第十七話 融 和・・・・・五十日祭





 秀樹兄さんと隆義兄さんが突然やってきて、親父の五十日祭を年内に行いたいけどどうだろうと言ってきた。

 来年初めに予定している五十日祭を年内中に終わらせて、春の彼岸を百日祭にあてればそんなに人が集まらなくて良いだろうし、梶谷さんの体の事や赤ちゃんが生まれて神経質になってる所に人が集まってイライラさせるより、少し日にちが立っていれば神経質にならないだろうと、裕子義姉さんや純姉さんの意見が出てると云うのだ。


 五十日祭は親族だけの集まりだし、宮司さんの話では五十日祭が終わって初めて親父は常立之命と云う家族を守る神様になるらしい、其れまではどこに行くのかさえ決まっていないで魂がその辺をフラフラしているよ、と笑いながら話していた。。

 だから葬祭の儀の時もそうだったが柏手は偲び手で音を立てないようにしていたけれど、五十日祭が終われば家族を守る神様になるので通常の柏手になると云う事なのだ。


 早速、宮司さんや叔父さん達に話を進めて五十日祭を年内中にやる事を決め、葬祭会社にも連絡をして準備を進めていく事になった。

 葬祭時に宮司さんから預かっている大給に使う榊は毎日水を変えて百日祭までは枯らさないようにと言われているけれど、俺は気を使って保管しているので何も問題は無いように思えるが、其れから直会の儀をどうするかで迷っていた。


 葬祭の時の直会の儀を行った武蔵魚屋さんの仕出し会場が開いているかどうかによって、場所をこの家にしなければならない。

 早速電話押してみると、案の定思った通りで各地区内の忘年会がもう既に入っていて仕出しは出来るが部屋開いていないとの返事が来た。


 それではまた地区の人に手伝って貰わなくなってしまうかもと考えていると、梶ちゃんから私と妹が手伝うから気兼ねなく行ってくださいって声を頂いて、十二月の二十七日に執り行う事が決まり、此れで二十八日には末広がりの吉日として年末を迎える事が出来る。


 十二月の中旬に、梶ちゃんの妹の美咲ちゃんの結婚式が行われ、美咲ちゃんからお姉ちゃんと私の友達として出席して欲しいと頼まれ梶ちゃんの隣に、そう梶ちゃんのお兄さんである護さん夫婦と子供たちの所に俺も座って祝福をしているのだ。

 梶ちゃんのお兄さんの護さんとは高校生の時以来で、当時、高等学校の先生をしていたのを思い出す。


 お兄さんから梶ちゃんの今回の事や、妹である美咲ちゃんの結婚式に来てくれたお礼を言われてしまい、もうタジタジで俺は返す言葉が(俺、何を言えばいいの?)浮かばなかった。


 白い純白のウエディングドレスから、今度は角隠しを付けた着物に着替えた美咲ちゃん、多分、梶ちゃんも亡くなってしまった彼と同じように結婚式を挙げていたんだろうなと思うと、ちょっと複雑な感じで・・・羨ましそうに見て居る梶ちゃんを見ているのが辛かった。

 

 キャンドルサービスで各テーブルを回る美咲ちゃんの姿、そして俺たちが居るテーブルにも「お姉ちゃん有難う、護お兄ちゃん今日迄見守ってくれて有難う御座います。関矢さん今日は無理言って御免なさい、お姉ちゃんを頼みますね」って頼みますって言われても、だめだよお兄さん頷いちゃ困るって・・・アタフタしている俺でした。

 


 無事に美咲ちゃんの結婚式も終わり、親父の五十日祭へと準備が着々と進み、そして当日を迎える事が出来た。

 

 秋江おばさんや伯父さん達が集まり出して、朝の十時には宮司さんも家にやってきた。

 五十日祭は合祀祭とも呼ばれ、封がされていた神棚に親父の位牌を移す儀式でもあり、親父が俺たち兄姉弟を守護してくれるように祀る際事なのだそうだ。


 家の中での祭祀が終わると皆で山の中の一族の墓所に向かい、お袋と親父が眠っている墓前で宮司さんが祝詞を上げて五十日祭が終了した。

 家に戻ると梶ちゃんと美咲ちゃん夫婦が来ていて、すでに到着していた仕出しの配膳が行われていたのには驚いている俺達。

 

 朝から秋江おばさんと純姉さんや裕子義姉さん、そして梶ちゃんで煮物や蒸し物と云う豆おこわを造っていたので、思いのほか早く配膳が出来たようだ。


「梶ちゃんはこの地区の葬祭の出し物なんて分かんないよね、基本は蒸し物・これは豆おこわで昨日からもち米と豆を水につけておいたから蒸し器で三~四十分蒸せば出来上がるから。其れと油揚げの煮物と車麩の煮物、里芋の煮物、漬物、けんちん汁、うどん、此れだけは作るのよ、刺身や揚げ物、焼き物は仕出し屋さんが持ってくるから並べるだけね」

 

「油揚げや車麩って家のほうじゃ出しませんでしたけど、珍しいですよね」


「油揚げは油抜きしてから甘辛く煮て、そして笊で汁気を取ってから重ねて軽く絞ってまた汁気を取って、十枚重ねて三等分ね。車麩も水で戻してから形を崩さないように絞って、油揚げよりは薄い味付で煮て、油揚げの時と同じように笊で汁気を取って、さらに盛る前にまた絞って出すのよ。これは一張羅を汚さないようにする為のなのよ、面白いでしょう。さらに盛ってみると分かんだけど汁気が有っても皿に煮汁が出ないように絞るのよ、これが難しいの」


 「へぇ、服を汚さない為ですか、其れで後はけんちん汁とかうどんとか、すぐに食べられる物何ですね、面白いです」


「この絞り方が出来ないと姑さんから怒られんだわ、私も梶ちゃんの近くの道場口出身なのよ。嫁いできた時には知んなくてさ、よく怒られたんだわ。今ならすぐに離婚しちゃうけど私の時には出来なかった((笑))。其れにこの辺は元農家の人ばっかしでしょ、礼服や白いYシャツなんて滅多に着ないからシミを作りたくないの。着物だともっと大変だし、それにクリーニングなんて出さないから染み抜きが出来ないんだわ」


「すごく合理的なんですね、昔の人の知恵ってすごく勉強になります」


 直会の儀が始まって、話の中で宮司さんから親父に世話になった話とか、お袋の学校の先生だった時の話が出て、俺には少し肩身が狭かった。

 それに親戚一同の中で、親戚の伯父さんや叔母さん達も初めて会う梶ちゃん達に気になりだしていた。


「関矢の小父さんや小母さんには私達がどれだけお世話になったか、解散しそうだった婦人会も今はスミレ会に変わって子供達も参加できるようになったし、小母さんが亡くなるまでは勉強会も有ったしね。それに小父さんは此の辺の纏め役で、困った時には皆、小父さん頼りで本当に助かってたんだわ」


「そう言えば、梶ちゃんと浩史はどんな関係なの?誰も知らないんだわな、ちゃんと説明して欲しいんだけど、そっちの妹さんも今日が初めてだよな」


「梶ちゃん、梶谷美由紀さんは、馬場口にあった梶谷造園の娘さんで俺の同級生、そして純姉さんの洋裁学校の生徒さんだったの。そしてこっちは梶ちゃんの妹の美咲ちゃんて言って、先週結婚したばかりで、こっちは旦那さんの高崎君で市役所に勤務してるから。梶ちゃんと同じで、出身は機織町だったよね」


「関矢正雄さん、関隆正さん、私のこと分かりません??私ですよ、西山病院の受付の梶谷です。二人とも食べ過ぎ飲み過ぎは血圧にいけないんじゃないですか?先生に話しちゃいますよぉ」


「ゥン、あぁ分かった今思い出したぞ、今日は眼鏡かけてるし髪の毛縛って居ねぇから分かんなかったよ。そうか、受付の梶谷さんが妹さんか、ごめんな!いつも世話んなってんのに。そうかそうか、其れは悪かった。今日はありがとうな」


「いやぁビックリだわぁ、そうけぇ、梶谷造園の娘さんけぇ、親父っさん事故で亡くしたんだよなぁ、確か母ちゃんを病気で亡くしてから直ぐだったぺなぁ。息子さんは確か学校の先生だったけ、確か造園辞めたと聞いてんぞ」


「はい、母を亡くして翌年に父が事故に遭って兄も大変だったと思います。私たちは何にも出来なくて・・・・其れで会社は解散して、植木や石などは現場監督さんたちに退職金代わりに全部上げて終わりにしたんです」

 

「それで、今年の八月の終わりに俺が帰ってきて、親父とスーパー川西で買い物をしていた時に偶然に可笑しな再会をしたって訳。其れから、梶ちゃんのお腹の子供は俺の子じゃないからね」

 

「私のお腹の子の父親は皆さんも聞いたことはあると思いますが、今年の三月に水戸から大洗にかけての道で深夜に交通事故に遭って亡くなってしまいました。私も三か月間入院していたんですが、私だけが助かって・・・・其れでもこの子を一人で産もうと決めて困っていた時に関矢君と出会って、純さんからこの家に住まないかって誘われて!とても有り難かったです」


「親父がさぁ、浩史に内緒でこの家の改築をしろって言ってきて。そんで純が責任持つというし、其れで借りて貰ってるという訳なんだわ。梶谷さんは俺も親父もお袋も、そして浩史の友達でもあるし。此れから皆さんにも世話になると思うけど、俺たちの事見守ってください」


「浩介が言ってんなら確かなんだろうし、其れには誰も文句も何も言わせねぇよ。安心して一緒にやって行けばいいんだから。浩史、ちゃんと面倒見てやれよ。その前に、お前え変なことすんなよ」

 

「なっ何を言ってんだよ伯父さん、秋江叔母さんから何か言ってよ。俺はいたって真面目んだから、ねぇ叔母さん」


「あらっそうだっけ、真面目過ぎて今だに結婚できなかったんじゃないの。ねぇ梶ちゃんそうだよね」


「いやっ其れを私に振られても・・・・そうなの関矢君?」


「なに二人とも顔真っ赤にして、揶揄うと面白れぇなこの二人は、これなら大丈夫だわ」

 

「あっはははは、本当だわウッフフフ」


 集まった皆から梶ちゃんと美咲ちゃん達に、関矢家と改めて新しい付き合いをお願いすると共に浩史の事って??・・・俺の事を頼んでいる事に梶ちゃんが思わず笑いだしてしまって、其れにつられて皆も笑っている。

 それにしたって、いったいなんで俺の事を梶ちゃん達に頼むの?俺としてはそこが知りたかったけど、皆が楽しんでくれていればそれで良いと思っている俺だった。


 そして梶ちゃんは年末から産休に入って、新しい年を俺と一緒に迎える事になった。



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