第二十話 兄・姉・弟・妹・・・・・Ⅱ
俺にとっては梶ちゃんの姉妹については正直言って何も知らないし、まして、新婚ほやほやの美咲ちゃんの旦那さんである修二君については殆ど皆無と云っていい程知らないけれど、多分大丈夫。
そう思いながら梶ちゃんの部屋に布団を運び、俺の部屋にも修二君用の布団を敷いて体裁は整った。
それぞれが風呂に入って頂き、もはや俺は旅館の番頭か?と思いながら。薪ストーブに最後の薪を入れ、それぞれが床に就いたのだ。
「ねぇお姉ちゃん、お腹の赤ちゃん此処なら産めそうだね。皆良くしてくれるんでしょ、よかった。関矢さんに感謝しなくちゃだね」
「うん、皆良くしてくれるんだよ。本当にさぁ、私なんか此処に住んでいなかったのに、もう家族同然に見てくれて、本当に助かってる。関矢家の信頼関係はこの地区では大きいのよ」
「ふ~ん、でさぁ、関矢さんと上手くやってるの?と云うかお姉ちゃんはさぁ、本当のところ関矢さんの事どう思ってんの?今でも好きなの?それとも只の友達なの?凄っく気になるんだけど」
「何急に、べっ別に関矢君とは何でもないわよ。普通よ、今まで通りの普通、それ以外は有りません。そりゃぁ少しは気になるけど、でも今の私の状況に関矢君を巻き込みたくないの、だってこの子は関矢君の子じゃないし・・この子の事だってまだ高畑君の家から認められている訳でもないし、私だってまだ許されていないからね。その事を関矢君には話していないのよ」
「そう何だ、まだ話していなかったんだ。凄かったもんね!病院に入院していた時、お姉ちゃんに息子を返せ、何でお前が生きてんだぁって。病棟に聞こえるくらいの大声で怒鳴ってたもん、私泣いちゃったんだから・・・でも、お姉ちゃんよく我慢してたよね。お兄ちゃんはただ黙って頭を下げ続けてたけど、でも、貰い事故なんだからお姉ちゃんは悪くないのに・・・酷かったよね」
「うぅん、あれで良いのよ、修一君はお姉さんと二人姉弟で、年が離れてたからお父さんの気持ちとしては跡取りが亡くなってしまった訳だし。私と夜遊びして居なければ死ぬ事なんて無かったんだから、私が助かったことが許せなかったのよ。だから悪くないのよ」
「なんか関矢さんと同じような事お姉ちゃんも言ってるよね。自分の中に収めておけばいいなんて良い人すぎるんじゃないの、でも、私は関谷さんは好きだよ、お姉ちゃんの事一番に大事にしてくれてるし、妹の私も大事にしてくれるもんね。本当にお兄さんになってくれないかなぁ」
「美咲、いい加減にしなさい、関矢君には私は似合わないのよ、誰が子連れの女と結婚なんか進んでしないわよ。、それに今話したように、まだ私には彼との事が終わっていないんだから、この子が産まれたら高畑さんに会ってもらいたいの、侑一君の子供を抱いてもらいたいんだ」
「そうだね、早くその日が来るといいね。でも関矢さんにはちゃんと話しておいたほうがいいよ、絶対協力してくれると思うから、黙って居るのは良くないと思うの」
「そうだね、この子が産まれてからちゃんと話すつもりだよ、関谷君っていつも私が困っている時に必ず現れてくれるの、だからいつも頼ってしまって・・・時々、本当にこれで良いのかなぁって思う時もあるんだ、だから申し訳なくてさぁ」
「良いんじゃないの、きっと関谷さんだってそれを望んでいるんじゃないのかなぁ。困っている時には俺が助けてあげるからってオーラが何時も出てるもん。其れだけお姉ちゃんが好きなんだと思う・・・だ・か・ら後はお姉ちゃん次第なんじゃないのかなって思ってるよ」
「馬鹿な事言わないの、さぁ寝るわよ」
「関矢さん、まさか此処に泊る事になるなんて思いもしませんでしたよ、本当に有難うございます」
「あっははは、そうだよね。でも良いんじゃないの、そんなに畏まる必要なんてないよ。俺は仕事仲間といつも現場で寝てるからあまり気にはならないし大丈夫だよ。其れに美咲ちゃんの旦那さんだし仕事仲間よりは安全かな、彼らは油断すると危ないからね((笑))。」
「関矢さんと義姉さんの関係って僕はよく分からないんですけど、何か夫婦みたいだし、そして友達みたいだし?なんか不思議ですよね」
「美咲ちゃんに俺たちの事聞いていないの?ただの中学校からの友達だよ。高校の時に少し仲良くなったけど、でも二人だけでデートしたりとかはした事はないよ・・本当だよ。十月の安産祈願の時に初めて二人きりで出かけたんだから、と云っても誰も信用しないだろうけどね」
「えぇっ、そうなんですか!其れって付き合って居たとか以前の問題じゃないですか、其れなのになんで仲が良いんですか、よく分かんないですねぇ」
「そうだね、不思議だよね。でも本当なんだから仕方ないよ。でも高校の時に毎朝、バス停で会ってたんだよ僅か五分くらいだったけどね、楽しかったなぁ。三年の終わりごろに梶ちゃんが家に来てさ、お袋や純姉さんと仲良くなって、いろいろ教わっていたようだったけど俺はバイトで家に居なかったからよく分かっていないんだ、」
「へぇ義姉さんって積極的だったんだぁ、其れなのに関谷さんはバイトで家にいない。うぅ~ん益々分かんないや、でも義姉さんの事、関矢さんは好きなんですよね。他人の僕から見ても夫婦みたいに見えるんですから、本当に!」
「だ・か・ら、さっきも言ったように俺とは只の友達、梶ちゃんにはお腹の子のパパの思い出があるんだから俺の入る余地なんて無いよ。それに俺が幸せになる事は・・・・、ともかく、梶ちゃんには幸せになって貰いたいんだ、梶ちゃんが幸せになってくれるんだったら出来るだけの応援はするつもりだよ。俺には其れしか出来ないからね」
「そうなんですか、なんか寂しいですね。でも男としてかっこ良いですよ。義姉さんはそんなに思われて幸せですね、俺が言うのも何ですが義姉さんの事お願いします」
俺には梶ちゃんにはまだ話していないことが有る、それでも俺は良いと思っているし、俺だけが幸せになるなんて考えてはいけないと思っている。
ちょっと刹那的なのは分かっているけど、俺はあの事故以来そう考えて自分を戒めてきた。
多分この考え方はもう変わらないだろう、だから自分より周りの人が幸せになるのなら一生懸命応援して来たし、してあげたい、其れしか俺には出来ないのだから。
翌朝に美咲ちゃん夫婦は自分の家へと帰って行った。
俺は朝から薪ストーブの煙突掃除を始めては身体全身を煤だらけにして、梶ちゃんに笑われている。
この煤落としは、此れから産休に入った梶ちゃんのために一日中薪が炊けるようにするには必要で、周りに火の粉が飛ばないようにする為なのだ。
とは言え、この煤は厄介で、煙突を分割してブラシの付いたワイヤーで引っ張りながら落としているので出口の袋には煤がたっぷりと落ちている訳で、場所を変えるたびに煤が舞い上がり俺の身体が真っ黒くろすけで、その度にお腹を抱えて笑いこけて居る梶ちゃんなのだ。
三箇日も過ぎ、俺は普通通りに仕事に、梶ちゃんは産休で家に居るのだが、どうやら秋江叔母さんが毎日来ては雑談をしながら、おむつを縫ってくれているらしい。
佐川田さんの家から今は使っていないベビーベッドやベビーバスが持ち込まれていて、梶ちゃんの部屋がだんだん狭くなってきてるようだ。
一人で家にいるよりも、近所の方々にお世話になりながら出産への不安を吐露しては気分を変えているようで、大家の俺としては有難かったし男の俺には何も出来ないのだから力強い。
日増しにお腹が大きくなり重そうにして歩いている梶ちゃん、秋江叔母さんの話によると腰が痛くなっているので昼間は楽にして貰っていると言っていた。
七日の朝には七草粥が用意されていて、お袋が生前にも作っていたような・・・ただちょっと苦さが有ったような気もしたが、食べてみると御餅で疲れた胃に優しさを与えてくれる。
確か、セリ・ナズナ・おぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろだったと思うけれど、中学だったか高校だったか忘れたが国語で習った記憶があったが、まさか本当に食べられるとは思わなかったので嬉しかった。
営業所でも七草粥の話が話題になっていたが、此処で今朝食べたなどと云ってみたらまた冷やかされるのは分かっているので、俺は口をつぐんでいた。
共同生活と云え、家族みたいな生活と云うのはこのような幸福感がある事を実感した一日であった
純姉さんも夜に健と恵を連れて来ては夕食作りを手伝ってくれて、隆義兄さんも夕食を一緒にとっては帰っているようで、帰りの遅い俺は梶ちゃんの相手が出来ないでいた。
出産予定日近くになってから俺も時間が取れるようになり、純姉さんから出産前近くになると「胃が圧迫されて悪阻が出る人もいるから気を付けなさい」って言われても俺、何をすればいいの??。
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