ー同類ー

入学式の時から気になってた。


一条蓮とかいう奴が、朔を見つめる視線に。

更に数日経ってみて、一条は常に朔を目で追っている事に気がついた。


クラス委員を決めた時も、朔の事を指名したのは、昔の馴染みだし見知らぬ奴とやるよりはいいだろうから一緒にやりたいのかと思ったし、俺自身面白半分で朔に副委員をやらせてみようと口添えした訳だけど。

もしかしたら、その選択は間違っていたのかもしれないと最近思い始めた。



中学の頃、初めて朔に出会った時は、今よりも更に背が低く学ランを着ていなければちょっとボーイッシュな女の子で通るレベルだった。

あとから知ったのだが、なかなか日焼けをしない体質らしく色白で大きな瞳、サラッとした黒髪はツヤツヤと輝いて見えた。

そこら辺の女子生徒よりも、女装させた朔の方がよっぽど可愛いと思う。


でも、一緒に過ごしてみると容姿に似合わず男らしい奴だと思った。

運動はよく出来るし、小さな事に気がつく気遣いのできる奴。

クラスで消しゴムが落ちてたら拾って持ち主を探すし、両手に荷物を抱えてる女子が居れば代わりに運んでやったり。

教室にゴミが落ちてれば何も言わずに拾って捨てる。

どんな育てかたされたらそんな良い奴になれるのかと思ったもんだ。

以前、少し具合が悪くて保健室に行くべきか悩んでいた俺に、周りは気付かずに居たけど朔だけは


「おい、桜井。お前、具合悪いんじゃねーか?」


と言うなりおでこをくっつけてきて


「ほら、やっぱり!保健室行くぞ。」


なんて事をやってのけたり、問答無用で俺を保健室へ連行した行った。

自分より背の低い朔に手を引かれ保健室に連れてかれ行かれる俺の姿はさぞ滑稽に見えただろう。


「片瀬、なんで気付いた?」


何気なく聞いてみた。

本当に自分ではいつも通りに過ごしてたつもりだったから、気付かれることなんてないと思ってた。


「ん?隣の席のお前がいつも授業中にペン回ししてるのに、してなかったから」


は?と思った。

そんな事で具合が悪いんじゃないかなんて思う人間がいるか?

否、大抵の人はそんなこと気にしてない。

そもそも、授業を真面目に受けとけよって話だ。

でも、それから俺は「片瀬」と呼んでいたのを「朔」と呼ぶようになり一気に仲良くなったと思っている。

いつもどこでも2人でつるんでた。

中2、3年とクラスは違ったが、休み時間にタイミングが合えば話してたし、下校も時間が大体一緒だったので放課後はいつも一緒にいた気がする。


中3の夏、進学先を決める時には朔と同じ学校に行こうと思っていた。


「朔は、どこの学校行くの?」

「うーん、色々悩んでるけどやっぱ近いから宮ノ森しか考えてない」

「ふーん。そっか。」


俺の成績は、下の中、良くて上。

宮ノ森は、進学校ではないがそこそこ普通の学力が必要とされる。

今更、内申点を良くして推薦で・・・なんて世の中甘くないことも分かってる。

これは少々勉強しないと同じ高校には行けそうにない。


そこからは、受験目前まで朔に悟られないよう必死に勉強した。

遊びに誘われれば応えるし、勉強してる素振りなんか見せず、ただひたすらに必死に毎晩遅くまで勉強したのを覚えている。

生涯、あれ以上勉強することなんてないだろう。


俺の熱心さは親の心にも感動的に移ったらしい。

【 朔と同じ学校に行きたい】ただそれしか頭になかった。


一般入試の時はとても緊張したのを覚えてる。

朔は、先に推薦での入学が決まっていたが、俺は推薦で合格できなかったのだ。

ここで落ちたら3年間は離れ離れ、必死にテスト問題と向き合い、合格発表の日に自分の受験番号を見つけた時は、あまりの嬉しさに叫び出しそうになった。


そんなこんなで、努力して俺は今、朔の隣にいる訳だが【一条蓮】だけは、最初から引っ掛かりを感じた。


初対面の時に、上から下まで舐めるように見つめられた。

同じ中学からの出身者という自己紹介をした後、一瞬だ嫌そうな顔を笑顔で隠したのを俺は見逃さなかった。


(ふーん。)


安っぽい挑発だが、俺は朔の肩に腕を回して自分の方に引き寄せて自己紹介をしてみた。

案の定、ホンの一瞬眉間に皺を寄せたがすぐさま何事もないようにまた笑顔を作って俺を見ている。

自分の知らない3年間を知っている俺の事がさぞ嫌な存在であろう。

しかし、一条は、俺と仲良くすることを選び握手を求めてきた。


多分、俺と同じ理由でこいつはここに居る。

でもきっと俺たちは気は合うと思う。

それは、「片瀬朔也」という人間のお陰というかなんというか・・・


(随分と大変な高校生活になりそうだなぁ・・・)

心の中で思いながら、何も知らず一条との久々の再会を喜ぶ朔を見つめていた。

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