の中で待って居るようだった。


 案内されて家の中に入ると高畑さんが囲炉裏の前で待って居て、そんなに頑固そうには見えないけれど此れからの説明を聞いてもらえるのだろうか?一気に不安になってしまった。

 護さんは一度病院であっていると云う事だったけれど、それでも俺と同じように緊張している顔を見せている


「お父ちゃん、今日はね、関矢さんが梶谷美由紀さんの赤ちゃんと侑一の関係を調べてくれて、その結果を教えに来たんだよ。怒んないで聞いてあげて」


「なんだ?その赤ん坊って、俺はそんなの聞いてねぇぞ」


「聞いてないって、お父ちゃんこの間、梶谷さん来た時に何の話も聞かねぇで追い返したっぺよ。あたしが下に行ったら関矢さんと赤ちゃんが居てさ、勘違いしないでよ、関矢さんは梶谷さんの住んでいる部屋の大家さんなんだわ。だから、赤ちゃんをほっとく訳に行かねえからって関矢さんが車の中で待って居たんだよ。その時にあたしが会って、よく見たら侑一の小せぇ時にそっくりなんだわ。そんで名前を聞いたら侑希ちゃんなんだって、侑一の侑の字を使ってんだよ」


「高畑さんお久しぶりです。梶谷美由紀の兄の護です。美由紀は一月二十三日に女の子を産みまして、名前は先ほど説明が会った通り侑希、侑一さんの一字を使わせて頂いております。現在もすくすくと育って、夜泣きもあまりしないようで順調に育っているようです。今日お伺いしたのは、こちらの関矢さんの御尽力によって私達と高畑さん家族と侑希との血脈がはっきりしたと云う事でその説明に来たのですが、どうか話を聞いてもらえんでしょうか」


「はい関矢と申します、実はお姉さんの協力によって高畑さんのお父さんの毛髪、そして侑一さんの臍の緒と毛髪、奥様の毛髪、お姉さんの毛髪、そして梶谷家からは護さんと妹の美咲さんの毛髪、そして侑希さんの臍の緒と毛髪、美由紀さんの毛髪と臍の緒を勝手乍ら採集して頂き、DNA鑑定で法廷鑑定結果が出せる会社に依頼していますので結果は信用できます」


「そんで・・・結果はどうなんだ。俺たちの髪の毛とか持って行ったんだろ、そんで結果出たから今日やって来た訳なんだろが。黙って持ち出したのは娘のした事だから許すけんどな、だからと言って全部許すわけじゃねぇがんな」


「お父ちゃんさっき言ったぺよ、怒んなって。関矢さんが頑張って調べてくれたんだから黙って聞きなよ。お母ちゃんもお願いだからさぁ、お父ちゃんを黙らせてよ」


「ここに高畑さん御家族の鑑定結果が有ります。こちらは梶谷家の鑑定結果です。そしてこちらが梶谷美由紀さんと侑希ちゃん、そして侑一さんの結果です。肝心なのは適合率ですが、それぞれが高い数字で表示されていますのでご確認ください」


「あぁあ、侑一と侑希と美由紀さんは高い数字が出ているから親子だと云う事か。ゥンでこっちが俺達と侑希ちゃんか、此れも高い数字か。そんで梶谷家も同じ位の数字で・・・と云う事は侑希ちゃんは俺と婆さんの孫で、お前たちの姪と云う事か。で、あんたの場合は合致しないと云う事で他人という訳だな」


「はい、これで分かる様に高畑家と梶谷家のお子さん達にはほぼ同じくらいの数字で、そして侑希さんと美由紀さんと侑一さんは親子である事、そして高畑さんと侑一さんは親子、そして孫である事がこれで証明されています。」


「高畑さん、お願いです。家の妹である美由紀を許してもらえませんでしょうか?あの事故は侑一さんと美由紀にとっては被害者です。そして今は、侑一さんと美由紀の間に出来た侑希が居ます。どうか美由紀を許してください。そして侑希を抱いてくれませんか、お願いします」


「お父ちゃん、もう良かっぺよ。美由紀さんだって苦しんだんだ。其れも、女一人で子供を産むなんてそう出来る事ではねえんだから。あたしだって孫を抱きてぇよ、本当は許すも何もねぇべよ、だって貰い事故なんだから」


「高畑さん、他人の私が云うのもなんですが、梶谷美由紀さんも侑一さんも愛し合った結果として侑希ちゃんをこの世に授けてくれたんです。どうか会ってやって頂けませんか、大家としても梶谷さんの悲しい顔を見たいとは思いません。侑希ちゃんの笑顔見たくありませんか?可愛いですよ。此れは侑希ちゃんが産まれた時からの写真集です、如何ですか?侑一さんに似ていますか?」


「おぉお、ちっちゃい時の侑一にそっくりだわ。ねぇお父ちゃん、目元なんかウッウッウッウウウ。本当に侑一に見せたかったねぇグスッ」


「侑一はさぁ小っちゃい時あんまり身体丈夫じゃなかったんだわぁ、見ての通りここら辺は医者なんて居ねえべ。だから、育てんの大変だったんだ。夜中んに車は知らせて南田まで行って診て貰ったりしてなぁ。この子は・・侑希は大丈夫なのか?」


「元気に夜泣きもしないで育ってるみたいです、三カ月検診をこれから受けると云う事でしたが今の所問題は無いと思う、と話していましたから」


「そうかぁ、それは良かった。だけんど俺はあんな事言っちまってかんなぁ、今更許しくれとは言えねぇしな。どうしたもんだかなぁ、アンタ良い知恵ねぇか」


「高畑さんが会って頂けるのなら私で良ければご協力させて頂きます。私は梶谷美由紀さんの笑顔を見るのが大好きなんです。侑希ちゃんもお爺ちゃんと会えるのを楽しみにしてくれると思いますよ。是非、会ってやって下さい」


「うんじゃ、関矢さんと護さんに任せるとして、田圃が落ち着いたら合わせてもらう事にお願い出来ますか」


 俺はこの時、高畑さん御夫婦が侑希ちゃんの写真を見て笑顔を見せている事にちょっとだけ嫉妬してしまった。

 何というか、我が子を取られているような・・と云っても侑希ちゃんは俺の子ではないのに、何か胸の奥が痛くて切ないような、あの笑顔を見て俺の子ではないと云う事を改めて確認してしまったのかも知れない。


 俺は後を護さんと侑一さんのお姉さんにお願いして、席を辞して車へと戻って行った。

 あれ以上は第三者である俺としては介入できないと知っているし、高畑家と梶谷家の問題であって俺には関係のないことなのだ。



「浩史君、今日は有難うな。本当はどうなるかと思っていたけど、本当に分かってくれて良かったよ」


「護さん良かったですね、これで梶ちゃんと侑希ちゃんにとってお祖父ちゃん、お祖母ちゃと呼べる人が出来たし、それに伯母さんだって出来たんですから」


「浩史君、本当にこれで良いのか。正直な話、君にとっては本当は良くないんじゃないのか?侑希を一番可愛がってくれている事は良く知ってるから、どうなんだ」


「護さん何を言ってんですか、俺と梶ちゃん達親子とは大家と同級生だけの関係なんですから気にしないでください。そりゃ寂しくないのかと言えば嘘になりますけど、それは仕方がないことで、何れはこうなって欲しいと皆が望んでいたんですから喜びましょう」


「いや、君がそう言ってくれるなら俺も美由紀にちゃんと今日の事を話して高畑さんに会ってもらう事にするよ」



 俺は高畑さんが分かってくれたことには感謝している、本当は悪くないことを前から思っていたんだと思う、其れでなければあんなにスンナリいくとは考えられないし、梶ちゃんが訪れた時に侑希ちゃんが一緒に居れば変わっていたのかも知れない。

 多分、振り上げてしまった拳を下ろすにはどうしたら良いのか迷っていたのでは、奥さんや娘さんの前で拳を下ろす事が出来なくて悩んでいた事だろう、だから今日の申し込みを待って居たんだと思う。


 護さんに対して、俺はあのように言っては見たものの内心では遣る瀬無いない気持ちがいっぱいで、俺は護さんを家に送ってから親父とお袋に今日の事を報告しにお墓に立ち寄った。

 春のお彼岸に来たばかりなのにまた来てしまった俺は情けないのか、それとも素直じゃないのか?ただ報告しに来ただけなのに自問していた俺が居た。




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