ー理由ー
僕の知ってる限りの
いじめられてる子が居たら助けるし、捨て犬を拾って学校裏で飼おうとした事もある。
運動会では、いつもリレーの選手に大抜擢させる程、運動神経もいい。
だが、いかんせん勉強がてんでダメ。
反対に僕自身は勉強は出来る方だと自負している、特に塾なんかに通わなくても学校の授業を聞いていれば頭に入るし、テストの点も良かった。
運動神経に関しては中の下、徒競走で1位を取る朔也とは正反対で大体3〜4位と普通の順位しか取れない。
そんな正反対に見える僕たちだったが、何故かウマがあった。
とにかくいつも一緒に遊んでいた記憶しかない。
クラスの中心的人物だった朔也の周りにはたくさんの友達がいつも居た。
放課後になれば、みんなでサッカーをしたり、野球をしたり、夏休みになればプールに虫取り、雪が積もれば朝6時に電話してきて「雪だるま作ろうぜ!」なんて誘う程の単純な奴だがみんなに慕われ好かれていた。
小学校を卒業するのと同時に、隣の市に引越しすることになった際には、「どこに居ても一生友達だかんな!」なんてクサイ
僕の憧れでもあり、1番の親友だったと思っている。
中学が変わってからの3年間、僕にも友達と呼べる人間は沢山できたが朔也程ウマの合う奴は居なかった。
思い出を美化しすぎていただけなのかもしれない、それでも、彼とすごした小学生時代は、僕にとっては宝物のような日々だった。
高校進学の際に、担任からも「もっと上の高校を狙え」と言われていた。
定期テストでは毎回学年で5番以内には入れる程に成績優秀、生徒会長なんてモノもやっていたくらいだ。
それでも僕は【宮ノ森学園】に進学するとずっと決めていた。
何せ単純な朔也の事だ、絶対に「家から近いから」なんて理由で宮ノ森学園に進学するであろう事が手に取るようにわかる。
もし、違う学校へ進学していたとしても、朔也の住んでる市内にある限り、絶対にまた再会出来ると考えていた。
いつもどこかしらに傷を作って、泥だらけになっていた朔也の笑顔を時々思い出しては、(いつか会えればいいなぁ)なんて事を考えていた。
そのたった一つの理由だけの為に、進学校へは行かずごくごく【普通】である、この宮ノ森学園に入学を決めたのである。
父と母も、兄ですら驚いてはいたが、最終的には「少しランクの低い学校で首位をとっていい大学に推薦で行きたい」という取り繕った理由に納得してくれた。
隣の市なだけあって、同じ中学からの進学者も多い。
みんな最寄りの高校と言うと、ここくらいしかないから仕方の無いことだが、それでも知った顔が幾つかあるとほっとするのも事実だ。
【新入生クラス一覧】
入学式の時、自分のクラスを確認する為、掲示板を見ていたが、僕は自分の名前よりも先に確認したい名前があった。
(1年…3組か……!「片瀬 朔也」……)
中学3年間抱いていた、たった一つの願い。
また、朔也と同じ学校に通いたいという希望が叶うどころか、クラスまでも一緒だとは…。
嬉しさに、ニヤけてしまいそうになる頬を【新入生代表】という大事な役割がある事を思い出し気持ちを切り替えた。
無事に入学式も終わり、教室に戻ると直ぐに周りに人が群がってきた。
「一条君ってどこ中出身なの?!」
「新入生代表って事は、入試1位って事?!」
いっぺんに色々な事を質問される。
「僕、隣の市から進学してきたんだ。でも昔はこの辺に住んでた事があるから小学校なら宮ノ森小だったよ」
作り笑顔の仮面を被り、周りのみんなに返事をしている横目である人物が通り過ぎるのが見えた。
「朔也!!」
思わず声を上げてしまった。
が、向こうも
「やっぱりお前だったんだな!蓮!」
と僕の名前を口にした。
思った通り、小学生の時の印象のまま変わりのない朔也を見て思わず笑みがこぼれる。
「小学校以来だな、久しぶり!朔也は変わらないな」
相変わらずクリっとした大きな瞳に、健康的な肌色、若干茶色がかった髪の色も変わらず思い出の中のままの朔也だ。
「蓮は随分かっこよくなったな。」
そう返されて、小学生の時の自分と今の自分を思い浮かべる。
眼鏡をかけていたことは変わらないが成長期に入りグンっと背が伸び、言わゆる高身長に部類される人間になった。
顔立ちに至っては、中学時代にそれなりに告白されたこともあるし、卒業式では下級生に泣かれたりもしたもんだ。
比べて朔也は僕より10cmは低いだろうか、それでもスポーツ少年という印象はかわらないままだ。
「なになに?お2人さん知り合いなの〜?」
会話に割って入ってきた人物を見る。
明らかに朔也とは正反対のチャラチャラした感じの男だ。
制服の第一ボタンを既に開け放ちネクタイも若干緩め制服を着崩しているところから見るに、あまり真面目なタイプでは無いのだろう。
「あ、俺は朔と同じ中学からの進学してきた桜井学さくらいまなぶ。よろしくな、一条!」
朔也の肩に腕を回し引き寄せる桜井という男、妙に挑発的な印象を受けたが朔也に自分以外の知り合いが居ることが不満なのだろう。
そんな安い挑発もサラッと受け流し
「そうなんだ、僕の知らない3年間の朔也を知っているんだね、是非聞かせて欲しいよ、あの頃と変わってないのか知りたいな」
と微笑んでみせる。
あくまでも、僕が感じただけであってそれは挑発では無いのかもしれない。
だが、何となく感じる雰囲気が僕と朔也の再会を喜んでいるように感じられなかった。
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