ー格差ー

宮ノ森学園の校舎はコの字型をしていた。

コの字の縦線部分が校舎の入口になっており、3階建ての建物だ。

主に縦線の部分は1〜3年生の教室に使われており上下の横線は音楽室や視聴覚室、生徒会室など特別教室に割りあてられている。


校庭はコの字型の下の部分全体に広がっており、保健室はちょうどコの字型の下の部分の端にある。

そして、コの字型に合わせて約2m程の低木が行儀よく並べられている。

1階に保健室・反省室・校長室・職員室の順に角から順に並んでいて、校庭から校舎に入るにはそこを通り抜けて行かなければならない。


体力測定が早めに終わった俺は朔の様子が気になり先生に「保健係」だと嘘をついて朔の様子を見に行こうとしていた。



(おいおい、嘘だろ・・・)


窓が開いてたのであろう、少しの風に揺らめいだカーテンの隙間から一条と朔がキスしている様子が見えた。


その瞬間脇目も振らず駆け出していた。

心の中にどす黒い感情が生まれるのを感じながらとにかく走った。

下駄箱にたどり着き、上履きに履き替えるのも面倒でそのまま保健室に向かおうとした。


ちょうど曲がり角に差し掛かった所で、一条とぶつかりそうになり立ち止まった。


「うおっ!」

「うわっ!」


同時に声をあげお互いを見る。

先に声を出したのは一条の方だった。


「あれ?桜井授業はどうしたの?チャイムはまだなってないはずだけど・・・?」

「朔の様子が気になって、早めに終わったから見に来たんだよ。」

「そうなんだ、でも咲也はまだ眠っているから、僕も先生に声をかけて戻ろうと思っていたところなんだ。」


(普通は先生を呼んでから保健室・・・順番が逆なんじゃねーの?)

俺が黙っているのが気になったのか、それとも察したのか。


「重かったから先に朔也だけ保健室に連れてったんだよ。」


出た、張り付いたような作られた笑顔。

俺はこの笑顔が好きじゃない。


「そうなんだ、でも気になるから俺は朔の所に行くよ。」

「あ、でも僕が・・・」

「俺は保健係だから、一応係としての役目があるから。」


一条の言葉を遮るように言い終える。

さっきの通り、保健係なんて嘘だ。

そんなもん、一条だってクラス委員なんだ嘘だってことは分かりきっている。


「そうか・・・じゃあ、朔也のことは桜井に任せるよ。」


目だけは決して笑っていない、背筋にゾクリとくる笑顔をされて、俺は何も言い返せなかった。そんな笑顔初めて見た。

こいつ、こんな顔もすんのかよ、いつもの品性溢れる笑顔はどうしたと聞きたくなる。


(朔也はお前に渡さない)


威嚇してるつもりなんだろう、勿論それは俺も分かってる。

多分、お互いに今、同じ事を考えている。


「お、おう。」


気圧された、完全に一条に、あいつの想いに。


「保健の先生には、僕が声掛けてくるから、朔也の方に行ってくれて構わないよ、じゃあ」


そう言い残すと職員室へ消えていった。


キスしてるシーンが頭の中で蘇る。

明らかに俺は嫉妬した、ぶん殴ってやろうかと思ったくらいだ。

俺より朔と仲の良い奴なんているわけないと思ってたし、現れるはずないと思ってた。

多分、朔は眠っていたのだろう。

だからこそ、一条は朔に手を出した。


カラカラー


保健室なドアを開け真ん中のベッドへ近づく。


「朔・・・?」


ベッドで横になっている朔は、「ううーん」と唸り声を上げて目を覚ましたようだ。


「あ・・・え、さく・・ら・・・い・・?」


どうやら状況が呑み込めて居ないようなので、掻い摘んで朔の身に起きたことを説明してやった。


「あー、なるほど。道理で頭が少しこめかみが痛いわけだ」

「頭痛とかは大丈夫か?」

「まぁ、当たったのはココだからな、痛いのはココだけ」


と右側のこめかみを指さして見せた。


「少し冷やしておくか?」

「うん、お願いしようかな。」


廊下からパタパタと足音が聞こえるので先生が来るのだろう


「あのさ、お前一条と・・・」

「ん?蓮がどうかしたのか?」

「あー、嫌、どれくらい仲良いのかなぁって」

「んー、お前と同じくらいには仲良いつもりだよ!なんでだ?」


(俺と【同じくらい】か・・・1番聞きたくない事だったな・・)

心の中で苦笑いしつつ「いや、心配してたからさ」と取ってつけたような理由を伝えた。


「それに、ここに運んだのは一条だから」

「そうなのか?後でお礼言わなきゃ・・」


(一条は、最高のお礼をもう貰ってるからする必要はねーよ)

と言いたい気持ちを抑えつつ「そうしとけ。」と伝え頭をポンポン撫でておいた。

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