二章 ゴースト駆除 ―5―
カーテンが締め切られているのか、屋敷内は真っ暗だった。
スイーツに魂を売ったわたしは、さっきのことも忘れて館に見入っていた。
暗がりに反射して、鈍く輝くシャンデリア。
光といえば、朽ちたカーテンからこぼれる幾筋かの光だけだ。
わたしたちが侵入したことで床に落ちきっていたほこりが再び宙を舞い、差し込む光の筋がはっきりと見える。
暗くて屋敷内の全貌を見ることはできなかったが、ライトで前を照らすと、大きな階段がのびており、さらに奥の闇へと続いていた。
「それにしても、おっきな家ですね。こんなに広いと住んでても落ち着かないんじゃ――」
「右から俺がゴーストを追い込む。お前はそれを捕まえろ」
「え、あ先輩……」
わたしの、せめてものコミュニケーションをガン無視して、先輩はぶっきらぼうにそう言い捨てて去っていく。しかし、思い直したようにこちらに戻ってきて、
「ちゃんと捕まえろよ」
励ましなのかわたしの背中をバシッと叩き、そのまま奥へと消えてしまった。
* * *
先輩のやり方、荒っぽいんだよな……。
この前のお寺からの依頼のときだって、夜の読経中の小僧さんを押し倒して、前住職のゴーストを取っ捕まえていた。なりふり構わないあのスタンス。
祀られていた不動明王も顔負けの形相だった。
どうやら、その日はどうしても早く帰りたかったらしい。しかも後日先輩に聞いたその理由が、『観たいドラマの最終回があったから』。
今でもそんな松本先輩を見た、小僧さんたちの怯えきった表情を覚えている。クレームが来ないのが不思議なくらいだ。
「かわいそうだったな……」
そう口にして はっとする。
いけない、いけない。
首を振って、意識を目の前の仕事に引き戻す。
埃っぽい広間は相変わらず闇に包まれたままだ。
電気が通っていないわけではない。わざと明かりを付けずに、真っ暗にしているのだ。
ゴーストの特徴として、そもそも実体がないため、光に弱く、活動できない明るい場所には姿を現さない。
ちょっと強めのライトさえあれば、動きを封じることができる。
しかしゴーストたちも、警戒心なしに一箇所にとどまっているわけではない。闇雲に追っかけ回しても逃げられるだけだ。
どんなに手練の駆除師でも、上手くおびき寄せられなければ駆除はできないのだ。
それゆえ、駆除師には瞬時の計画性――つまり、決断力も必要とされる。
その点、松本先輩はゴーストを熟知しており、駆除も一人でも十分なくらいだ。……が、わたしはその真逆。
人の意見にはすぐ流されるし、優柔不断すぎて、レストランのメニューを決めるのに10分はかかる。
そんなわたしが駆除師に選ばれた。
なぜわたしだったのか。
先輩のような人を見ていると、より強くそう思ってしまう。
どう考えても、わたしには不向きなのだ。
計画性も、決断力も、……そして 心の弱さも。
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