ー宣言ー
「じゃあ、蓮、駅まで送ってくから後ろ乗れよ。」
そう声をかけると、少し驚いたように目を見開いた蓮。
ここから駅までじゃ歩くと20分はかかるだろう。
流石にそれを見捨てて帰る程、人間終わっちゃいない。
「朔也の言う事は絶対なんだね、学・・・。」
「うるせー、乗らねーなら置いてく。」
「自転車の二人乗りは、道路交通法で・・・」
「御託はいいから乗るなら乗れよ!」
「でもなぁ・・・」なんて言いながらちゃっかり後ろに乗るあたり流石というかなんというか。
蓮を後ろに乗せてペダルを漕ぎだした。
自転車なら10分程度の道のりだ。
(うーん・・・聞いてもいいものなのだろうか・・・でもなぁ・・・)
先ほど目撃した光景が頭の中い蘇る。
あれは、絶対してたよなぁ・・・。
「学、僕に聞きたい事・・・あるんでしょ?」
「え?」
「そんな雰囲気出てるから。」
ふふふっと背中で笑いながら答えた蓮。
うーん、知り合ってまだ2週間やそこらの人間に聞いていい話なのか・・・。
「当ててあげようか・・・?」
続けざまに声をかけてくる。
「このペースだと駅まで10分くらいでしょ?だいぶ貴重な10分だと僕は思うよ。」
そう言って、ふふっとまた笑ってる蓮。
確かにそうだ、学校では常に朔も一緒に居る。
蓮と二人きりになるなんて滅多にないが故にあんな事を聞けるチャンスは今しかない。
「うーん・・・。」
「僕ね、朔也とキスしたよ。」
突然の告白に、思わずペダルから足が滑った。
「なっ!」
「カーテン掛かってたけど窓が開いてたし。あのタイミングで廊下でぶつかるって事は見たから焦ったんでしょ?」
ふふっと笑いながら言う蓮。
「そりゃ、びっくりするだろ。あんなシーン見ちゃったら・・・。」
「ふーん、それだけ?」
「どういう意味だよ。」
「いや、別に深い意味はないよ。」
こいつは笑いながら俺の反応を楽しんでやがる。
そして俺を試してる。
「ねぇ、学は朔也と一番仲が良いのは自分だってずっと思ってたでしょ?自分より仲のいい奴が現れるなんて思ってもみなかったでしょ?」
図星だ。
俺は、俺以上に朔と仲の良い奴が現れるなんて思ってなかった。
中学の時も結局クラスが違っても3年間1番仲良くしていたのは俺だったから。
だから、朔から「桜井と同じくらいには仲が良い」と聞いて少し焦った。
「僕は、3年間我慢してきたんだ。もう我慢はしないよ。」
「それを俺に言ってどうするんだよ。」
「いや、特に意味がないと思っているならそれでいいよ」
「・・・。」
いや、蓮の言いたい事は理解してる。
きっとそういう意味だと思う。
これは、宣戦布告ってやつなのだ。
そうこう考えてる内に駅までたどり着いた。
「学、送ってくれてありがとう。」
そう言って自転車の後ろから降りる蓮。
まっすぐ前を向きながら、一瞬考えた後に俺は声をかけた。
「朔の1番は俺だよ。」
これが俺の答えだと言わんばかりに少し大声を出してしまったのか、周囲の視線が僕らに集まる。
夕日を浴びて逆光のせいで、蓮の表情は読み取れない。
「あはは、朔也に聞いてもいないのに?」
そう笑いながら、屈託なく笑う蓮はどこからどう見てもイケメンな野郎だ。
「そうか・・・。でも、僕も朔也の1番は僕だと思ってるから。遠慮しないよ。」
「お前の居ない3年間が俺にはある、それだけは覚えておけよ。」
「3年なんて、一生に比べたら瞬きほどの時間だよ。」
クスクス笑う蓮。
「それじゃあ、また明日。ありがとう。」
俺に背を向けながらヒラヒラと手を振って、駅の人込みに紛れて消えていく蓮を見送った。
そして俺も自宅に向かうために自転車を漕ぎだした。
(俺、何言ってんだ・・・。)
春らしい爽やかな風に吹かれながらさっきより少し軽くなったペダルを踏みながら考えた。
間違いなく蓮に触発された。
あいつ、間違いなく俺を煽ってやがる。
思い返してみろと、あのシーンを。
その時の気持ちを。
そうだ、俺は蓮に嫉妬したんだ。
それがどういう意味での嫉妬なのか、俺にはまだわからない。
でも、きっと蓮はもう理解しててその上で俺を煽ってきてる。
「なるほどな・・・。」
小さな声でつぶやいたその声は風に乗って消え去った。
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