桜の季節の再会

十六夜皐月

ー序章ー

 春、まだ肌寒さの残るこの季節に新しい出会いと別れが訪れる。


俺は、軋むベッドから起き上がると少し背伸びをした。


「んーーさむっ。」


今日から高校生、肌寒さを感じながらも3年間着慣れた制服とは違う真新しい制服に身を包み俺は1階にあるリビングへと足を運んだ。


「母さん、姉ちゃん、おはよう。」


いつもと変わらぬ席に着き、用意されていた朝食に目を落としまずはカフェオレに口をつけた。


朔也さくやも今日から高校生かー、お姉ちゃん心配で仕事に手がつかないわ~」


ふざけた様子で声をかけてきたのは姉である莉子りこだった。

すでに成人して働いている姉は、しっかりとスーツを着こなせるくらいには立派な社会人である。


「宮ノ森学園に行くって事は、今日から私の後輩なんだから何でも言うこと聞くように!」

「姉ちゃんが卒業したのってもう何年も前の話だろ。」

「あんたね、OBを敬う気持ちを持ちなさい」


年が10も離れていれば、姉というより親心みたいなモノを感じているのかもしれない。

実際、小さい時は何かと面倒を見てくれていたのは間違いないので、俺自身も中々頭が上がらない。


先月中学校を卒業し、今月からは姉も通っていた【宮ノ森学園高等学校】へと進学した。

理由は、ただ単に自宅から一番近いから、そんな理由で姉も同じ高校を選んだらしい。

血は争えないな・・・と心の中で思いつつも、トーストを齧りながら目玉焼きを突っついた。


莉子りこ朔也さくやもそろそろ準備しないと遅れるわよ」


母にそう言われ時計をチラッと見る。

時刻は8時を少し過ぎたばかりだが、近くと言っても自転車で30分はかかる。


今日は入学式だからこの時間に家を出てもまだ十分に間に合う。

姉の莉子りこは、余裕がないと気付いたのか慌てて家を飛び出して行った。


今までは学ランだったのがブレザーの制服に変わり、上手く結べないネクタイを鏡の前で苦戦しながら何とか家を出る準備が出来た。



「流石にまだちょっと肌寒いなぁ」


自転車に乗りながらそんなことを考えていた。

途中同じ制服を着た人を何人も見かけた。

きっと同じ新入生なのだろう。

一人で歩いていたり、友達と歩いていたりと様々だ。


この辺りは、近所の中学校からの進学者も多いので顔見知りも多い。


「知ってる奴と同じクラスならいいなぁ」


春の風に吹かれながらそう小さく呟いた。



学校に着き、校舎付近の掲示板に張り出されている文字を眺める


【新入生クラス一覧】


各クラスごとに生徒の名前が五十音順、男女別に連なっている。1クラス30人程度とはいえ何クラスもあると自分の名前を見つけるのも大変だ。


(俺のクラス・・・1年3組か・・・)


【片瀬】と比較的前の方の苗字である自分の名前に感謝を覚えながら、校舎内へ入ろうとした所で声をかけられた。


「朔!今度はクラス一緒だぜ!」


同じ中学から進学してきた桜井さくらいが声をかけてきた。

自分の名前を探すばかりで友達の名前があるかなんて見もしなかったと少し反省しつつ、知り合いがいるというだけで少し心強い。


「桜井と同じクラスなら楽しくやれそうだ」


そう返事をしお互いに校舎へ向かって歩みを進めた。

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