二章 ゴースト駆除 ―4―

 わたしを誘うような冷気に近づいてく。


 窓枠に沿って残った、鋭利なガラスの細部まで見えるような距離まで来たとき、ぬっと窓の奥から何かが伸びてきた。


 大きな手だった。その手はわたしの腕をがっしりと掴み、そして、もの凄い力でわたしは窓奥の暗闇へと引きずり込まれた。


「ぅぁ……っ」


 抵抗する間もなく、体重の軽い浅野の体はふわりと宙に浮き、弧を描くように窓枠を飛び越える。


 屋敷内に入ると、急にその力が失われ、どさっと床に仰向きで体が落とされた。長年溜まりに溜まったほこりが至近距離で舞い上がる。


 げほっげほっ、と咳き込み、またほこりを吸ってしまうのが繰り返される。


 しばらく涙目になって咳をしていると、わたしの濡れた視界に、人影が映り込んだ。ゆっくりとこちらに近づいてくる―――


「何するんですか!」

「え……」

「ガラス! 窓枠の!!」


 そこには困り顔の先輩が、わたしを見下ろしていた。


「先輩が、ガラス危ないって言ったじゃないですか!」

「だから、窓枠に当たらないように引っ張った……ろ?」


 わからないといった顔でこちらを見られても困る。


 大きなため息を、首をゆっくりと振りながら強調する。


「非常識です。もし手が滑ってわたしの身体がガラスで傷だらけになってたら、どうしてくれるんですか!?」

「だって、お前、窓の前で突っ立ったままでさ――」

「あれは……ちょっと気合いを入れてたんです! そもそも何でそこから、ああなるんですか!?」

「あー、わかったワカッタ。オレガワルカッタ」

「……面倒くさそうにしてるのわかるんですからね」


 逃げるように背を向けて歩き出す先輩に、じと目を送る。今回ばかりは、松本先輩でも許さない。しばらくは口をきいてやらないんだから。


 とそんなわたしに、先輩がふと歩みを止めた。



 今度、スイーツおごる。


 ………マジですか!?

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