ー合宿②ー

 朔からの情報によると、蓮のスパルタは本当にスパルタらしい。

今更ながら合宿に参加すると言ってしまった自分を殴ってやりたい気持ちだ。


「えーっと、教科書とノートと着替えくらいか・・・。」


そう言って準備していると玄関の方が騒がしくなっている事に気付いた


「ただいまーーーー!!!」


妹の玲奈のご帰還だ。

花の中学生、良くも悪くも思春期なお年頃の妹である。

自室から出て吹き抜けの階段から下を見下ろし妹に声をかける


「玲奈、兄ちゃん今日から友達の家で勉強合宿してくるから日曜の夜まで帰らない予定」

「え!?兄ちゃんが勉強するの!?マジで!?」

「高校生になるとな、赤点というやつがあるらしい。」

「待って、お兄ちゃんそれ知らなかったの?」

「うん、全く知らなかったからとっても焦ってる。」

「きゃはは、お馬鹿なお兄ちゃんですね~」


妹でありながら兄を馬鹿にするのは些かどうかとも思うが仰る通り。

階段を登りながら俺に近づきつつ話す玲奈


「友達って朔先輩?」

「そうそう、朔ともう1人高校に入ってから出来た一条蓮って奴」

「ん?一条・・・?もしかして隣の市に住んでる一条さん?」

「そうだけど、知り合いか?」

「その人多分弟居ると思う、こう君って子。あとめちゃくちゃ頭良い人じゃない?」

「おう、首席入学で新入生代表やってたぞ。」

「塾のグループでいっつも1番取ってた有名人だよ!弟君も頭良いけどね。」


妹の玲奈は俺とは違って高校受験に向けて中1から学習塾に通っている。

なので、そんな情報を持っているのだろう。


「弟君は、同級生なんだよねー。そんな人に教えて貰えるなんて光栄だね!」


そう声をかけながら自室に入っていく妹。

それを見届け再度自室に戻り準備をする。


(蓮って実はウチの高校なんか来なくてもよいくらい頭いいんじゃねーか・・・。)


カバンに荷物を詰め込みながらそう考える。

でも、きっと蓮には宮ノ森に来なきゃならない理由があった・・・。


(自宅から近いから・・・?いや、もっと近い所はあるだろうし・・・。)


うーん、と首をひねる。

特段、進学率も普通のわが校にわざわざ秀才が入学してくる意味なんてないのだ。

はっきりいえば、妹の通う塾はかなり大規模のグループ塾であり、CMなんかもやってる。

その点で言えば、そんな所で1番を取れるという事は、相当頭が良いってことだ。

そしてあの日のあの言葉を思い出す。


「僕ね、朔也とキスしたよ。」


そうなのだ、最初っから蓮は朔と同じ高校に行く為に、わざわざ宮ノ森にやってきたのだ。


(たまんねーな・・・)


ははっと乾いた笑いが口から洩れる。

とんでもない秀才が、たかが朔の為だけに学校を選んだんだ。

そして、あの日の意味深な言葉。


「僕は、3年間我慢してきたんだ。もう我慢はしないよ。」


要するにあれは、俺に対しての宣戦布告だったのだ。

そして、あのキスシーンを見た時の自分の感情が蘇ってくる。

焦り、怒り、妬み、憎悪・・・全て嫉妬なのだ。


蓮が現れなければ、きっと一生気が付かなかったであろう。

手に持っていた教科書を数冊床に落として頭を抱えた。


「お、俺も朔が好きって事か・・・!!?」


キスしてみたいか・・・してみたい。

あの唇に触れたらどんな感触がするのだろう。

あのサラサラの髪はどんな匂いがするのだろう。

あの俺よりも小さな体を抱きしめたらどんな感じなのだろう。

そんな事が頭の中を駆け巡る。


部屋に夕日が差し込んでいるから鏡に映る俺は真っ赤な顔をしてるだけだ。

否、そうじゃない事は自分が一番よくわかっている。


「朔・・・可愛すぎんだよお前は・・・。」


そこらの女子に負けないくらいの女顔。

あまり日焼けしないせいか白い肌。

自覚し始めたら止まらなくなっていく。


鼓動がドクドクと脈打つのが全身に響き部屋中に俺の心音が鳴り響いてるようだ。


「蓮の野郎・・・」


今更言っても仕方ない。

自覚してしまった以上は、もうそれ以外の事は考えられない。

俺は、とても不器用だし多分隠す事も出来ない、もう朔への気持ちは駄々洩れ状態になるであろう。


「合宿、行くなんて言わなきゃよかったけど・・・蓮と2人きりにさせるのはもっと嫌だ!」


そう決意して、荷物の最終確認をしてから、一旦この気持ちを抑えるためにもシャワーを浴びてから朔の家に向かうことにした。

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