第二十三話 新しい息吹・・・・・あの日の誓い
二月に入って、侑希ちゃんも元気にすくすくと育っているようで、俺としても朝の顔を見る毎日が楽しく、仕事をしていても我が子のように携帯の写真を営業所の仲間に見せているのです。
皆から親バカそのものだねって言われても、可愛いものは可愛い、たとえ自分の子ではなくてもいつまでも居てくれればと願うばかりの俺なのです。
節分も終わり、もうすぐ俺にとっては大事な日がもうすぐやってくる、あれから十六年経ち今でも懺悔の気持ちには変わりはない。
此れだけは、梶ちゃんには言えないし今後も話すつもりはない、俺だけが背負っていけば良いだけで、俺が俺自身の人生に掛けた枷なのだから。
「関矢君、この頃顔色良くないよ。最近黙って居る日が多いけど、大丈夫なの」
「あぁぁ、ごめん大丈夫だよ。心配掛けてごめんね。其れで二月十三日なんだけど俺、朝からちょっと出かける所があるんで忙しくて、侑希ちゃんの顔を見られないかも」
「ふぅん、急な仕事なの?それとも出張?大丈夫だよ、行って来て下さい。帰ってきたら侑希の顔を見てくれれば侑希も喜ぶから。ねぇ侑希!」
十三日の土曜日の朝、俺は喪服に着替えて家を出る時から黒いネクタイをしてしまえば心配を掛けてしまうのでポケットにネクタイを押し込んで、前日に買って用意して置いた墓前用の花束を車に入れて、俺は梶ちゃんや侑希ちゃんに会わずに家を出た。
俺にとって今日は掛替えのない友であった黒沢の命日、其れも俺自身の車の運転で友を亡くしてしまった日でもある。
お寺には朝一番での黒沢のための法事をお願いして有るため早く家を出たのだ。
黒沢の家族からはもう十三回忌を過ぎたのだからと云われているが、俺自身が彼奴を殺してしまった事を忘れる事は出来ないのだ。
確かに不可抗力で友が車外に飛び出てしまい亡くなってしまったと云えば責任逃れが出来るのかも知れないが、俺があの時もっと注意し運転していれば防げた事故だった。
あの事故のせいでお袋や親父にも責任を負わせてしまい、俺には如何して良いのかが分からなかった。
東京に出てくる時に、水戸家庭裁判所での審理中に弁護士さんから言われたことが有る。
「東京の学校へ行く事になってるんだってね、東京で審判が決まる日が四月六日・火曜日だから、決して審判が決まるまでは君の荷物は送らないようにしてください。そして学校は専門学校だったよね、学校側にも入学式は出られるけど、入寮手続きや荷物は審判後になりますと云う事を話しておいて下さい。貴方の場合は審判後、少年院への収監の可能性が高いですからね、伝えましたよ」
あの時の俺は共通一時は合格していて国立大学の工学部へ行くつもりだったけれど、事故後、大学への受験を諦め、慰謝料などの問題も有るため専門学校へと進路を変え直ぐに働くつもりでいた。
審判では親父やお袋が三月末日で公務員を止めたことや慰謝料を払う事で示談が成立していることなどが考慮されて収監はなかったけれど、刑期二年・執行猶予五年が言い渡されその日のうちに保護司さんへの家に連れて行かれ、毎月一回の保護司面接とレポートの提出、そして移動制限が付いたのだ。
俺は直ぐに学校に戻り入寮手続きを済ませるとその日のうちにアルバイトを探し、そしてその日から俺は俺自身に枷を掛けた。
「ご住職、朝早くから申し訳ありません、あの日から十六年になりました。ご住職には本当に感謝しています。東京から俺の我が儘を聞いて下さりお礼の使用が有りませんが、昨年に茨城に戻ってから親父が死んだりいろいろありまして、今日と云う日まで挨拶が遅れました」
「関矢君も立派になって、十三回忌の時に会ったきりだったね、元気でしたか。黒沢君も生きていれば貴方のようになっていたかも知れませんが、人の生き死には運命、そして、黒沢君が早く亡くなったのも運命だったと考えてください。もう、貴方が自分を責めるのを彼だって望んではいないと思いますよ」
「そうかも知れません、でも、俺自身は自分に枷を掛けていないと自分を失う様で怖いんです。もし彼が生きていたならきっと彼には温かい家庭が有って家族と共に幸せになっている事でしょう、おじさんやおばさん達も彼の子と一緒に楽しい日々を過ごしているかも・・・と思うだけで俺は彼ばかりではなく、彼の家庭を、おじさんやおばさんの夢をも奪ってしまったんです」
「君は今でも黒沢さんに慰謝料を払っているそうだね、確か十三回忌の時にもう払わないでくれ、君の責任はもう果たした。君は自分の生活をしてくれって、言われたと思うけれど。君は結婚はしないの?其れとも好きな人はいないのかい」
「まだ結婚はしていません、好きな人が出来ても俺には幸せには出来ないと思っています。それに俺だけが幸せになろうとは思っていません」
「そうか、ここに君が来たらと黒沢さんから預かった手紙がある。君に渡してくれと云われてね。内容は私は読んでいないから分からないけれど、君が、いや君にきっと黒沢さんは変わって欲しいと思ってるし、彼の分も幸せになって欲しいと願っているはずだよ。君はもう幸せになって良いんだよ、それが黒沢さんが望んでいる事なんだから」
「ご住職、俺は・・・俺はまだ自分が許されないんです。どうしても・・・・まだ、分からないんです」
俺は寺を後にして、事故を起こした現場に車を走らせて冥福を祈った。
俺は梶ちゃんが幸せになる事だけを考えて生きて行こうと思ってるし、侑希ちゃんにも幸せになって貰いたい、その中には俺の幸せはないのだ。
「あれぇ。浩史君は?今日休みで居るんじゃなかったの」
「あらっ純さん、関谷君なら今日は朝早くから出かけて居ないですよ。花束を抱えて結婚式かなんかじゃないんですか?でも二日前からあまり喋らなくて、侑希にもあまり声を掛けてくれなくて、ちょっと変だったなぁ」
「あぁそうか!今日はあの日だったんだ。そうか、それなら仕方ないよね。梶ちゃんは浩史から何も聞いていないの?うぅ~んどうしようか、話しても良いのかなぁ、もう少ししたら秀樹兄さんが来るから、それからにしようか」
今夜、侑希ちゃんの御七夜のお祝いを行うため、今日秀樹兄さん夫婦や純姉さんが来ていることを俺は知らなかった。
俺は高校の同級生だった黒沢を不注意からの事故で亡くしてしまった事が辛かった、そのせいもあって高校の同窓会の知らせが来ても連絡さえしていなかったし、友達に顔を見せる事が出来なかった。
住職から渡された黒沢の親父さんから手紙を頂いてもまだ中身は見ていないし、見るのが怖かった。
車を止めては手紙を開けてみようかと何度も思ったが、止めてはまた走らせるという躊躇している自分が居て、後続の車からは何度もホーンを鳴らされては追い抜かれていく。
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