第3話
数十メートル先で、信号が赤に変わったのを見て、スピードをゆるめた。
今すぐにでもスマートフォンを手に取って、彼の名を検索したいところだったが、ラジオから流れる曲が耳と頭を乱して、指も動かなかった。
仕事が忙しくなり、しばらく店にも行けない日が続いていた。
彼と連絡先を交換してはいたが、お互いに筆不精というか、そこまで連絡を取り合うこともなく、日々は流れた。
たまたま時間ができたある日、店に立ち寄ろうとしたら、テナントにはシャッターが下りていて、『都合により、しばらく休業します』と貼り紙がしてあった。
不思議には思ったが、とくに心配することもなく、彼には一通だけメールを送り、その日はそのまま帰宅した。
そのメールへの返信はなかった。
店の前を通りかかるだけ通りかかる日が続いたが、休業の貼り紙がはがされることも、シャッターが開いていることもなく。
そしてある日、貼り紙は『テナント募集中』に変わっていた。
彼には何通もメールを送ったが、返信がくることはなかった。
店以外で会っていた場所はいつもラブホテルか私の家かだったし、考えたら私は彼の住所も電話番号も知らなかった。
大人になって、酸いも甘いも知った気でいたのだが、こういう気持ちを味わうことは久々で、どう消化していいのかわからないまま、月日は流れていった。
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