ー再会ー

教室に入ると名前の順で座席が決められていた。

桜井とは比較的近い席ではあったが周りは知らない顔ぶればかりだった。


「私、宮ノ森北中からきたの!」

「北中なんだ!私南中出身だよ〜!」


流石は女子、こういう時にコミュニケーション能力の高さがハッキリと分かる。

見ず知らずの人にも、躊躇なく話しかけ話題を広げている。

周りを観察していると1人の生徒に目が止まった。

高校生とは思えないほどしっかりとネクタイを締め本当に新入生かと思うほど見事に制服を着こなしている。

眼鏡をかけた彼は、周りの雑音も気にならないのか真っ直ぐに前だけ見つめている。

彼に比べたら、俺を含め他の男子生徒のネクタイもだらしなく感じる程に、凛とした印象を受けた。


一瞬、目が合ったかと思ったその時、教室のドアがガラッと開けられた。


「おーい、お前ら体育館で入学式始まるから行くぞー。お、新入生代表、頑張れよ〜!」


我がクラスの担任であろうまだ若そうな先生にそう声をかけられていたのは、先程目に止まった男子生徒だった。


(なるほど、新入生代表とは納得。)


心の中の呟きが声に出たのかと思った程、同じタイミングで桜井から「新入生代表とは納得出来るよな〜、彼。」と声をかけられてびっくりした。


「まぁ、あれだけピシッとしてたら、なにか特別な感じはするよな」


そう返事を返しぞろぞろとみんなに続いて体育館に向かった。


入学式での新入生代表の挨拶は、それはもう完璧で周りの女子が「ちょっと、あの子かっこよくない?!」と色めきだっていた。

だが、俺にはそれ以上に驚いた事があった。


「新入生代表、一条蓮 いちじょうれん


そう呼ばれた彼の名前に覚えがあったからだった。

教室に戻ると、一条の周りには既に女子が群がっていた。

それはそうだ、男の俺から見ても端正な顔立ちをしており身長も高く、また銀縁の眼鏡がすごくよく似合っている。

モテるのも無理はない、他の男子生徒は羨望とも嫉妬とも思える眼差しを彼に向けていた。


「朔也!!」


突然、女子の群れの中から声をかけられて少し驚いたが、やっぱりそうかと嬉しい気持ちも同時に湧き上がってきた。


「やっぱり!お前蓮だったんだな、久しぶり!」


一条蓮、小学校の時は同じ学校に通っていてよく遊んでいた。

俺と同じく毎日泥だらけになって遊んではいたが唯一違ったのは、彼は勉強がとてもよくできた。

テストなんかは100点を取れない方が珍しいくらいに。

だからこそ、彼がなぜこの高校に来たのか不思議だった。

進学率は悪くは無いが良くもない。

良くも悪くもここの学校は【普通】なんだ。

蓮だったらもっといい学校にいけただろうに。


「小学校以来だな、久しぶり!朔也は変わらないな!」


ニコッと微笑んだ顔は男の俺でもクラクラしてしまいそうなくらい飛びっきり甘い顔をしていた。


「連は、随分かっこよくなったな。」


背丈もそんなに変わらなかったはずなのに、3年の間に、人はこんなに変わるのかと思うほど、蓮は世間で言うモテる男になっていた。


「そんな事ないよ、朔也も相変わらず元気そうで何より」

「なになに?お2人知り合いなのー?」


会話に割って入ってきたのは桜井だった。


「小学校の時の友達なんだ、中学に上がる時に引っ越しちまって、俺も会うのは3年振りなんだよ!」


桜井にそう説明している間、蓮は上から下までじっくりと桜井を見つめていた。

それを察した桜井は


「あ、俺は朔と同じ中学からの進学してきた桜井学 さくらいまなぶ。よろしくな、一条!」


と俺の肩に腕を回し、俺を引き寄せる形で説明している。

眼鏡を押し上げる為に顔を下げた蓮は、ふっと顔を上げると


「そうなんだ、僕の知らない3年間の朔也を知っているんだね、是非聞かせて欲しいよ、あの頃と変わってないのか知りたいな」


と少し意地の悪い顔をしながら俺らを見つめながらそう言い放つ蓮。


「あの頃よりは成長してると思うぞ、少しは・・・」


自信なさげに答えた俺の言葉にククッと笑い声を出している蓮は俺の知っている蓮だった。


「それにしても、蓮はなんでこの高校に来たんだ、お前ならもっと上の学校行けただろう?」


思っていた疑問を素直にぶつけると蓮は少し困ったよな顔をしながら


「まぁ、こっちにも事情が色々あるんだよ」


と柔らかく微笑んだ。


「んで、桜井はいつまで俺と肩を組んでるつもりだよ、いい加減離せ」


そう声をかけると、いたずらっぽく笑う桜井は


「いつまでだってこうしてたいぜ、俺は朔が大好きだからな」


とニヤニヤしながら言い放った。

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