第十九話 兄・姉・弟・妹・・・・・Ⅰ



 当然、家には俺一人で過ごさなければならないと思っている矢先に純姉さんたち四人がやってきたのだ。

 甥の健と姪の恵ちゃんのお年玉作戦の一つでもある訳なので、ちゃんと用意しておいた袋を差し出すと、さっそく中を改めて文句を言ってくる


「ねぇおじさん、もう少し入れてよ、秀樹おじさんのほうがちょっと多いよ‥ねぇお願い、ゲームソフト買いたいんだよ」


「こら、健!さっき秀樹兄さんにも同じこと言っていたでしょ、いい加減にしなさい。いい加減にしないとお父さんに叱ってもらうからね」

 

「健、何だ。秀樹おじさんにも同じこと言って増やしてもらったのか!全くしょうがないなぁ。ホレ純姉さんには内緒だぞ」

 

「やったぁ、おじさん有難う。あれ梶谷さんは居ないの?出かけちゃったんだぁ」


「こらぁっ健。そんな事言うと没収するぞ」


そんなやり取りをしていると近所の秋江叔母さんと叔父さんがやってきて、縁側でお茶を飲み出した。

みんな喪中でやる事が無くて、賑やかな家に行ってはお茶談義をして時間潰しに来ている訳で、俺としても有りがたいと言えば嘘になる。


「梶谷さんは出かけたんか、さっき妹さんが来てたんだろう。一緒に道場口の実家に挨拶回りに言ったんだよな」


「あぁ今月二十三日頃出産予定だからその話と、今後の事について話してくるって言ってたよ。義姉さんとは彼女上手くいっていないみたいで、産後の応援についてはあまり期待できないかもって…それで美咲ちゃんと話し合う事になるかも!とも言ってたよ」


「そんな事だと思っていたからさぁ、あたし達がちゃんと面倒見てやるからって今日言おうと思って来たんだよ。純も居るし、私や佐川田さん所や菅原さん所だって応援したいって言って来てくれたんだわ。大丈夫だよ、ちゃんと私達が床上げするまでは面倒見てやる事が出来るから、安心しな」


「そうだよ、心配する事なんて無いのよ。其れから浩史、赤ちゃんが産まれたら安産祈願に言った八幡様に御礼をしに行くんだからね、男の子だったら三十一日目、女の子だったら三十二日目だったと思うけど、お宮参りは貴方がちゃんと予約してやって、そして貴方がしてあげるのよ。美咲ちゃんにもちゃんと連絡してあげる事、良いわね」


「そうだよ浩ちゃん、其れと記念写真も撮ってあげなよ。服装なんてちょっと小綺麗な物で良いんだから、赤ちゃんには御包みを着せてその上に貸衣装を掛けるだけで良いんだから、安く出来るわよ」


「何でもそうだけど、祝って挙げることが大事なのよ。彼女のためにも奮発しなさい。ねっ分かった!」


姉さんも叔母さんも、まだ生まれていない赤ちゃんことを話し始めて俺は閉口してしまった。

出産の時にはどうしたら良いのか?その後はどうすべきなのか?俺には何が出来るのか等々課題は山積みで、果たしてどうなるんだろう。


その後に秀樹兄さん達も家に来て、梶ちゃんと二人きりだった昨日とは違い賑やかな集まりとなって、やはり兄姉がいると家族ってこんなに楽しいもんだと改めて思ってしまった。

高校出る時迄はまだ大人になり切れていない俺だったけれど、大人になって兄姉との関係はより強くなっているような気がする。


いつも俺の頼れる秀樹兄さん、そして何時も応援してくれている純姉さん、俺は本当に恵まれている。

けれど、それは今になって分かったことで、あの時には分かっていなかった。

多分、あの時の俺は兄や姉には負けたくないという気持ちからより反発して居たのかも知れない、何時も言われていた優秀な兄、そして出来る姉との比較に俺は耐えられなかった。


親父やお袋は、俺を心配して比較対照する事で叱咤激励をしていたのだろうけど俺には耐えられなかった、もっと甘えたかったのかも知れない。

兄や姉から言わせれば、一番甘やかされていたのは俺だというけれどその実感がないと云うか良く分からないでいたのかも知れない、今になってそう思う。



兄や叔母さん達が帰った後に、梶ちゃん達が帰ってきた。

家の兄姉たちとはまた違う賑やかさかで、これが姉妹の姦しさと云うやつなのか!と高崎君と二人で口も出せない状態だった。


「関矢さん、どうでした姉の料理、上手ですよね。私はお母さんから習う事が出来なかったから姉に習わないといけないんです。いつもお母さんはお姉ちゃんとばかり料理をしていて、私、嫉妬した事が有るんですよ。私もお母さんに教わりたいって」


「へぇ美咲ちゃんが、そうなんだぁ。でも梶ちゃんから見ればさ、いつも私ばかりやらされてって思ってたんじゃないの」


「そうなんだよね、其処が分かりづらい所なんだよね。多分、お母さんはいつも甘えている美咲は嫁には早く行かないとばかり思ってたんじゃないかな。私の場合はさ、お兄ちゃんが後を継がないと分かっていたから。多分、婿を取って後を継がせたかった見たいな所が有ったんだと思うよ」


「そうかなぁ、私そんなに甘えていた記憶はないんだけど、うぅ~ん分かんない」

 

「美咲はさぁ、いつもお母さんの後ばっかり追いかけて、怒られるとお父さんに抱っこされては泣き止んで、本当に得してたわよ。姉何て怒られてばかりで誰も面倒見てくれないんだからぁ。お兄ちゃんもお父さんに可愛がられていたしね、本当に損な役目だったわ」


「ねぇ関矢さんはどうだったの、お兄さんやお姉さんに嫉妬なんかした事あるの?二人とも凄いもんね、其れにご両親もだけど」


「そうだね、凄すぎて太刀打ち出来ないと知ってからもう逃げてばかりだったよ。だから全然違う道を歩きたかったんだ。でも全部掌の上で遊ばれてたんだよね、これがさ。其れでも一生懸命やってきて良かったと思っているよ。少しは親父達に近づけているのかって目標が何時も有って、其れがあってこそ頑張れるんだよね」


「本当にそうだよね、私だってお父さんやお母さんには勝てないし、いつも前向きに考えて行かなければ追いつけないよね。其れほど親ってすごいよね、美咲も頑張ってね」


「何それ、お姉ちゃんて本当にいつもそうやって私に振るんだから、私だって頑張ってんだよ」


「そうだよね、美咲ちゃんは頑張ってんだよね。梶ちゃんが悪いよ、その言い方は。でも美咲ちゃん頑張って努力してもさ、一人じゃ中々頑張りきれないよね。先生がいないとさ!分からない所だって沢山出てくるでしょう」


「関矢君何言ってんの、私が悪いの!だって美咲料理覚える気が無いんだもの。一緒に住んでいた時だって包丁さえ持とうとしなかったんだから」


「だって、お姉ちゃんの作る料理って凄く美味しんだもの。本当だよ、修ちゃん。すっごく美味しんだから」


「うん、そうだね。美咲ちゃんの言う通り、梶ちゃんの料理はおいしいよね・・だったら美咲ちゃんは梶ちゃんに料理を教わればいいんだよ」


「すごい、関矢さん私の思っていること分かってるぅ。お姉ちゃんお願い、私に料理教えて・・・教えてください」


「梶ちゃん、教えてあげれば、其処でポカンとしている美咲ちゃんの旦那さんのためにも。毎週土曜日午後からタッパウェア持参で、材料代千円で指導料は梶ちゃんへの出産までの協力と云う事で手を打とうか」


「分かりました。本当にしょうがないんだから美咲は、修二君は良いの?毎週土曜日だよ、来れる?」


「はい、義姉さんの美味しい料理が食べられるのなら、美咲ちゃん共々夫婦で協力させて頂きます。美咲ちゃん頑張って覚えてよね」


梶谷家の姉妹の仲が良いのか分からないけど、この二人の会話を聞きながら俺自身が悩んでいたことが分かったような気がした。

 俺はもしかして兄さんや姉さんに対して嫉妬していたのかも知れない、そして僻んでいたのかも、だから余計に親父やお袋の元を離れたがっていた、そう思うと事故は切っ掛けだったのだろうか?今となっては自分でも分からないのだから不思議だ。


この二人にはきっと蟠り等はないのだろう、そう思いながら二人の会話を楽しむのも良いもんだと思っている俺だった。


「美咲、もう帰らないといけないんじゃないの、ねぇ修二君も遅くなっちゃうよ」


「えっ帰るの、何なら泊って行けば。美咲ちゃんだって久しぶりにお姉さんと話もしたいだろうから、俺は構わないよ。布団ならこっちにある奴を出してあげるし…でも修二君は俺のほうに寝てもらうけどね」


「関矢さん良いの、泊っても!おねえちゃん今晩泊る事にする、ネッ一緒に久しぶりに寝ようよ。それに、ちょっと聞きたいこともあるしさ」


「えぇっ関矢君本当に良いの、だって修二君とは結婚式以来じゃないの。それに・・・・でも大家さんが良いって云うのなら甘えてみても良いかな」


「梶ちゃん俺なら大丈夫だよ、お正月だし良いんじゃないの。此れから赤ちゃんが産まれれば環境も変わるんだから、今だけかも知れないよ」


「そうだね、関矢君ありがとう。それじゃ甘えさせてもらうね」





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