第二十五話 新しい息吹・・・・・雛祭り(1)





 姉から言われた通りに侑希ちゃんが生まれてから二月二十二日で三十二日目になるので、若宮八幡宮に予約を入れてお宮参りをする事になった。

 平日なので俺は有休を取っていく事に、安産祈願の時の用には行かないと云う事で、当日は一張羅の礼服を着て、梶ちゃんも着物を純姉さんに着付けて貰い、主役の侑希ちゃんは真っ白な御包みを着て、その上に貸衣装さんから借りてきた小さな着物を掛けている。


 安産祈願の時と同じように石の鳥居前で会釈をしてから石の階段を上り、石の鳥居を潜ってから参道を歩くと、あの時と同じように宮司さんのお母さんが笑顔で迎えてくれていた。


「あらぁ赤ちゃんが産まれたのねぇ、おめでとう。元気な赤ちゃんが産まれたようね。あなた達も此れから赤ちゃんと一緒に親として育っていくのよ。だから、今日は神様にこの子が無事に生れた事への感謝と報告をして下さいね。それから、これから先の事、無事に大きく育つことをお願いしてくんですよ。一番大事な事は貴方たちも一緒に気付いていく事ですからね。この子から沢山いろいろな事を教わると思いますから、一日一日を大事にして育てて云ってくださいね。頼みますよ」


 社務所で予約している事を告げ、巫女さんに案内されて本殿内に入り、出産報告とこれからの成長をお願いして宮司様に祝詞を奏上して頂き、先程宮寿さんのお母様に有ってお話を頂いたことを話しました。


「そうですか、もう母から祝いの言葉を頂いたんですね。其れではもう私から云う事は有りませんね((笑))母は強しですから。この子が無事に大きく育つのはお母さんの力が大です。そして、それを補って上げるのがご主人と云う事になりますね。共に助け合って仲の良い二人をこの子に見せてあげる事で健やかに育つのです。もし、お二人が喧嘩などをした時にはこの子も様々な反応をしますので、吐いたり、熱が出たり、愚図ったり、これ等は夫婦の仲が悪い時によく現れるそうです。ですから、何時も仲良く、一番はご主人が話をよく聞いてあげる事です。我が家はそうしていますよ。主婦は大変なんですから、御主人も仕事で大変だとは思いますが、子育ては仕事とは違う大変さが有るようです」


「あのぉ宮司さん、お願いがあるんですけど聞いて頂けないでしょうか?」


「はい、何でしょう?我々が今日できる事ならばお伺い致しますが、難しいのはダメですよ」


「ありがとうございます、お願いと云うのは宮司さんとお母様と一緒に写真を撮らせて頂けないでしょうか?ダメなら結構なのですが、記念に一緒にお願い出来ればと思いまして!」


「あぁ写真ですか、私は大丈夫ですが、少し待っててくださいね?母に聞いてきますから」



 今日の梶ちゃんは少し変だ、なんと言うか今までこのような事を言っていたことがないと思う、ママになってから少し強くなったのかも知れない。

 でも、宮司さん達は一緒に写真を撮らせて頂けるのだろうか、しかし、何で宮司さんとお母さんなんだ?俺には分からなかった。


「お待たせしました、母なら大丈夫だそうです。実は母は今日、貴方たちが来るのを待ってたんですよ。安産祈願の時から気になっていたとか言って、今日お宮参りでいらっしゃると話しましたら外で待ってると言って訊かなかったんですから、よっぽど貴方達が気に入ってたんですね。そして、お写真も取って下さると云うのですから母は大喜びでした」


「ありがとうございます。私も彼も、もう父も母親を亡くしてまして、母のような有難い言葉を掛けて頂きました事、感謝しています」


 俺達は宮司さんと宮司さんのお母さんと一緒に本殿前で写真を数枚撮る事が出来た。


 帰りに写真屋さんによって記念写真を撮ってもらい、夫婦ではないのに何故か二人だけの写真や三人の写真、そして侑希ちゃんを抱えてそれぞれの写真、そして主役の侑希ちゃんだけの写真を、実はこれが一番大変だった。

 侑希ちゃんを一人にした瞬間に泣き出してしまい、さすがにこれは無理だろうと思っていたら、女性のアシスタントが人形を持ち出しては侑希ちゃんの目の前に持って行って遊びだすと、なんと笑顔が・・これはプロだわって、二人して顔を見合わせてしまった。


「関矢君、ごめんね。怒ってる?夫婦でもないのにあんな写真ばっかり取ってもらって」


「うぅ~ん、怒っていないよ。ちょっとびっくりしただけだよ。でも、俺なんかが侑希ちゃんと一緒に写真を撮って良かったのかな?侑希ちゃんの本当のパパに天国から怒られるんじゃないの」


「そうかもね。でも、怒られるのは私だから。それに、どうしても関矢君の写真が欲しかったんだ。私って欲張りな女なのかもね!だって、関矢君がまた居なくなりそうだったから」


「もう何処へも行かないつもりだよ。俺は梶ちゃんと侑希ちゃんを見守ってあげる事に決めたんだ。だから、心配はしなくていいよ」


「それでね、ちょっと聞きたいんだけど。関矢君は私の写真持ってる?私はさぁ、この間アルバムを整理したの。そしたら出てこないのよ、関矢君の写真が一枚も。田畑君や増田君たちと一緒に撮った写真は有ったけど、私、関矢君とは一緒に撮っていないんだよ、其れっておかしいでしょ。私達って高校の時から三年間付き合ってたんだよ、だけど・・其れなのに一枚もないの。それから、こっちに帰って来てからもまだ一枚も一緒に撮って居なくて・・・其れで不安になって、関矢君に内緒でカメラマンさんにお願いしたの。気悪くしたら謝るから・・ゴメンね」


「何で謝るの、梶ちゃんは悪くないよ。俺ってさぁ、小さい時から家に居てはいけない気がして、其れで家でもあまり写真は撮られていないんだ。中学や高校の時もあまり写真は撮っていないし。でも、梶ちゃんの写真なら一枚持ってるよ。増田にあげるやつだったのを俺、どうしても欲しくてさぁ、気持ち悪かったらゴメン。でも、今でもその一枚を大事に持ってるよ。返さなくちゃいけない?返そうか」


「いいよ、持ってて。私も今日の写真は誰にも見せないし、あげない。私の秘密の宝物だから。でも、本当に居なくならないでね、もう嫌だよ居なくなるのは、侑希も私も泣いちゃうから。其れから、まだ関矢君に侑希のパパの写真見せた事ないよね、見たい」


「うぅん、いい。俺、ヤキモチ焼いちゃうから((笑))なんて。見ても俺には何も出来ないし侑希ちゃんのパパにはきっと勝てないよ」



 次の日に護さんから電話があって、帰りに梶ちゃんの実家に寄って欲しいからと、何でも渡す物があるとの事だった。

 仕事もそんなに詰まっている訳でもないので早めに仕事を終わらせて、馬場口の梶ちゃんの実家に寄っていく事にした。


「おう、早いな。もう来てくれたのか。此れなんだが美由紀のさぁ、雛人形なんだわ。侑希の為に飾ってあげてやればいいだろうと思って、美咲のもあっけど、どうする。美咲のも持って行ってくれると俺は嬉しいんだが・・・家のが、俺が持て行くと煩いから関矢君しか頼めなくてさ。悪いけど、頼めっかなぁ」


 護さんも奥さんに弱いようで、俺は車に梶ちゃんの雛人形のセットと、美咲ちゃんのを詰め込んで家に帰った。

 家に戻ると、既に護さんから連絡が云っていたようで、玄関で侑希ちゃんを抱えて待って行ってくれた。


「何もお兄ちゃんは関矢君に頼まないで、自分で持ってくれば良いのに、本当に義姉さんには何も言えないんだから」


「あははは、そんな事言わないの、護さんの気持ちを分かってあげなよ。どこに置こうか取り敢えず飾る所を決めておいてよ、其れまでは土間に置いとけば良いんじゃない。美咲ちゃんのも預かって来てるからさ」


 侑希ちゃんにとっては、お雛様を飾るという女性だけの初節句を迎える事になる訳で、護さんも侑希ちゃんの為を思って、奥にしまってあった妹の雛人形を用意しておいたのだろう。

 俺は純姉さんが雛人形を飾ってる記憶はなかった、確か俺の小学校の女の子達も多分飾ってはいなかったのではないだろうか、そういう話も聞いたことはなかった。


「あらっ美由紀ちゃんのお雛様なの、へぇ久しぶりに見んね、私も生まれた馬場口では飾ったけど、こっちの地区は女の子の節句は祝わないんだわ、ほらこの辺は農家だっぺよ、だから後継ぎは男と決まってるし、旧正月を過ぎてからは農家は忙しいからね。カラス追い祭りが終われば麦踏みが始まるし、其れが終われば山に入って落ち葉集めて室で腐葉土を造ったりしてたから何だかんだで急がしくなるんだわな。だから紅白の餅を搗くだけで人形飾ったりははやらなかったんだ」


「其れじゃこの地区では、畑仕事の準備が忙しくて女の子のお祭りはしなかったんですか?じゃぁ純さんもしていないんだ、へぇそうなんだ!」


「そうだ関矢君、この地区の女の子呼んで良い?私も侑希も皆と一緒にと祝いたいんだけどダメかなぁ。だって皆にも雛飾り見せたいし、女の子だったら、ねぇ秋江叔母さんもそう思いますよね」


「そうだね、良いんじゃない。飾り付けもこの土間を使うと良いよ。板の間を造って上げるからその上に茣蓙を敷いて、雛壇を作って飾り付けをすれば皆が来ても見られる。スミレ会の人も集まっても薪ストーブがあるから寒くないしね。其れじゃ早速、明日から始めれば良いんじゃない。俺、朝一で板の間造ってあげるからさ」


 俺は朝一番で上城町にあるDIYセンターで材料を揃えて、土間に三畳程度の板の間を作ってあげた。

 美咲ちゃんもやって来て、秋江叔母さんが声を掛けてスミレ会のメンバーも集まり出して、特に小中高生達は賑やかに飾り付けを始め、梶ちゃんや美咲ちゃんに飾り付けを教わりながら飾っていく。


 この家にこれだけの女の子達が集まるなんて俺もだけど、多分、あの世の親父やお袋も思いもしない事ではないだろうか。

 女三人寄ればかしましいと云うけれど、辰婆さんも来て賑やかどころかそれ以上の賑わいになって、俺にとっては嬉しい事だった。


 雛祭りの土曜日までまだ日数が有るので、飾り付けは明日の日曜日までに終わらせて、一週間はこの家に飾り付けたままにして、土曜日に雛祭りをスミレ会としても家で行う事になった。

 秋江叔母さんがお米と麹で甘酒を造る事になり、辰婆さんや沈婆さん達が金曜の夜に菱餅と丸餅を造るから子供達に集まるようにと話している。


 佐川田や林さんなどは御菓子を用意する事になり、俺はこの家の一間を皆に開放してやる事で参加する事になった。

 お袋や親父が生きていたならきっと同じことをするに違いないと俺は思っているけど・・・何やってんだぁ!とか言われそうかなぁ。

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