ー勉強ー

 初夏の風を感じ始めた5月。

定期テストの時期がやってきた。

定期テスト、きっとみんなが嫌がっているものだろう。

テストなんかしなくていいのに。


「あーあ、入学して1か月でテストって信じらんない。」


机に突っ伏してそう呟く俺に蓮が近づいてきた。


「朔也は一夜漬けばっかりするからダメなんだよ。」

「蓮は頭が良いからいいのー。高校からは赤点あるじゃんかー。俺自信ないんだよね。」


「あ、赤点なんてあるのか?!」

学が焦った様子で近づいてきながら問いかけてきた。


「学、知らなかったの?赤点取ったら追試あるしなんなら放課後は補習授業だよ。」

「学って見た目通り頭もちょっと悪いのかな?」

「蓮は黙っとけ!」


最近、ちょくちょくこういうやり取りを目にするようになった。

蓮が学をおちょくるのだ。

本当に些細なことでもおちょくるのだ。

そして、それに対して学もそこまでの嫌悪感を持ってなさそうなのが不思議だった。


「なんか、最近2人仲良くなった気がする。」


俺の知らないところで2人が仲良くしてくれるのは嬉し半面ちょっと寂しい。


「朔也がいるから、仲良くなれたんだから、朔也以上に仲良くはならないよ」


クスクスと笑う蓮。


「俺もそこは蓮と同意見だ。朔以上に仲良くなる奴なんかいない。」


この2人はなんなのだろうかと思いながらやり取りを見つめる。


「でも、2人とも来週にはもうテストだよ?」

「うーん、そうなんだけどさ、俺理系苦手なんだよ・・・。」

「朔也は理系か!俺文系がダメなんだよ・・・。」

「君たち、赤点取らない自信ある・・・?」


不安げに聞いてくる蓮。


「あるわけないだろ!!」

「あるわけないよ!」


俺と学の声がはもった。

蓮は目を丸くしてびっくりした顔をしている。


「あはは、そんな自信満々に言う事じゃないよ」


腹を抱えて笑っている蓮。

そりゃそうだ、君は入試1位な訳で、今だって周りの女子がチラチラと蓮を見ている。

いや、もしかしたら学の方かもしれない。

入学して1か月、どうやら2人は女子に人気があるようで、事ある毎に話しかけられている場面を見かける。

大抵、俺が通りかかったりすると「朔!」と呼び止めたりするもんだから女子から俺は嫌われてるだろう。


「それじゃあ、今週末、テスト合宿を行うことにする!」


突然の蓮の宣言に俺は目をパチクリさせた。


「僕が朔也の家に泊まってもいいかな?僕基本的にどの教科も満遍なく出来るから。」

「教えてくれんの!?是非!姉ちゃんも久々に蓮に会えたら喜ぶよ!」


蓮の提案をすんなり受け入れる俺。


「じゃあ、俺も朔の家に泊まりに行く。」


突如、学もそういい始めた。

幸い、うちは来客用の布団はあるし、最悪俺が他の所で寝れば済むので2人が泊まりに来るのは全然問題ない。


「蓮とのお泊りなんて小学校以来だな!学とは初めてだな。」

「え、蓮って朔の家泊まったことあんの?」

「夏休みなんかは、よく連泊したよね?朔也。」

「そうそう、夏休みの宿題でな、あはは。」


そうだった、夏休みの宿題が終わらない俺は当時蓮に泣きついて自宅に何日か泊まってもらった事がある。

勿論、宿題を写させてくれるような奴ではないので教えてもらいながら問題集を説いた思い出が蘇る。


「なんか、思い出したら胃が痛くなってきた・・・。」


ふふっと笑いながら蓮が


「あの時よりは優しく教えるよ」


と答えてくれた。

そうなのだ、蓮はめちゃくちゃスパルタなのだ・・・。

半べそかきながら問題集を解いてた記憶も蘇り頭痛までしてきた。

それをみた学が凄く不安そうな顔をしている


「学、蓮は教えるのうまいんだけどめちゃくちゃスパルタだから覚悟した方がいいよ。」

「そ、そうなの・・・?」


俺と学は目を合わせてから蓮に視線を移した。

物凄い満面の笑みを浮かべた蓮がそこには立っていた・・・。

最早、その笑顔さえ怖すぎるのである。


「それでは、今週末は朔也の家でテスト合宿。教科は現国・数1・数a・英語・理科・社会・・・あと必要な教科ある?」


俺と学は再度目を合わせ


「いいえ、それだけで結構です・・・。」


と2人で小さな声を合わせて伝えるだけで精一杯だった。

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