第7話 2本目(下書き_2)

 問題が起こったわ。


 変形するロマン武器を作っていた一族の末裔を求めて、最果ての島に行ったのだけれども、最果ての島の鍛冶師は一族とは関係ない人物だったの。


 「『ゆらめき光る果実』を火種に煮込んだ『プクプクポークの煮込み』は絶品!」って言ったら、本当に不思議そうな顔で「何の遊びだい?」って質問されてしまったわ……! 多分あれは、私の実年齢よりも小さな子を見守る眼だった。


 …………あの一族なら、最果ての島にいるだろうという思い込みから、ちょっと恥ずかしい思いをしてしまったけれど、鍛冶師には古くからこの地に住んでいる一族を探していると説明したわ。


 鍛冶師は「この島には、俗世間から距離を置きたい人間も多いからなぁ」と言いつつ、「……宿屋のばぁさんなら何か知っているかもしれない」と教えてくれたわ。


 宿屋のおばあさんに聞いた話によると、おばあさんのおばあさんがまだ「娘さん」と呼ばれる年頃だったころ、最果ての地が天空に上がる直前に、この地から去った鍛冶屋がいたそうよ。


 宿屋のおばあさんのおばあさん……ああ、長いわね…… えっと、その「娘さん」はこの地を去った鍛冶師に「ほの字」だったらしいの。


 でも、「東の地で、未知の素材を探求したい」といった鍛冶師にはついていけなかった。

 天空への移住直前ってことは、大地の汚染も相当進んでいたでしょうし、宿屋のおばあさんの話を聞く限り、「娘さん」と鍛冶師は恋人未満友達以上の関係だったようだし、難しいわよね……


 その後、「娘さん」は最果ての島で生涯を過ごしたけれど、小さなお孫さんに話せるくらいの「いい思い出」に昇華できたのでしょうね。

その小さなお孫さんは「おばあさんが、あんまりにも可愛いお顔で話してくれたから、「この地を去った鍛冶師」ときいて、おばあさんの恋の話を思い出せたの」と嬉しそうに教えてくれたわ。


ロマン武器を継承する鍛冶師の手掛かりをつかんだ私たちは、さっそくガルレア大陸のイージアに向かったわ。


 イージアの鍛冶師に「100年ほど前に移住してきた鍛冶師を知らないかしら?」と聞いてみたけれど、結果は芳しくなかったわ。

 「最近の移住者ならまだしも、100年前って、もう地元の人だろう?」って、まぁそうよね……


 100年前の鍛冶師はガルレア大陸にたどり着かなったか、もしくは大陸にはたどり着けても天空に移住できなかったんじゃないかとあきらめかけた時、右腕を大きなギプスで固めた青年と、彼を追従する無人のバイクを見かけたの。


 そして、青年は「新教会前行」の移動する床の端から地上に向けて身を投げ…… ようとして、「ビー」という甲高い警告音とともに赤いバーが出現して止められたわ。


 あまりにも自然に移動する床に乗るものだから、てっきりそのまま新教会に向かうのかと思って「バイクを操縦できなそうなケガなのに、追尾させるのはなんでかしら」と何の気なしに見ていただけだったから、そのまま端まで行ってしまってびっくりしたわ。

 まぁ、でも、そうよね。移動する床にも安全性のための機能が付いているわよね……


 目の前で青年に身投げされそうになった私たちは、当然、青年に駆け寄ったわ。


 とりあえず、手ごろなベンチに青年を案内して、落ち着くまで待った見たところ、青年はポツリポツリと事情を話してくれたわ。ただ、他人には言えない事情があるのか、端々をあいまいに濁している感じがしたわ。


 10分くらい青年の話を聞いたころかしら、「ああ…… せっかく記念すべき1024機能目を作成できたというのに……」と青年がうつむいていたわ。


 1024機能目…… まさかね。


 ちょっと、このタイミングで聞くことではないかと思ったけれど思わず、「『『ゆらめき光る果実』を火種に煮込んだ『プクプクポークの煮込み』は絶品!』って合言葉に聞き覚えはない?」と質問してしまったわ。


 そうしたら、青年はがばっと顔を上げて、「もしかして、皆さんはミグランス王朝時代に我が一族に錆取り剤をもたらしてくださった救世主様の関係者様?」と驚いた顔をすると、怒涛にしゃべりだしたの。


 立て板に水…… というか、坂道に爆流くらいの勢いで青年は話してくれたのだけれど、要点だけ書くわね。


 青年は、パルシファル王朝時代のサル―パからロマン武器を継承する一族の末裔で、自身は機械学と鍛冶を専門に身に着けたと言っていたわ。


 青年の話によると、ロマン武器は代々機能拡張を続け、いつしか人間が持ち運べる大きさではなくなったらしいの。で、「持ち運べないなら、自走させればいいじゃないか」となって、乗り物型になったそうよ。


 というか、青年を追尾していたバイクがロマン武器だったのね。バイク…… 乗り物って武器なのかしら……


 青年は「記念すべき1024機能目」を実装した翌日、バイク型のロマン武器に乗っていたところ、自損事故を起こしてしまったそうなの。幸い、命に別状はなったし、青年がケガをしたこと以外の被害はなかったそうだけど……


 青年の腕は「重いものを持ち上げたり、強い負荷や精密作業は難しいですが、おおむね日常生活がおくれる程度には回復するでしょう」という診断を受けたらしいの。鍛冶や機械いじりは精密作業もあるし、腕への負荷もかかるから、復帰するのは難しいでしょうって。


 「1024機能目を実装する際に、バイクの安全運転機能をOFFしたことを忘れて運転してしまって…… しかも、1024機能目のために連日の寝不足もありましたし…… ロマン武器のことは、今だけはちょっと隅に追いやりたいのに…… 自動追尾機能がONになっているから、バイクはカルガモのごとくついてくるし。しかも、1024機能目の実装でミスって、一度取り外さないと自動追尾機能がOFFにできず。しかし、この腕では自分では修正することも難しくて…… 八方ふさがりで困っているのです」


 青年は泣きそうな声でそう語った後、ははっと嘲笑して「だから、いっそ僕がイージアから落ちたら、ロマン武器も僕を追って地上に落ちるのかなって。失敗しちゃいましたけど……」と続けたの。微妙に上がった口角が、すごく怖かったわ。


 一瞬の静寂の後、ヘレナが「ええっと…… まずはその『自動追尾機能』がOFFにできれば、問題は改善するのかしら」と聞いたら、青年はうなずいたわ。


「そうですね。ただ、どこをいじるのかは僕が指示できますが、力加減などもあるので…… ある程度、鍛冶の心得があって、この武器を見せても問題のない方がいいですね…… そうだ! 皆さんの中に鍛冶の心得がある方はいらっしゃいませんか?」


 青年がそう言うので、私は『イシャール堂』の話を青年にしたの。




◇◇◇◇◇



「じゃあ、父さん、あとのことはお願いするわ」

「おう。また帰って来いよ。」


 エイミは、イージアで会った青年をイシャール堂に送り届け、ザオルに自動追尾機能の解除を依頼すると、エルジオンを後にした。


 青年とザオルの顔合わせの際に、ロマン武器の話題で盛り上がり、自動追尾機能を解除した後は、青年によるロマン武器解説会が開催されるという。なので、その前にサクッと自宅を後にしたのだ。


「255機能の説明に6日かかったのに、1024機能って何日かけて説明するつもりなのかしら。 ……しばらく、自宅に寄るのはやめておいたほうがいいわね」

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