第二十九話 和 解・・・・・侑希ちゃんデビュー




 週末になって、修二君が東京で研修があると云う事で美咲ちゃんが金曜の夜から泊まりに来た。

 最近は地区の子供達も夕方になると来ているようで、どうせ集まるのならと云って梶ちゃんが土間で勉強を教えている。


 子供達は侑希ちゃんと遊びたいのもあるし勉強を教えてもらえるので、最近では友達の友達迄来るようになり盛況となっているようだ。

 子供達の親にとって四月は農業の繁忙期であるため却って都合の良いようで、普段世話になっている手前このような形で恩返しが出来ると梶ちゃんも喜んでいる。


「関矢君、侑希ちゃんお風呂なんだけど大丈夫」


「ほぉ~い、大丈夫だよ。支度出来てるの、白湯も用意出来てる~?」


「美咲もちょっと手伝ってあげて、その内あんたもやる様になるんだから」


「えぇえっ私もやるのぉ、私オムツ着けるの下手なんだよね。この間、着けてる最中にオシッコされちゃったし、難しいよね、兄にぃ」


「美咲ちゃん此れは慣れだよ。と言っても俺もさぁ、この間オムツ変えたばかりでウンチされて、危うく掌にされそうになったんだから((笑))」


「美咲、さっき関矢君になんて言ったの。兄にぃって聞こえたんだけど、何時からそう呼ぶようになったの?お姉ちゃん初めて聞いたぁ」


「エヘヘヘあのね、我が家ではと言っても修ちゃんと二人だけど、修ちゃんが関谷さんをお兄さんみたいに思ってて、其れでこの間ね、修ちゃんが浩兄さんて呼んでるのを聞いて、私には護兄ちゃんがいるから兄にぃって呼ぶことにしたんだよ」


「へぇ?修二君が関谷君を慕ってるんだ、初めて聞いた。其れで呼び方を変えたの、単純ねぇ!」


「お姉ちゃんも、いつまでも高校生じゃないんだから浩史君って呼び方変えれば良いんじゃないの。兄にぃもさぁ、お姉ちゃんの事を梶ちゃんじゃなくて美由紀さんとか美由紀ちゃんとか呼んで欲しいなぁ、いつも一人称でさ、妹としては何か変なんだよね」


「えぇっ、俺達も呼び方変えるの?そんなの聞いてないよ。さては何か魂胆があるのかな」


「えへっ、魂胆はないけど、修ちゃんが二人に言ってみればって。でも、私はそう呼んで欲しいなぁ・・・・私としてはその方が嬉しいんだけど。ねぇ侑希ちゃん」


「今の私達は・・・・・・この先はまだ分からないけど今のままで良いよ。関矢君にはまだ色々あるだろうし、私はまだ片付いていない事もあるから、ネッ気持ちは嬉しいけど、美咲はあまり関わらないで」


「そうだよ、美咲ちゃん。俺にはとても美由紀さんとか美由紀ちゃんとは呼べないよ。だって俺には梶ちゃんは大事な人だし、其れに俺は・・・・まっ、そういう訳だからさぁ」


「何か二人とも変なの?分かったわよ、自然に任せますよ。でも、侑希ちゃんにとって一番良い呼ばれ方を二人とも考えておいてよ、もう少ししたら侑希ちゃんだって喋る様になるでしょ。お二人さんは何て呼ばれたいのか・・・一番大事な事なんだよ」

 

 金曜日である為、俺にはこれからネット会議が有るので早めに食事を済ませキッチンを退散した。

 もっと居たいと思っていたけれど、これからは美咲ちゃんが侑希ちゃんと梶ちゃんの髪の毛を回収する事になっているし、久しぶりの姉妹の会話もあるだろう。


 俺は年度末もあるし、来年度の新企画発表の準備を任せられているので、会議進行と其の纏めもしなければならない。

 纏め如何によっては取締役会に諮られる際に社長と技術営業部長に迷惑が掛かってしまう為重要なのだが、「なんで俺なんだ」と口には出せないでいる。


「ねぇお姉ちゃん、高畑さんの事なんだけど、侑希ちゃんをちゃんと紹介してあげたの?怒られて只帰って来てしまったんじゃないの。ダメだよ、ちゃんと孫がいます。抱いて下さいって認めて貰わなくっちゃ。侑一さんの子供なんだから。別に認知してもらうとかじゃなくて、侑一さんの子供がいる事を教えてあげれば納得してもらえるんじゃないの」


「美咲、分かってるわよそんな事。でもね、その前に許して貰わなくっちゃ、まだ許してもらえていないんだからね。どうしようか困ってんの」


「兄にぃに相談すればいいじゃないの、仲が良いんだから。なんかそんな所は遠慮してるんだね」


「だって関矢君には関係ない事だし、其れにこれ以上は甘えてはいけないような気がしてさ。最近はさぁ、仕事が残っているからと言って部屋に入ってしまうんだよね」


「ふぅんそうなんだ。ちょっと覗いてみようか?兄にぃの部屋鍵掛かってんのかなぁ?お姉ちゃん入った事あるんでしょ」


「いくら同居してるからと云ったって、法事とかの時には入るけどそれ以外には入らないよ。まして男と女なんだからね、其処は弁えていますヨ」


「でも、覗いちゃダメって事はないよね、ちょっと行ってみようかな」


「えぇっちょっと行くの!邪魔しちゃダメだからね」


「何言ってんの二人で行くに決まってんでしょ、そうだ侑希ちゃんも連れて行ってみようか」



「Mr. Sekiya, there is someone at the back door. Is it your wife? I also have a baby.(関矢さん、後ろの扉に誰かいますよ。貴方の奥さんですか?赤ちゃんも居ますけど。)」


「No, I'm single. Ah, she is her junior high school classmate Miyuki Kajitani and her daughter Yuki who live in a rented room. And her sister Misaki.(いいや、私は独身だけど。ああ、彼女は貸部屋に住んでいる中学生時代の同級生で梶谷美由紀さんと娘の侑希ちゃん。そして、妹の美咲さんです。)」


「Nice to meet you, my name is Misaki Kajitani and my sister Miyuki Kajitani. Her sisters Miyuki and Sekiya were lovers when they were in high school.(はじめまして、梶谷美咲と姉の梶谷美由紀です。 姉の美由紀と関矢さんは高校生の時は恋人同士だったんです。)」


「Nice to meet you too  Oh, Mr. Sekiya's girlfriend, I finally got it. Let's celebrate together Congratulations on her(おぉ、関矢さんに彼女、ついに手に入れたんだ。 一緒にお祝いしよう。おめでとうございます)」


「Yuki-chan is a three-month-old girl, and Mr. Sekiya is taking a bath. She also gives her milk.(侑希ちゃんは生後三か月の女の子です、関矢さんが沐浴してあげているんですよ。彼女にミルクも飲ませています)」


「It is great. You're a daddy(それは素晴らしい。ちゃんとパパをしてるんだね)」


「No, it's just my friend ... I'm really a friend. Please don't tell everyone.(いや違うって、私の只の友達・・本当に友達だから。お願いだから皆に言わないでよね。)」


(笑)(笑)(笑)(笑)


「I would like to thank Yuki-chan, who is three months old. See you again Good night(生後三ヶ月のユキちゃんに感謝します。 また会いましょう、おやすみなさい」


「See you  Good night(また会いましょう、おやすみなさい)」


「Kaji-chan, it's no good during the meeting, so I'll ask.(梶ちゃん達、会議中はダメだからね、頼むよ)」


「No, Sekiya, you are too hard. I'll introduce you to everyone next time, I want to see your face like that. Especially when you were looking at Yuki-chan's face, you were really good.(いやっ、関矢、お前は固すぎる。今度ちゃんと皆に紹介するんだぞ、お前のそういう顔を皆みたいんだ。特に侑希ちゃんの顔を見ている時のお前は凄く良かったぞ)」


「Please forgive me, director. But ... Thank you everyone(部長、勘弁してくださいよ。でも・・・・みんな有難う)」



「へぇ、あんな形で会議をしてんだね、初めて見た。でも、みんな侑希ちゃんとお姉ちゃんに興味があったようだよ、あれは後で兄にぃは大変じゃない、紹介しろってさぁ」


「ゥンもう、美咲は。後でちゃんと謝まんなくっちゃ。でも、本当に仕事してたんだね、何か見直しちゃった。関矢君が社内で本当は偉い人だって、改めて知ったわ」


「そうだね、兄にぃの名刺を初めて見た時に吃驚したけど、改めてああして見ると、ほんとは凄いんだね。でも侑希ちゃんにはスゴ甘顔だけどね((笑))」


「それにしても、まさか美咲が英語話せるなんて思いもしなかったわ」


「あらぁ、知らなかったのお姉ちゃん。病院の受付はある程度英語は話せなくっちゃって院長が、其れで勉強させられたんだよ。でも少しだけどね、病院はいろんな人が来るからある程度喋れれば問題ないの。名前と住所、何処が痛いかが分かれば良いだけなのよ」


「へぇそうなんだぁ、でも我が妹ながらカッコよかったよ」


 まさか、梶谷姉妹が会議に参入してくるとは思いもしなかったけれど、何故か嬉しい俺でした。

 でもその御陰で週明けには、梶ちゃんと侑希ちゃんの写真が社内に拡散していて、もう結婚して子供がいる事になっている!其の日から火消しに追われる日々が続いた俺でした((´;ω;`))。

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