ー二人ー

担任の一声で、みなが席に着いた後、明日以降の年間日程の組まれたプリントや、新しい教科書や時間割表が配られた。

選択授業の希望用紙も配られ、美術、書道、音楽と3教科の中でどれを一番楽かなぁなどと考えていた。

周りも似たようなもので、選択授業を何にするのか友達同士で相談したりしている。


「最後に、学級委員を決めるんだが・・・これは先生の一存で代表やってくれた一条にしようと思うんだが・・・」


物凄く横暴な担任だなと思いつつ蓮に視線を移すと


「僕でよければ構いませんよ」


スっと席を立ち爽やかに笑って応えた。

がその後に続く言葉に驚いた。


「副委員は、片瀬咲也くんにやってもらってもいいですか?」

「お、俺っ?!」


思わず声を上げて席を立つ。


「俺が一条に決めちゃったし、まぁ、いいんじゃないか、片瀬お前副委員やれ」


教室中の視線が俺に集まる。

確かに誰とでも仲良くなれる自信はあるけど、これまで生きてきた中で、クラス委員なんてなったことも無い、むしろ無縁で生きてきた。


「咲なら出来るよ、副委員なら大丈夫だろ」


突如聞こえた声は桜井だった。

何を口添えしているんだ、そんなもん今は要らない!

クラス中の視線が俺に集まっている。

みんな面倒ごとは避けたいというのが透けて見える、俺と視線を合わせようとしない。


「俺に務まるとは到底思えないんですけど・・・」

「大丈夫、咲也には僕の補助的なことしか頼まないつもりでいるから、そんな堅苦しく考えないでよ」


ニッコリ微笑む蓮に、うんうんと頷く担任。

声を押し殺して笑ってる桜井に(あいつ、絶対後でラーメン奢らせてやる)と心に決めつつ


「・・・わかりました、出来る限り頑張ります・・・。」


と自信なさ気にこたえ、結局引き受けることにした。

蓮は、微笑みを崩さず「ありがとう」と一言俺に声をかけ、席に座り直したのを見届け、俺も同じく席に座り直した。


(なんだって蓮の奴、俺に副委員なんてやらせんだよ、柄にもない事分かってる癖に・・・)


悪態をつきながらも、残る担任の話を聞きそして最後に言われた言葉に呆然とした。


「それじゃあ、今日はこれで終わりだが、早速だがクラス委員と副委員は残ってクラス名簿作っといてくれ」


それって担任がやることじゃないのかよ!と思わず声に出そうになるのを堪えつつ、要するに、このまま残って初仕事をしろと言うわけですか・・・

俺の明らかに不機嫌になった顔を見たのか蓮は少し離れた斜め前の方から苦笑いをして俺を見つめている。




担任の話も終わり、みんな帰り支度をしてさくさく帰って行った。

帰り際の桜井には「お前今度ラーメン奢れよな!!」と声をかけたら「俺はもんじゃでもいいぞ〜」なんて言いながらヘラヘラ笑って教室を後にして行った。


「はぁ・・・なんで蓮は俺なんかを指名したんだよ」


文句を言いつつ、担任から渡されたクラス一覧表を見ながら男女別に仕分けし五十音順に並べ直しクラス名簿を作っていた。


「咲也との3年間の溝を埋める為」

「なんだそりゃ」


俺は思わず笑ってしまった。

そんなもん、小学生の時の俺たちの仲の良さを考えたらあっという間に埋まる。

わざわざ俺を副委員に指名するほどのことでもない。


「そんな事しなくたって、俺たちの仲はすぐにまた前みたいに戻るだろう、わざわざ名指しするなよ」

「僕がどうせ面倒な仕事なら、咲也とやりたいと思ったんだ、迷惑だったならごめん」


少しシュンとする蓮を見て


「いや・・、その迷惑とかではないけどさ!俺は成績も良い訳じゃないし蓮にばかり負担かける気がして・・・」

「咲也から迷惑かけられるなんていつもの事だっただろ、今更気にするな」


そういえば、昔から蓮は特に悪いことしていないのに、俺と一緒に怒られたり、謝ってくれたり色々としてくれていた事を思い出した。


「あー・・・返す言葉もねーな・・」

「だろ?だから、まずはこのクラス名簿を処理してしまおう。」


そうは言いつつも、名簿を書いているのは蓮で、俺には特にやることが無い。

せいぜい、一覧表を眺めてコイツどんなやつなのかなぁと想像を膨らませるだけ。


「蓮は、相変わらず綺麗な字を書くな。」


名簿に目を落としながら思ったままを口にした。


「字が綺麗だと、賢そうにみえるだろ?」

「賢そうというか、お前は昔から賢いだろ」


手を休めずスラスラと名簿を書き続ける蓮。

うむ、どうやら本当に俺の出番は無さそうだ。


「そう言えば、咲也は選択授業何にするつもりなんだ?」

「んー、正直決めかねてんだよなー。楽な授業がいい」

「そう言うと思った」


視線も合わさず答える蓮に、やっぱり3年間の溝なんて感じない。


「蓮は何にするか決めてるのか?」

「僕は、1番楽そうな書道。」

「お前も結局それで選んでるじゃないか。」


お互いに声を出して笑いあった。

こういう所が、似てないようで似ている俺たちなのだ。

蓮は、器用になんでもこなしつつも、要所は抑えつつ力の抜き方を知っている。

逆に俺は、不器用で何事も猪突猛進、上手い力の抜き方が出来ないのだ。


「じゃぁ、一緒に書道にしようぜ。お前はこれ以上字がうまくなっても意味ない気がするけど。」

「あはは、朔也は少しは字が上手くなった方がいいもんね」

「たまに、心にグサっと来ること言わないでくれよ、気にしてんの!」

「よし、終わったよ、朔也。先生の所に持って行こう。」

「いや、俺は残って後片付けしとくから蓮一人で行って来いよ」

「うーん、わかった。」


教室から出ていく蓮を見送り消しゴムのカスを床に落とし、掃除用具入れから箒を取り出し教室全体を軽く掃除しておいた。


「これくらいは役に立てるな!」


一人達成感を感じていると、教室のドアが開いて蓮が戻ってきた。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。」

「俺は自転車だけど、蓮は電車か?」

「うん、自転車でもいいんだけど今日は初日だし電車出来てみたんだ」

「そっか、なら駅まで送るよ、一緒に帰ろうぜ。」

「一人で駅まで行くのはつまらないなぁと思ってたので助かるよ」


ニコッと笑う蓮に釣られて俺も笑顔になる。

それならばと、カバンに無造作に荷物を詰め込んでる後ろで何か聞こえた気がした。


「蓮、なんか言った?」

「いや、なんにも。」


二人そろって教室の窓の戸締りを確認し、最後に電気を消して教室をあとにした。

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