ー類友ー

教室に戻った俺はすぐさま蓮の元へ向かった。


「蓮、ありがとう。俺の事運んでくれたんだってな!」

「もう大丈夫なのか?」

「おう、この通りピンピンしてるよ!」


そう言って腕を上に伸ばして伸びをして見せた。


「それなら良かった、ぶつけたの頭なんだから頭痛とかしたらすぐ病院行けよ?」

「当たったのはソフトボールだし大丈夫だって。」


蓮は心配症だなぁと思いつつ、少し離れたところにいる桜井にも


「桜井も、ありがとな!」


と改めてお礼を述べた。

すると、女生徒が近づいてきて声をかけてきた。


「片瀬くん、私のせいでごめんね・・・」

「いやいや、この通りピンピンしてるし、大丈夫だよ!女の子に当たった方が危ないでしょ。俺は男だしやっぱ女の子は守ってあげなくちゃね!」


そう言ってニコッと微笑むと、その子・・富田さんだったかな?も安心したのかホッとした表情をしている。



その後の授業もしっかり受けられたし、特に体調不良も感じられない。

2人には心配かけたなぁなどと思いながら放課後を迎えると


「朔也」

「朔」


と2人同時に声をかけられた。


「な、なんだよ2人揃って。ビックリすんなぁ。」


「今日は心配だから僕が家まで送ってく。」

「いや、一条は電車通学でしょ?俺は朔と同じくチャリ通だから、俺が送ってく。」

「桜井は、自分の自転車もあるのに朔の自転車はどうするつもりなの?明日、朔が学校に来るのに自転車がないんじゃ困るだろ?」

「俺が2台押して行けばいいだろ?」

「そんな事してたら朔也が倒れた時に対応できないだろう、僕が朔也の自転車を押してけばいい話だよ。」


突如目の前で2人の話し合いが始まる。


「ちょ、ちょっと2人とも落ち着けよ。」


「朔也は黙ってて。」

「朔は黙ってろ。」


要するにどちらが俺を自宅まで送り届けるのかを揉めてるようだ。

でも、俺自身なんともないし全然1人で帰れる。って言い出したいけど言い出せない。


(うーん・・・参ったなぁ・・・)


「だから、合理的に考えて僕が送る方がいいんだって。」

「駅まで戻るのが大変だろ!」

「そんな事些細な問題だよ。」


「分かったから!分かったから2人とも落ち着けって!3人で帰ればいいだろ!俺は大丈夫だけど2人とも俺が心配ってことだよな?」


不当な話し合いを終わらせるには、この方法しかないと思った。

珍しく桜井が不満げな表情を見せている。

俺の提案の何が不満なんだ?

かたや蓮は納得したようにニコニコしてる。



「・・・」

「・・・」

「・・・」


帰り道、ひたすら無言の2人。

俺すら何故か無言になってしまう。


「な、なぁ・・・なんで無言で男3人連なって歩かなきゃいけないの?」

「僕は、朔也大丈夫かなぁ?って様子を見てただけだよ?」

「俺は、別になんでもねーよ。」

「そ、そっか。蓮は、昔より心配性になったんじゃねーの?」

「そうかな?朔也は昔っから危なっかしいからいつも心配ばかりかけられてるよ」


ふふっと笑う蓮に、ホッと一安心しつつなんでか不機嫌そうな桜井が気になった。


「桜井も、わざわざ悪いな。」

「っていうかさぁ、朔に言いたいことがあるんだけど。」

「な、なに?!」

「なんで、一条の事は【蓮】って呼ぶのに俺は未だに桜井な訳?」

「は?」


今そんな事を聞くために不機嫌な顔してたのかこいつは。

っていうか、名前の呼び方なんでどうでもよくないか?!


「え、中学の時から桜井って呼んでるし・・・って今そこなの?」

「そう、そこなの。」

「じゃあ、俺がお前の事、学って呼べばいいんだな?」

「そうそう!」


ニカッと笑顔を見せるさく・・じゃなくて学。

名前の呼び方なんてどうでもいいじゃないかと思うんだが、学からしたらそうではなかったみたいだ。


「それなら、蓮も桜井じゃなくて学って呼べばいいし、学も一条じゃなくて蓮って呼べばいいじゃん!これならみんな一緒だろ!」


閃いた!と思って口に出してみた。

が、何故か2人して浮かない顔をしている。


「?なんか問題あるの?」

「いや、特に・・ないけど・・・。」

「僕は全然賛成だよ、朔也、ねぇ、学?」


蓮がニコニコ微笑むのに対して、学は苦虫を噛み潰したよう顔をしている。


「お、おう、そうだな蓮。」

「なに?学は蓮となんかあったの?」

「いや、何も無いけど・・俺って朔以外を名前で呼ばないから慣れないというか・・・」

「なんだそれ、そんなのこれから慣れてけばいい話じゃねーか、俺だって学って呼ぶのまだ慣れてねーもん!」


あははっと笑って大丈夫の意味も込めて学の肩を叩いた。


「俺と蓮は小学生の時の友達だし、さく・・じゃなくて学も蓮とは気が合うと思うぞ!なぁ、蓮?」

「うーん、中学の時の朔也は分からないけど、今の朔也を見てれば変わってないって分かるからそうかもね。」

「な?蓮もそう言ってる事だし学も気楽に行こうよ!」


もうすぐ我が家に着く、この不穏な空気を変えることが出来て俺は安心していた。


「蓮、自転車押してくれてありがとな。学も、わざわざ送ってくれてありがとう。」


2人にそう告げると、2人同時に「気にするな」と声をかけてきた。


「あっはは、2人息がピッタリ!」


微笑む蓮と違って、なんとも言えない顔をしてる学。


「2人が仲良くなってくれたら、俺はそれだけで充分嬉しいよ!」


そうつけ加え、自宅まで送って貰ったお礼を再び述べて2人と別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る