四章 白い記憶と黒い追憶 ―14―

「ん……やっぱり、人ん家で呑むお酒は美味いねぇ」


 何か話したいことがあるのかと思っていたのに、彼女は真っ先に冷蔵庫を漁りに向かった。


「ねえ、甘いものとかないの? わたしのスウィーツは?」


 何がスウィーツだ。


 何度も上がりこんでいる先輩には、俺の家の間取りがすでに把握できているようで、難なく冷蔵庫にたどり着き、強情にも丸々一本酒瓶を取り出していた。


「“学生の懐を寒くして”呑むお酒は美味しいですか?」

「…人聞きの悪いこと言わない」


 どう見ても人聞き悪いことしてるんだけどな……。


「っていうか松本君、まだ18、9くらいでしょ。こんなもの冷蔵庫に隠して――」

「法改正されたの知らないんですか?」

「えっ……まじ?」


 本当に知らなかったようで先輩はアルコールの注がれたコップをこぼしそうになる。


「ニュースくらい見てください。そのうち知らない間に消費税が上がりますよ」

「いやぁ…わたしニュースとか見ない派だからさ……」


 その言葉にはっとする。


 しまった。つい口を滑らせてしまった。


 彼女があまりにも自然に振る舞うので、たまに目が見えていないことを忘れてしまいそうになる。


 ニュースを見ろ、なんて言葉をかけた自らの配慮のなさに嫌悪が増す。とりあえず謝まらなければ。


「先輩、その……」

「なんでツッコんでくれんの!?」


 言葉を失う。


「はあ〜〜いかんわ、松本君はん。そこは『あんたは見る眼がないやろ、なんでねーんっ』、やろ!!」


 それはアウトだろ。


 こんな先輩を心配していた自分が馬鹿らしく思え、こめかみを押さえたくなる。


「っていうか先輩、関西弁喋れないでしょう。言葉無茶苦茶ですよ」

「えぇー……これでも小さい頃は芸人目指してたんだけどなぁ…」


 盲目という同じような境遇の人と関西の人を、根こそぎ敵に回すような漫才はやらないほうがいい。



「……で、今日は何しに来たんですか」


 やっと本題に乗り込む。まあどうせ暇だったからとかそういう適当な理由だろう。


「あっ、そうだった」


 先輩は何やらバッグのなかをひっくり返して探し始める。


「あったった………はいこれ」


 そう言って手渡されたのは小さなカード。


「何ですかこれ」

「いいから、読んでみて」


 そこには赤い文字で、こう印字されていた。



『ゴースト駆除株式会社社員 : 駆除師 松本 影』

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