ー合宿③ー

 夜19時頃、我が家では丁度夕食の時間に当たる。


勿論、泊まりに来ている蓮と学にも母さんが手料理を振舞っていた。


「今日の夕飯は豪華ね、合宿終わるまではきっと豪華よ!」


既に仕事を終え帰宅していた姉ちゃんがそう言って喜んでいる。


「それにしても、桜井君だっけ?君確かに見るからに勉強苦手そうだもんね。」


なんて失礼なことを言っているが、言われた学はヘラヘラ笑って気にしている素振りもない。


「そして蓮!あんたイケメンになったね~、彼女とか居るの?」

「中学の頃は居たけど、今は居ないよ。」

「はぁ、そういえば蓮って彗の弟だもんね、そりゃイケメンにもなるか!」


 蓮の兄である彗と姉ちゃんも同級生なのである。

勿論、当時蓮の兄である彗がいかにモテるのかを聞いてた事があるので、

同じ遺伝子で構成されている蓮がそうなってもなんら不思議はなかった。


 蓮自体、俺の家に泊まりに来るのは4年振り位なので姉ちゃんも若干嬉しそうではある。


「莉子姉ちゃんは相変わらずだね」


そう言って笑う蓮は、確かにイケメンだなぁと見惚れてしまった。


「なんだと!彗と同い年なんだから立派な社会人だわ!」

「あ、それと桜井君は別のジャンルでちゃんとイケメンだからね!」


姉ちゃんの意味不明のフォローを聞きつつ、テーブルに並べられた豪華な食事をみんなで囲んだ。



 食後に、自室に蓮はコーヒー、俺と学はカフェオレを持ち運び早速勉強の準備に取り掛かった。


「えっと、ちょうど8時だから今から9時までは数学1、9時から10時までは現国ね」


そーっと学ぶの方を覗き見ると(マジかよ・・・)という表情をしている。

こんなの序の口だよと言いかけようとしたところで蓮がさらに続ける


「10時から11時までは英語の単語学習にしよう、まずは単語が読めないと英文理解できないからね。」

「2人には大体数ページ範囲を指定しておくから、3時間しっかり勉強してね?その間に俺は小問題作っておくから11時から12時までテストやって今日は終わりにしよう」


隣で青ざめていく学の様子を見ながら、まぁ、そうなるよなと思った。

むしろページ数の指定をしてくれるなんて初日だからちょっと優しいくらいだ。


蓮が本気にならテスト範囲全部から問題を出すし、どこから出すかなんて教えてすら貰えない。


「学、これでも蓮にしては優しい方だぞ・・・」


小声でつぶやいて聞かせると


「これで優しいってアイツが本気になったら俺らどーなっちゃうんだよ・・・」

「全教科全範囲のテスト問題作られてるよ。」

「アイツ、本当になんで俺らと同じ学校なんか来たんだよ・・・」


お互いに愚痴を言い合っているのを蓮が横目でちらりと見ている。

勿論、絶対聞こえているに違いない。


「初日だからって優しくしすぎた僕が悪いかな・・・?」

「滅相もございません!!」

「そんなことありません!!」


思わず僕も学も敬語で返答してしまった。




無事に蓮のスケジュールを完遂した頃には12時を少し回った所だった。

勿論、俺と学はぐったりしていてるがその横で蓮は採点をしている所だった。


「うーん、やっぱり君たちの苦手な部分がなんとなく見えたから、明日からはそこを重点的にやっていこう」

「はーい」

「うぇーい」


学は最早返事にすら気力がこもっていなかった。

そりゃそうだ。

1時間毎に教科が変わりしかも休憩というシステムが導入されていなかったのである。


「ねぇ、蓮。ちょっと休憩がしたいんだけど・・・」


と声はかけてみた。

しかし返事は非常に残酷で


「うん、その場で両腕上げて伸びをしてごらん?はい、続けてね。」


鬼である、ここにいるのは勉強の鬼なのだ。



「2人ともそろそろ寝る準備しようと思うんだけど・・・」


俺の部屋には、シングルベッドが一つある。

あとは勉強していたテーブルを片せば布団を二組敷くのに問題はないだろう。


「布団嫌なら、俺のベッドで寝ていいから言って。」

「あ、俺かなり寝相悪いからベッドの方がいいかも。」

「落っこちてくるなよ、じゃあ俺と蓮が布団で寝るよ。」


そう笑いながら学に告げ、蓮と2人で1階の客間に布団を取りに行った。

丁度天気も良かった為、気を利かせた母が天日干ししてくれていたので良い匂いがする。


 ちょうどテーブルを片してくれていた学にお礼を述べ二人で布団を敷いた。


「なんか修学旅行みたいだな!」

「あー、あの時も僕と蓮隣通しだったもんね。」


当時の楽しかった思い出が蘇ってくる。


「それにしても今日は本当に疲れた。」

「明日からは、もう少しハードだから気合入れてね」

「学、俺の布団に潜り込んで変なことすんなよ!」

「っ!馬鹿じゃねーの!!」

「僕たちは仲良く並んで寝ようじゃないか。」


疲れてる中でも和気あいあいと楽しめているこの状況に俺は満足している。

蓮と同じ学校でよかったと心底思っている。


「んじゃー、電気消すよー。」


2人にそう声をかけると、各々布団の中に潜り込んでいった。

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