ー衝動ー
さて、なぜ僕が今保健室にいるかと言うと少し時間が遡る。
僕たちにドヤ顔で自己新記録を報告してきた朔也だったが、ちょうどボール投げのテストを受けていた生徒のボールが近くにいた女子生徒に当たりそうになった。
「きゃあっ!」
「朔也!」
「朔!」
さすが瞬足、数メートル先に座り込んでいたいた女子生徒の方へ駆け寄り抱き締めるように庇ったかと思いきやボールが頭に直撃したのである。
「このっ、ノーコン野郎!」
桜井がそう怒鳴ってるのを聞きながら朔也に駆け寄ると真横から頭に直撃したせいか意識を失っていた。
力なく女生徒に寄りかかるような体制の朔也に
「か、片瀬くん、私のせいでごめんなさい・・・」
半泣きになりながら謝る女生徒。
「頭にぶつかったみたいだから、ちょっと動かさないでね」
と声をかけ、朔也の顔を覗き込む。
意識が朦朧としてるのか口を開こうとしているがそれを制止した。
「朔也、今はしゃべらなくていいから。君・・えっと富田さんだったっけ?僕が保健室に連れてくから先生に伝えておいてくれないか?」
庇ってもらった富田さんは、赤べこのように頭をカクカクと何度も頷かせ先生の元へ走り去って行った。
「さてと。」
僕より小柄な朔也だ、持ち上げるのもそう容易くない。
桜井が駆け寄ってきて「俺が・・・」といいかけたのを無視して
「保健室連れてくから」
とだけ告げて朔也を保健室に連れてきた。
しかし、保健の先生が不在のようで、ひとまず空いてるベッドに朔也を横にならせたのである。
今は静かに眠っている・・・というか気を失っているようだ。
「ホント、相変わらず無茶ばっかするなぁ」
思わず笑みがこぼれる。
寝顔が見れた事も嬉しいけどこうして2人きりになれた事も嬉しい。
桜井と3人で行動する事が多いから、入学式の日以来、2人っきりになれる機会が中々なかったのだ。
朔也は、美少年という言葉が似合う。
きっと助けて貰った富田さんは、朔也に興味が湧くに違いない。
眠っている姿も、とても愛らしい。
そう、小学生の時には気付かなかった。
朔也と違う中学に進んで初めて、朔也が居ない景色に魅力を感じない事に気が付いた。
朔也が女の子だったらどんなによかっただろうか。
中学時代にはそこそこ告白などもされたが、心に全く響かなかった。
誰かに好意を伝えるのは、すごく勇気の居る事だと思うし、相手には最大の誠意を持ってお断りさせて頂いてきた。
単純に、朔也より可愛い生物がいないのだ。
子犬のようにいつも目をキラキラ輝かせ、何事にも興味津々で全力で。
直ぐに怒ったり不機嫌になったり表情がコロコロ変わるのも実に面白い。
僕は、あんまり感情を表に出すのが得意な方ではないから、余計に朔也がキラキラ輝いて見えた。
「朔也は、男女ともに人気があるよね」
眠っている朔也に独り言のように語りかける。
いつも周りに人がいて、今もそうだ。
気が付けばクラス委員の僕よりも色んな生徒に気軽に話しかけてるし、話しかけられている。
「そこがね、昔から君の凄いところだよ。」
人を惹きつけるって言うのは持って生まれた才能だと思う。
そういう意味では、朔也は人を引きつける天才だと思う。
ちょっと抜けてる所もまた、チャームポイントになってたりする。
「朔也・・・起きてる・・・?」
スースーと規則正しい呼吸音だけが響く。
「僕はね、3年間も我慢したんだよ。」
僕の自室には幼い頃の二人の写真が飾ってある。
ぼけは、朔也が好きなんだと思う。
それは、友情としての【好き】と少し違っている気がする。
桜井が朔也に触れることが嫌だ。
他の女生徒から好意を持たれるのが嫌だ。
モヤモヤとした気持ちが僕を支配していく。
「ねぇ、朔也。僕、恋愛対象として君が好きなのかもしれない。」
目を覚まさない朔也に、ずっと独り言のように話しかけ、額にかかる前髪を手ですくった。
「朔也は、誰にも渡さない。」
僕は、眠っている朔也の唇にそっと口付けをした。
その瞬間、ハッと我に返った。
「僕は・・・何を・・・・?!」
心臓が爆発しそうな程、高鳴っている。
こんなずるい事をするような男だったのか、僕は。
いや、そんな事は最早どうでもいい。
誰にも感じたことの無い感情が身体中で渦巻いてる。
「僕・・朔也が好きなんだ・・・」
自覚した途端、自分のした行為が酷く下品に思えてきた。と、同時に3年間のご褒美ということにしてもいいんじゃないかとも思えた、実に自己中心的な考えだ。
「うーーん・・・」
目を覚ましそうな朔也の声を聞き、とりあえず保健の先生を呼びに行こうと僕は保健室をあとにした。
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